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#29 トライアウトの話

少し前、NPBトライアウトが神宮球場で開かれた。NPBチームから戦力外通告を受けた選手たちが次の契約を目指して実力を披露する場だ。
言うまでもなく、契約を勝ち取る門は狭い。ただでさえ実力不足のレッテルを一度貼られている選手が、他チーム関係者にそれが誤りだと知らせるために払うべき努力は並大抵のものではない。今年も50人以上の選手がトライアウトに挑戦し、来季の契約に漕ぎつけたのはわずか4人。多くの選手はここでNPBとの区切りをつけさせられる。
最近は引退試合代わりにこのトライアウトに出場する選手もおり、トライアウトも少しずつ様変わりしているようだが、いずれにしても華やかなドラフト会議や入団会見と比べると、実力主義のプロの現実をまざまざと見せられる場だ。

さて、今回のトライアウトは例年と違う注目を集めた。日本ハムで現役を引退した新庄剛志選手が14年ぶりの現役復帰を目指してトライアウトに挑戦したことだ。約1年前、現役復帰に向けてトレーニングを開始すると宣言し、実際にトライアウトへ参加したのだから、まずはその努力と向上心に最大級の賞賛を贈りたい。ただでさえプロ選手になることは難しいのに、一度引退して10年以上のブランクを経てから第一線の舞台へ戻るのはとりわけ難しい。メディアも大挙して神宮に押しかけ、例年以上の注目が集まった。
結局、4打席でタイムリーヒット1本の結果を残したが、自身で設定した「6日以内のオファー」がなかったとして新庄選手は現役復帰を断念すると発表した。
多くのファンは「新庄ならできる」「獲得すればファンがたくさん来るはず」と、どこかのチームが獲得することを期待していたようだが、朗報は届かなかった。

結果論のようになってしまうが、私はこの現役復帰自体はいいことだと思うが、NPBチームが獲得することは相当難しい、むしろ現実離れしていることではないかと思っていた。
もちろん、新庄選手の現役時代の華々しい活躍はリアルタイムで見聞きしていた。阪神の暗黒と言われる時代にファンを集めていたことも、無謀と言われながらメジャーに挑戦したことも、そして北海道に移転したばかりの日本ハムでさまざまなパフォーマンスを披露して現在まで続くパリーグ人気の先鞭をつけたことも。そして、その功績を今さら否定しようとする気もない。
しかし、今現役選手として迎え入れられるかどうかとなると話は変わってくる。1試合限りのチャリティマッチならまだしも、140試合以上のペナントレースをこなすための戦力として計算できるかどうか判断した結果として、獲得には至らないだろうと考えていた。なにせ来年48歳になる選手が14年のブランク明けでフルシーズン動けると考えるのは難しいだろう。新庄超人伝説を信じるファンとしては「彼ならできる」と言うだろうが、チームを総合的に捉えるとなかなかそのような賭けには出られない。しかも今のNPBのトレンドは育成にシフトしており、わざわざベテランを獲得するのなら、額面通りの能力を超える「プラスアルファ」がないと理由が立たない。トライアウト翌日、「新庄はこの日唯一のタイムリーヒットを放った」と報道するスポーツメディアがあったが、ホームランを打った選手が別にいることはその記事には含まれていなかった。ホームランを打った選手は契約を勝ち取ることができなかった。
投手と野手の違いこそあれ、ドラフトで田澤投手が指名されない中で、いくら過去の実績があるとは言え新庄選手を獲得するとすれば、NPBの編成のベクトルはブレているといえるだろう。

また、新庄選手は2006年のシーズン開幕直後に「今年で引退する」と表明した。シーズンがある程度進んだ段階で引退を発表することはよくあるが、開幕直後は異例だ。チームは長丁場を見越した編成を前シーズン終了後から行なっているから、イレギュラーな因子はできるだけなくしておきたいと考えるのが普通だろう。かつてベイスターズで最高の助っ人と言われていたロバート・ローズ選手が3シーズンぶりにロッテで復帰すると騒がれたが、キャンプ中に退団した。このシーズン、ロッテは大慌てで助っ人探しに奔走することになったのだが、この轍は踏みたくないだろう。

新庄選手には独立リーグのチームが獲得オファーを出したが、今のところ色良い返事はないという。新庄選手は野球がやりたいのだろうか。それともNPBの支配下登録選手でなければだめなのだろうか。
独立リーグのオファーを受けていないことについて、一部のファンは「独立リーグはNPBを目指す若者の場だから遠慮するんだろう」と理解を示しているが、NPBの支配下登録選手にも70人の枠がある。かつてメジャーを後にした藤川球児投手は高知へ出向いてプレーした。そのような懸命さが感じられないのだ(彼は努力を表に出さないスタイルなのだろうが)。
野球ならNPBに限らず、独立リーグや社会人(クラブチーム)、草野球などいろいろなカテゴリーがあるのに、NPB以外を受け入れないように見えてしまうのは残念でならない。イチロー選手が学生野球の指導者資格を取得したり草野球でプレーしたりと地道な活動を見せているだけに、とても対照的な印象を受けるのだ。


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