見出し画像

#33 野球場の話

社会人野球、特にクラブチームの野球に興味を持つようになると、試合は生で見るしかないので、そこに足を運ぶようになる。
最近はあまり行けていないが、10年ほど前までは休みになると車や電車でいろいろな球場に出向いては試合を見ていた。すると球場によってかなり特徴があることがわかり、試合のほかに球場を見に行くようになった。
以前指折り数えてみたところ、行ったことのある球場は50を超えていた。その中には社会人(企業)チームのグラウンドも含まれているが、そこで公式戦を行うこともあるので、単なる練習場でもない。
もっとも、国内にある野球場は500以上とも1,000以上とも言われているので、たかだか50程度で威張れるものではない。ウィキペディアで「日本の野球場一覧」を見ると、ずらずらと球場が列挙されている。ただ、そこには私の出身地にあるスポーツ公園内の球場が入っていないので、どれだけの野球場があるかは定かでないというのが正解なのかもしれない。
日本にこれだけの野球場があるのは、高校野球が影響しているのだろう。夏の甲子園予選は各県で複数の野球場を使って並行して行われる。車で田舎道を走っていると、役場や学校の近くに野球場があるのを見かけることがあり、日本には津々浦々で野球が浸透しているんだなと実感する。そして、日本の野球場の大半は、地方自治体が作り、そして所有している。NPBの一軍本拠地の中でも、宮城、広島はそれぞれ県営、市営だし、札幌や千葉は第三セクターの所有だ。

ふと考えると、野球場はスポーツのグラウンドとしてかなり異質なものだ。他のスポーツのグラウンド(コート)は、客席を除くと大多数は点対称になっており、攻守が反転しても使えるようになっている。一方野球場は、センターラインを中心にした線対称にはなっているが(規則上は線対称にすらする必要はない)、ホームベースはフィールドの中心からかなり離れた場所に位置している。当然点対称にはなっていない。
これは何を意味しているか。野球場はさまざまな活用が難しいということになるのだ。
サッカーやラグビー、アメフトなどは屋外で長方形のフィールドがあれば、あとはラインの引き方やゴールの設置を変えることでそれなりに相互の融通を利かせることができる。もちろんフィールドのサイズはそれぞれで違うし、ラインの跡が残るのでサッカーならサッカーで、ラグビーならラグビーで単独のフィールドを設置できるのが理想だが、現実としては共用となっている。しかも陸上競技のトラックの内側を使うことも珍しくない。大きなスタジアムの設置や改修の話題が出るたびに、「サッカーには不利」とか「陸上競技に向いてない」といった意見が噴出し、総合競技場を作ることの難しさをあらわにしている。
かたや野球場はどうか。野球以外で使えるとすれば、野球から発展したソフトボールがあるが、そのくらいだろう。なにせ扇形のフィールドのスポーツ自体があまりない(野球はクリケットから生まれたが、クリケットのフィールドは円形に近い)。すると、野球やソフトボールにスポーツコンテンツとしての魅力がないと判断された場合、新造はもちろんのこと、改修すら後回しにされるリスクが高いといえる。
先に役場脇の野球場のことを書いたが、そこは外野の芝はほぼ見えず草が生え放題になっており、しばらくは野球の試合が行われていないんだなと思うに十分な荒れ具合になっていた。どの役所も懐具合があまり芳しくない中で、あえて野球場に手を入れようとするからには、それに見合った理由づけがどうしても必要になる。少子化で野球人口も減少している。さらに野球場の特殊性から転用も難しいとなれば、予算の優先度が低くなるのは必然だ。
その点、多数の競技の混在が可能な競技場であれば、特定の競技の需要が低くても他の競技の需要があれば十分存在価値があると言い切れる。混在のメリットは、リスクの分散にあるといえよう。

今後さらに野球人口が減少していくと、野球場自体いらないと判断されることもあるだろう。しかし、大きな施設を取り壊すのにも費用がかかる。予算に余裕がなければ後回しだ。そうなると、いよいよ野球場が各地方のお荷物になる日はそう遠くないだろう。野球はこれまで日本のスポーツ文化の中心でいたが、今後もそうである保証はないし、むしろそうならない可能性も十分にある。野球界は内輪揉めをしている暇があったら、草の根レベルで野球を発展させる方策を考えてもらいたいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?