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(´ω`)3時間の恋☆彡

ずっと下を向いている僕の相棒は
四角い画面のその向こう。

時間を潰すでもなく
何気なく触っている僕みたいな人達は周りにたくさんいる
そう、今もだ。


あぁ、
今日は座れた
ここんとこずっとドアの手すりに寄りかかりながら仕事で疲れた体を預けていたから。

まぁまぁ混んでるな

僕みたいな普通のサラリーマンなんてこんなもんだよ



窓側に座れた幸運よりも
僕には携帯を見ている方が落ち着く



いつもの駅を発車してからしばらくすると
遠くからの雷鳴

時折、稲光と共に雷の轟音が近づいて来る



こりゃひと雨来そうだな



なんて外を見た瞬間
それまでパラパラと降っていた雨が

いきなりザーッと降り出した

そしてみる間に外は真っ黒い雲に覆われて
暗黒の土砂降りって言葉がぴったりになった



うわぁ、。
大丈夫かコレ?



それまで僕の乗っている列車はノロノロ運転に変わり
しまいには何もないところで止まってしまった

さすがに僕は携帯を見るのをやめ辺りを見回した


他の乗客達も困り顔


すると
車掌からのアナウンスが流れて
この雨で視界が悪く安全確認のためにしばらく停車する。との事


マジかよ…

早く帰りたいんだけど。



どうにもしようがない僕に
隣に座っている女の人がやたらチラチラ見てくる


…何だろう。
何か言いたそうだ



すると、その女の人は小さい声で


…すいません…



ん?僕に言ってる⁇



あの。すいません


じっとこっちを見ながら声を掛けられたものだから



あ、ハイ?


チョット無愛想に返事をした



えっとですね、
実は私の持ってる携帯電源切れちゃってて
今、こんな状態なんで連絡とれなくてどうしようかなあって
この先の駅で友達待たせてるんです
もし、良かったらでいいんで携帯で電話貸してくれませんか?
あ、すぐ切るんで



正直、めんどくさい。
心の本音が出そうになった

ま、
でもちょっとくらいならいいか


僕はその女の人に


友達の番号分かります?
僕押しますからそのあと出て下さい



え!いいんですか
ハイ分かります
すいませんありがとうございます



その女の人は何度も頭を下げて僕にお礼を言った



あの子出るかなぁ。
知らない番号だから出ないかも…



その女の人はぶつぶつ独り言のように呟きながら列車の天井を見上げた



僕の携帯から
ずっと呼ぶコール音が漏れて聞こえている



何度か鳴らした後、その人は電話を切った



…すいません
やっぱり知らない番号だから出ないみたいで、ご迷惑をお掛けしました。
あ、携帯ありがとうございます


そう言って
僕に携帯を返した



落ち込んだ様子。



僕はさりげなく声をかけた


あのー
何か大事な用事とかあるんですか?




今日もう一人の友達の結婚式なんです
友達グループの中で私ともう一人の友達が独身最後のメンバーで、ついに彼女に先に行かれちゃいました。
この分だとこの列車しばらく動かないみたいだし
式にも遅れますね



ふぅ。っとため息をついた女の人は
苦笑いしながら僕に話してくれた



僕は何て声をかけていいか分からず



あぁ、そうなんですか。
大変ですね



しか言葉にならず


しばし無言…



なんか気まずい雰囲気のまま
まだ列車は動く気配がない



時々、女の人はまだ動きませんね
とか話かけてくれたけど会話は途切れまくり


そのうち
列車の通路に立っていた人達が座り込みだした


みんな疲れた様子。


僕らの近くに立っていたおじいさんが腰を叩いて苦痛の表情を見せている


すると僕の隣に座っていた女の人がすっと立って



どうぞ。

席を譲った



あ、僕も何かしなきゃ。なんて感じてしまい



えっと…
僕も立ちます!



そう言って近くの通路に座りこんでいるおばさんに席を進めた



いいの?
ありがとね



そう言ってそのおばさんが笑いかけてくれた



僕は席を立った女の人の隣に立った
するとこっちを向いてニコッと笑った
手はグットのポーズ



なんだかこそばゆい感じ


僕はよくよくその女の人を見ると
この辺の人ではなさそうな感じ
小綺麗な雰囲気でキリッとした目鼻立ちの色白美人だ
もしかしたら僕より年上かなぁ。みたいな印象




もう一人の友達がね、
結婚式の二次会でイケメン呼んでるとか言ってて
この分だとそれにも間に合わない感じだなぁ。
私、その友達に会うの久しぶりなんです
彼女はこっちの人なんで初めてここに来たんですけど。



やはり都会の人みたいだ



あ、そうなんですか
僕は今から家に帰るだけなんで。。
友達の人にもう一度電話掛けてみますか?



