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<読書日記>ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ(辻村深月)

あらすじ

地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染みの二人の人生はもう交わることなどないと思っていた。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮かんだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は救われる。著者の新たな代表作。2013年おすすめ文庫王国 エンターテインメント部門 第1位。

講談社文庫

ざっくりストーリー

 物語は、大きく1章と2章に分かれている。
 1章では、主人公みずほの友人であるチエミが行方不明に。あんなに仲の良かった母親は横腹を刺されて死亡していた。
世間では、チエミが母親を刺して逃げたと話題になった。本当にそうなのか。なぜ行方をくらましているのか。
真相解明に乗り出すみずほが描かれている。
 2章では、チエミ視点でその逃亡生活、そして真相が描かれる。


- 以下ネタバレあり - 




感想

母と娘の関係性
 結論から言うと、この物語は、事件の真相を探っていく中で、だんだんと気づかされる「母と娘の関係性の物語」だと感じた。
 みずほとチエミは幼なじみで友達だった。
チエミはどちらかというと友達が少なく、みずほへの依存も強く感じる。チエミと母親の関係もそうだった。チエミは母に依存し、母もチエミに依存している。そんな関係が大人になっても続いている。その象徴として、入社6年目だというのに母親がついてきて襟を正しているというシーンに出くわしたというチエミの会社の後輩、亜理紗の話。 そんなチエミが自分の意思を持って母親と対峙したとき。それは起こったのだった。

 みずほは決してチエミが自分の意思を持っていないとは考えていないだろうし、亜理紗のように少し下にみている気持ちに対して怒りも持っている。それは、自分も母との関係が、チエミとチエミの母の関係のようであったらという願望も含まれていたからだと思う。

 事件としては、チエミとその母の関係を主題においているが、それに対する、みずほとみずほの母の関係が浮き彫りになっていく。
 つまりは、自分が親になった場合の自分のこどもへの感情が生まれたことにより、自分の母が自分に対してどう感じていたのか、本当の気持ちとは何だったのか。それぞれの立ち位置を描くことで、母と娘の関係性の変化に気づかされる仕掛けになっている。

 ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。これが何に使われていた数字で、それが何を意味する数字なのか。それを理解したときにハッとするのだ。
 形は様々だけど、母は娘を愛している。
 これで「お母さんありがとう!」ちゃんちゃん。とはならずにその関係は変わらず続いていく・・・と言うところがリアルだ。

 人は何を持って大人になったというのだろうか。大人だと思っていた年齢になった時には、あの頃に思っていた大人とはかなり乖離している自分を見つめ、考える。
 見た目はおっさん。中身は子供。人は皆そうなのかもしれない。体裁を整えるため、外ではおっさんぽく行動しているのだ。
 少しずつ薄くなってきたこの頭も、ぷくぷくとび出てきたこの腹も、きっと自分をもっと大人に見せるための演出なのだ。
・・・・・。と、きっと、おっさんではなく、女性がこの本の感想を書けば、こんなシメには至らなかったと思う。
 是非とも、女性に読んでもらいたい一冊だ。


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