【自治領諸島の人々】薬屋と好奇心旺盛な子供の話

「ねえ、あんたも裏で怪しい客にヤバい薬とか売ってたりすんの?」

 そう言ったガキの目は、好奇心で輝いていた。

 最近こいつが読んだ漫画の中に、そういう場面があったらしい。治安の悪いところにある怪しい店で、違法薬物を取引する――といった、まあ、よくあるネタだ。

 不躾にも程がある話だが、ここがそういう店に見える、というのは分からなくもない。立地は観光地区の外れの奥まったところ。建物は古く薄暗い。そして店内には、ありとあらゆる国から取り寄せた薬が所狭しと並べられている……これは個人的な趣味も兼ねて、ではあるが。

 期待のこもった視線に、大袈裟に肩を竦めてみせた。

「いいか、ここはお前みたいなガキでもお使いで来れる様な平和な店だ。大体、たとえそういう事をやっていたとしても、お前には絶対教えねえよ」

 ガキの不満げな声を聞き流して、その鼻先に頼まれていた薬を差し出してやる。不満げな顔のままのガキは、それを受け取って小脇に抱えると、足早に店を出て行った。

 よしよし、それでいい。まだお前にゃ分からんだろうが、知らない方がいい事もあるんだよ、この世にはな。ほら、好奇心は猫をも殺すって言うだろ?

 そのまま真っ直ぐ育てよ。間違っても「こっち側」に来るんじゃねえぞ。柄にもない事を思いながら、スマホに届いた「注文」を確認した。

(改訂:2024/04/13)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?