いいんですか!
すいませんありがとうございます



僕はどちらかというと
そんな気がきくタイプでもないが
この時はなぜかこんな自然な流れに。



何度かまたコール音を鳴らしてみたが
やはり出ない
まぁそれもそうだろう
僕でも知らない番号なら出ないかな




あれからどれだけ時間が経ったのだろう

まだ止まない雨
たまに鳴る雷の音が地鳴りのように響き渡る
その時、ドーン!と近くに雷が落ちた



一瞬列車の電気がチカチカして
パッと消えた



きゃー!



車両のあちこちから聞こえる女の人の悲鳴

僕の隣に立っていた女の人も小声で悲鳴をあげた
その瞬間、僕の服が何か引っ張られたみたいで…


少ししたらまた列車の電気がパッと点いた


良かった。


引っ張られた服の先には隣の女の人が青ざめた顔をして僕の服を掴んでいる




ハッと我に返った女の人が


あ、すいません


とすぐ僕の服を離した



いえ、
大丈夫ですか?


そう聞くと



はい…
でもすごく怖かったです。

そう言って泣きそうな顔をした



僕は笑って


ま、そのうち雨も止んで
きっと動き出しますよ。
大丈夫ですから


そう言って女の人を励ました


次第に笑顔に戻っていった女の人の表情


なんだろう。この気持ち
この人…
かわいいな

僕にはそんな事ばっかりが頭を回っていた



そして僕の言っていた事が現実になる

雨雲はどうやら通り過ぎたらしく
やっと列車が発車するとのアナウンスが流れた時、
あちこちから小さな拍手が上がった



動き出して良かったですね!
駅できっと友達の人心配してますよ



はい、何だかいろいろご迷惑かけてすいません
結構時間経っちゃったからもう先に結婚式行ってるかも
あ、でも行っててほしいなぁ
私のために待ってたらその子にも迷惑かけちゃうから
止まってる間、相手してもらってありがとうございます



いえ…



そう言って僕は笑った

見知らぬ土地にこんな経験をして
さぞ不安だったに違いない


心の片隅に
この列車
何処までも続かないかなぁ
なんて事を思う事になろうとは。


そして
駅に着く頃には辺りは暗く
さっきまで土砂降りだったのが嘘みたいに空から雲が消えていた


駅に到着。


みんな疲れた表情でそれぞれが列車を降りてゆく


僕も大きく深呼吸して駅を降りた


あの女の人は降りて辺りを見回し友達を探している時
駅に流れる駅長のアナウンスが



ただいま到着した列車は3時間遅れで到着いたしました
ご乗車のお客様には大変ご迷惑をおかけいたしました事をお詫び申し上げます…尚、この列車は…




3時間かぁ。

僕はその間に
なんだか素敵な物を見つけた気がした



あの!



その女の人は僕に声をかけた



はい!



私、行っちゃいますね
すいませんありがとうございました〜



そう言って
大きな荷物を持って足早にホームを歩いて行った



あ!
名前ー!は…



僕の声は周りにかき消されて消えてゆく


笑顔の彼女はいつまでも手を振りながら
僕から離れて行った



…。
ま、いっか



駅から家までの帰り道

何だか気分がいい

空を見上げると星がいくつか見えた




そういえば今日って七夕か…




そんな七夕の日から数日


見知らぬ携帯から電話が鳴って

以前の僕なら出ないけど


なぜかこないだあった出来事を思い出して
おもいきって出てみる




はい。




あ、もしもし〜
こないだ列車でお世話になりました
覚えてますか?







僕は一瞬絶句したのと同時に「マジかぁ」
この言葉が浮かんだ



何だよ。。
七夕も捨てたもんじゃないな





それから何度かやり取りがあり


また今日も僕はこの列車に乗っている


もうすぐ駅だ


しかも今日は7月7日

あれから一年

その女の人は僕の彼女になっていた


彼女と会うのは、あれ以来ぶりである


駅で待ち合わせ



到着した列車を降りると遠くのホームにいる彼女が笑顔で手を振りながら今度はこっちへ歩いて来た



去年の夜空も今年の夜空も
星たちが僕らを照らしている

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