【抜き書き】フーコー『社会は防衛しなければならない』

これは全体として何を意味するかと言えば、ホッブズが描くこうした状態〔万人に対する万人の戦争のこと、引用者〕は、力同士がじかに対決するというような、自然なむき出しの状態ではまったくないということです。ひとは現実の力が直接ぶつかり合うというような関係性の次元に位置しているわけではないのです。ホッブズによる原初的な戦争状態において、遭遇し対決し交錯するのは、武器でも拳でも野蛮な激昂した力でもないのです。ホッブズの原初戦争には、戦争も血も死体もないのです。あるのは表象、意志表明、記号であり、誇張され策略にみちた虚偽の表現なのです。見かけの計略と、正反対に偽装された意志、確信のカムフラージュを施された不安があるだけです。

ミシェル・フーコー『社会は防衛しなければならない』筑摩書房、92

 するどい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?