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【過去記事】「オタクがやれば<物置>ができるだけ」か。「本物を見ることができる衝撃は大きい」庵野秀明が筆者の取材に語ったMANGAナショナル・センター構想の希望と「物置化」を防ぐ解決すべき問題点

数日前から「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」「メディア芸術ナショナルセンター」(仮称)を整備するため、各党で党内手続きを進めることを確認したことが、報じられている。

その意義や問題点。そこに動く人士の姿は、今後、書いていくことになるだろう。そこでひとまず一昨年に提示された、この計画に対する拙文を掲載する。
果たして、ここで記された問題点は、改善されているのだろうか。

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「アーカイブは、自分も作品をつくってみたいと思うきっかけになる施設だと思っています」

 30分あまりの会合が閉会した会場で、筆者の取材に応じた映画監督の庵野秀明氏は、そう答えた。

 12月18日に開催されたマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(通称:MANGA議連)で決議された「MANGAナショナル・センター構想の早期実現を求める緊急決議」。麻生政権時代の2009年に浮上した後、鳩山政権下で中止された「国立メディア芸術総合センター」計画。

その再来である「MANGAナショナル・センター構想」では2020年春までの完成を目指すとされている。

 会合に出席した庵野氏とマンガ家の里中満智子氏は制作者の立場から資料の海外への流失や紛失を防ぎ、後の世代へ伝えるための施設を求めた。ファン代表として発言したニッポン放送アナウンサーの吉田尚記は、世界中のマンガ・アニメファンから注目される施設になることを求めた。

 これまで多くの作品を手がけてきた立場からアーカイブがどのような役割を果たすと考えているのか? そう問うた筆者に、庵野氏は少し考えてから、明快に希望を語った。

「アーカイブに収蔵される資料は、自分がはじめてみるきっかけになると思っています。本物……例えば原画は紙に印刷されたものやスクリーンに投影されたものでは得られない衝撃を与えてくれるでしょう。“どうやってつくっているんだろう”“自分もつくってみたい”と、それらを見た子供や海外の人は続いていこうとしてくれるはずです。ご存じだと思いますが、この業界は新しい人が入ってこないと先細りになってしまいます。好きじゃないと続かない仕事ですから“自分がつくろう”と決意するきっかけになればと願っています」
 
 未来の新たな才能が目覚める場ともなり得る施設。しかし、その夢の一方で課題は山積みだ。MANGA議連は大島理森衆議院議長と菅義偉官房長官に決議を提出し、新聞各紙などでは2020年の開館を目指すことを報じている。
あと僅か5年先に目標が設定されているのだが、今のところ具体的なことはなにひとつ決まっていないのだ。

 この構想に携わっている森川嘉一郎氏(明治大学准教授)や吉村和真氏(京都精華大学副学長)、桶田大介氏(弁護士・MANGA議連アドバイザー)にも、話を聞いてみたが具体的な計画は、これからの話し合いで詰めていくことになるという。

施設はPFI方式。明治大学との「連携」にも言及


 決議文を読んでみると、どういう施設が誕生し、どのように運営されるのかが、うっすらと浮かび上がってくる。

(前略)京都国際マンガミュージアムなど、関連施設でマンガ関連資料の蒐集や研究が進められてはいるものの、アニメやゲームについては明治大学の東京国際マンガミュージアム計画が予定年度を過ぎても未だ実現しないなど、未だマンガの段階にも至っていない。マンガについても中心的な拠点を欠くこと等もあって、関連施設はいずれも継続性に懸念を抱いており、既に収蔵余力も限界を迎えつつある。(中略)知的財産推進計画2015でも我が国アーカイブの要と位置づけられた国立国会図書館を軸(ハブ)として国立新美術館や京都精華大学及び明治大学等の大学や関連施設等とも連携、MANGAを我が国の文化資源として蓄積し、人財育成や産業振興の基盤機能を果たし、更に国内外の関連施設の連携拠点として国際的な情報発信を通じた我が国文化外交の進展、訪日観光客誘致にも資することを企図した意欲的な計画であり、2020を控えた我が国にとって、文化的にも経済的にも時宜を得たものである。(後略)

 引用部分について読み解いてみると、民間を主体としたアーカイブの継続性と収蔵機能に懸念が示されていることがわかる。一つの事象として、京都国際マンガミュージアムは2006年に開館し継続している一方で、明治大学は2009年に図書館及び、同人誌即売会も開催できる東京国際マンガ図書館(仮称)を2014年度目標で東京都千代田区猿楽町の旧付属中高の土地に設立することを発表しているが、完成の目処は立っていない(サイトの更新も2010年で停止)。

 こうした状況を受けて、継続性のある国立の施設を求める声が強まったようだ。配付資料ではさらに具体的に施設の計画を述べている。一部を引用してみよう。

中核施設の実施方法PFIによる国立国会図書館のMANGA関係資料を扱う支部図書館として設置し、必要に応じて国立国会図書館法等を改正、運営は外部委託とする。設置・運営は国立新美術館及び大学その他の関係機関等とも連携を行う。

中核施設A 東京都心における国際的情報発信拠点
立地 都心部。MANGA集積地たる秋葉原周辺が望ましい。
※御茶ノ水に明大が計画中の関連施設と連携の可能性
(以下略)

中核施設B 原資料のアーカイブや教育研究の拠点
立地 資料収蔵を主とすることから、地価の高い都市部であることを要しない。既存建物の改修による用途変更も想定。
(以下略)
 
 アーカイブが国立国会図書館の支部となることは、いくつかのメディアが報じているが、さらに「中核施設A」の部分を見るとPFI方式で明治大学が、東京国際マンガ図書館(仮称)
の計画を、そのまま国立国会図書館支部に移行させるようにも読み取れる。つまり、外側は国立国会図書館支部で、中身は明治大学が運営する施設……というものが想像できる。国立国会図書館法の改定なども含めて、今後どのような協議がもたれていくかも興味深い。

「オタクがやれば物置ができるだけ」との批判も

 ここまで記したように、どのような建物が出来上がるのかは、うっすらとは見える。ただ、庵野氏や里中氏が発言の中で求めたような国内外から多くの人が来場し感動する施設とするのか、課題は大きい。
 とりわけ課題になりそうなのは、アーカイブを運営できる人材がいないことだ。
 図書館問題に詳しい西河内靖泰氏(広島女学院大特任准教授)は「あくまで私見」と断った上で「現状の構想には、まともにアドバイスをできる人が関わっていないのではないか」と苦言を呈する。
「明治大学、京都精華大学あるいはマンガ学会がアーカイブに携わるべきではありません。
明治大学は米澤嘉博コレクションを収蔵し図書館を設置していますが、マンガに詳しい学芸員や司書の養成に特化した過程を持っていません。まんが学部のある京都精華大学も同様で美術史研究をまともにやっている人すらいません。マンガ・アニメのアーカイブをオタクがやってはダメ、単なる物置ができるだけでしょう。既に実績のある浮世絵に携わっている人材を入れて協議すべきですね」
 アーカイブに対する夢と希望は限りなく大きい。加えて多くの人が善意と目的意識とを持って活動しているのはよくわかる。それでも解決すべき問題もまだまだ多いようだ。

(初出:『おたぽる』2015年12月24日掲載 http://otapol.jp/2015/12/post-5067.html?utm_source=antenna

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