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網膜投影テクノロジが変える、ロービジョン者の表現。そして新しい美術鑑賞。

2023年の夏。東京都、東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京が主催の「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」である写真作品が展示されました。

東京都、東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京が主催となり、芸術⽂化による共⽣社会の実現をめざし開催されたイベントです

盲学校の生徒さんが、自分の目で見て写真を撮る様子を写真家の池田晶紀さんがカメラに収めた「はじめて みる」という作品です。

池田晶紀さんの作品「はじめて みる」

池田晶紀さんの作品「はじめて みる」には、盲学校の生徒たちの真剣なまなざしや、見えること、見られることに感じる気恥ずかしさ、見える喜びから変化していく初々しい表情が収められています。空間全体に見える楽しさと新鮮さ、網膜投影という新しい技術で実現できる新たな可能性が表現されていました。

「最初は撮影に緊張したけれど、使い方に慣れて写真を撮るのが楽しくなった」
と言ってくれました
今まで見えづらかったものが見えた時の嬉しそうな様子が
池田さんの写真から伝わります

網膜投影カメラキットで実現できた、自分の目で撮りたいもの見る経験

「はじめて みる」の撮影時に特に印象的だったのは、盲学校に通うふたりの学生が、お互いにカメラを向け合いながら、「恥ずかしそうに」だけど「とても嬉しそうに」シャッターを切っている様子です。

お互いの顔を撮ってみたい!という事で撮影しています

目の疾患に伴うロービジョンのある彼女たちは、眼鏡やコンタクトレンズといった視力矯正器具を装着しても、視力をあげることが難しく、遠くからはお互いの顔をはっきりと見ることできません。
また見えづらさのある彼女たちは、通常のカメラでファインダーを覗いても、やはりぼやけてしまいうまく撮影することが難しかったりもします。
しかし、今回の撮影会で使用されたカメラは、いわゆる通常のカメラではありません。QDレーザとSonyが共同で開発し販売をしている、網膜投影カメラキット「DSC-HX99 RNV kit」なのです。この網膜投影カメラキットは撮っている映像を直接網膜にレーザで投影し、映像を見ることができる(正確には目のピント調整機能を使わずにピントが合った映像が網膜に投影され撮っている映像を認識できる)、まったく新しい技術を持ったカメラなのです。

初めて見る、そして表現をする楽しさ

この網膜投影カメラキットを使えば、ピントが合った状態の映像を網膜に直接投影できるため、いままで見えづらかった遠くにいる友達の顔も、校庭の向こう側も、近くで咲く花も、校内の掲示板に架けられた学校案内も、今までとは違う見え方で、初めて見ることができるのです。

遠く離れた校庭の向こう側でサッカーをする選手がカメラ越しに見えています
身近にある植物も、少し離れたところから見るととても新鮮です
いつもはもっと近づかなければ見ることが難しい文字情報です

遠くでサッカーをしている人の様子や、周りに咲く草花、身の回りにある様々な文字情報、そして家族や友達の親しみのある顔。
それはごくありふれた日常の中にある被写体かもしれませんが、彼女たちは普段とは違う見え方で、初めて見る世界を、よく観察し、集中し、楽しみながらシャッターを切っていました。

テクノロジが変えるロービジョン者の美術鑑賞

「だれもが文化でつながるサマーセッション」では、展示を見に来ていただいた多くの皆様に、レーザによる網膜投影という新しいテクノロジにより見えづらい世界を変える可能性があること、そしてこのテクノロジは見えづらさを感じている方の表現を変えることをお伝えさせていただきました。

「網膜投影カメラキット」は見えづらさを感じている方が、自分の目で見て写真を撮ることができる製品ですが、美術館での美術鑑賞方法を変える「レティッサオンハンド」という製品もあります。

見えづらさのある方は、美術館でどのように美術鑑賞を行っているか、どのような不便を感じているのでしょうか。そして網膜投影テクノロジを搭載した「レティッサオンハンド」がその不便をどのように変えていくのでしょうか。

見えづらさのあるロービジョン者が感じる美術館における不便と「レティッサオンハンド」の可能性

不便①施設全体を把握しづらい

この美術館ってどこに何があるんだろう? 
(写真撮影場所:東京都現代美術館)

