ローカルでディープでチープな中国

『鵞鳥湖の夜』(南方车站的聚会)

  『薄氷の殺人』が非常に面白かった刁亦男監督の新作。

 チンピラ同士の抗争の結果、間違って警察を射殺してしまったちょっと憂いのある阿部寛みたいな男のまえに、別の世界をずっと見続けているような女が登場、妻は来ることができないと告げる。

 そこからフラッシュバックで、何が起こったかが語られる。そこから、女を絡めた逃走劇。話は超単純。

 とにかく映像のセンスがいい。というか、馬があう。ローカルでチープでディープな中国を使いまくる。現代的なところは一切うつさない。ジャジャンクーもそういうことをするが、こっちは馬が合わない。外国人目線と言うか、グローバルな視点からとらえようというか、なんかそういう感じがする。

 刁亦男の映像はそんな感じがしない。ひたすらローカル、ディープ、チープ。私にとっては、わりと見たことある風景ばかりなはずなのに、違って見える。なんでだろう。

 チンピラ同士の抗争も、北野武のヤクザ映画みたいに、ヤクザヤクザしていない。ものすごくしょぼいのだ。もちろん警察もしょぼい。そのしょぼさがたまらなくいいのだ。

 しょぼいわりに斬新な殺しが登場する。そこのギャップがたまらない。

 なぜか動物園で銃撃になったり、山の上に警察のヘッドライトがきらめいたりする。チープな警察の闇夜にバイクがいっせいに動くところを、上から取る。

 女主人公は、「陪泳女」と呼ばれる、船に一緒に乗る女。新手の売春である(作品中、ピンクのネオンがさかんに使われているが、そこがほんとうの売春をするところであった)。この「陪泳女」の衣装が妙におしゃれ(チープだけど)。

 阿部寛と陪泳女が最後、小舟にのる。すると霧が出る。すごいまじめにやっているのに、ぜんぜんロマンティックじゃない。笑える。シュールだ(フェラチオの描写が出てくるが、中国映画では初めてみた。直接は見えていないが、逆にエロい)。

 すべてのシーンが真面目のようなのだが、シュールでギャグっぽいのも、『薄氷の殺人』と同じ。すごいセンス。というかこの脚本なのに面白いってすごい。

 とにかく最高なのでみんな見るべし。

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