美術館内の全体が視認しづらく、どこにどんな作品があるのかを理解することに難しさを感じる場面もあります。近づけば見えるものも多くありますが、遠くのものや、視認性の悪い表示は見えづらく、空間全体の把握が難しいことがあります。単眼鏡を使って見たいものにアクセスをする方法もありますが、単眼鏡は見える範囲が狭く全体を把握しづらい難しさがあります。

解消①施設の全体を把握できる。

出口はあっちにあったのか!
(写真撮影場所:東京都現代美術館)

写真に映っている手持ち型の視覚支援機器レティッサオンハンドは水平画角60度という広い視野の画像を網膜に直接投影できるため、広い施設でも全体を視認しやすく、空間全体、自分の見たい作品、鑑賞対象があるエリアの把握をスムーズに行えるのです。

不便②作品説明文(キャプション)が読みづらい

なんて書いてあるんだろう?
(写真撮影場所:東京都現代美術館)

作品を鑑賞する際にキャプションを読むことができれば、作品の意図や展示のコンセプトを理解することができ、より美術を楽しむことができます。
しかしロービジョン者はキャプションにかなり近づかなければ文字を視認することが難しい場合があり、目を近づけることができない場所にあるキャプションに読むづらさを感じています。

解消②離れた場所からでも作品説明文(キャプション)にアクセスできる

離れていてもキャプションが読みやすい!なるほどなるほど
(写真撮影場所:東京都現代美術館)

レティッサオンハンドは7倍までズームできるため細かな文字も拡大し読むことができます。少し離れた場所からでもキャプションを読むことができ、作品にたいしての理解をふかめることができます。また単眼鏡よりも広い画角でピントのあった画像を網膜に直接投影できるため、文字を読みやすいという利点もあります。

不便③作品の細かな部分や全体をはっきり見ることが難しい

近づけば見えるけど、近づくことが難しい作品もあります
近づくと作品の全体が見えづらいという難しさもあります
写真内作品:檜皮一彦「walking practice feat.HIWADROME」)

近づいて見ることが難しい作品を見る方法の一つに単眼鏡があります。しかし単眼鏡は一部を拡大して見ることには長けていますが、視野が狭いこと、わずかな手振れで見るものを見失ってしまうことから、見たい作品の全体を見ることに難しさがあります。そのため近づいて見ることが難しい作品を見る際に一部を拡大して見るか、見えづらさのある見え方しか体験することが難しいこともあります。

解消③離れた場所から作品全体も細かな部分もどちらも見ることができる

レティッサがあれば離れた場所からでも全体も、細かい部分も見ることができる!
(写真内作品:檜皮一彦「walking practice feat.HIWADROME」)

レティッサオンハンドは7倍までズームが使用でき、ピントがあった画像を網膜に直接投影できるため、離れた場所からでも作品の細かな部分を見ることができます。また水平画角60度という広い視野の画像を網膜に直接投影できるため、単眼鏡では見ることが難しかった見方で、作品の全体を見ることが可能になります。

※目の状態によって見え方には個人差があります。

ロービジョン者の新しい美術鑑賞のスタンダードを目指して

今、ほとんどの美術館には、音声ガイド機が導入されていると思います。この音声ガイド機による美術鑑賞は、作品への理解を深め、より美術鑑賞を楽しくする鑑賞方法としてもはやスタンダードになっていると感じます。
音声ガイド機と同じように、もしこの網膜投影テクノロジを搭載したレティッサもあらゆる美術館に導入され、見えづらさを感じている多くの方が自由に使用することができれば、今までの見え方よりも見やすく、自分の目で作品を見て楽しむことができる新しい美術鑑賞が実現できると考えています。
見えづらさのある方が網膜投影テクノロジを搭載したカメラで写真を撮り、自分の目で見ながら撮りたいものを撮り、新しい表現をしていくこと、
そして美術館に設置された網膜投影テクノロジを搭載した支援機器(レティッサオンハンド)を使い、展示されたあらゆる作品に自分の目でアクセスし楽しむこと、
このふたつは実現可能な未来だと信じています。

この夏お互いの顔をいつもとは違う見え方で「初めて見る」ことができた彼女たちが、あらゆる美術館であらゆる美術作品を今まで以上に楽しむことができる、そんな未来が少しでも早く訪れるようQDレーザは取り組みを進めています。皆様の応援が非常に大きな推進力となりますので、是非応援いただけましたら幸いです。