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コミックマーケット「なんでもアリでいい。右も左も、やおい好きもロリコン好きもいて、なにがいてもいいじゃないですか」

米澤嘉博「カリスマになったって、ロクなことないよね」

「最初は参加者も800人程度のちょっとした集まりだった。ここまで大きくしようとして始めたわけではないんですよね」

 年2回催される同人誌即売会「コミックマーケット」。昨年12月の第69回の来場者数は延べ35万人。かりに1人あたり1万円分の同人誌を購入するとして35億円。さらに、印刷業者など関連産業を加えれば、途方もない市場だ。また、今や漫画家の多くは同人誌出身。最早コミケがなくては、漫画文化自体がありえないともいえる。

 この中で米澤嘉博さんは第1回開催以来、一貫してコミックマーケット準備会の先頭に立ってきた。

 と、書けばカリスマ経営者みたいな人物を想像するだろう。

 ところが、当の米澤さんは自身のカリスマ性どころか、コミケの顔であることにも否定的。自身もイベントの一参加者にすぎないというスタンスだ。

「自分が顔だとか、カリスマだとか考えたこともありませんよ。カリスマになんてなると、ロクなことにならないからね。ボク自身は、自分がコミケという小さなネットワークの集合体の、古い材質の一部なんじゃないかと考えていますよ」

 ネットワークと表現するように、米澤さんは、この30年間の間に旗振り役となって、上に立とうという意識はなく、同じ目線でのイベント運営を模索してきたのだ。

 そんな米澤さんが、コミケに集まる人々に求めているのは「拒否をせず他者を認めること」のみ。

「なんでもアリでいい。右も左も、やおい好きもロリコン好きもいて、なにがいてもいいじゃないですか」

 なんとなく集まって、同じ体験をして去ってゆく……。

 ウッドストックや新宿フォークゲリラに見られた風景を望むからこそ、彼の下には人が集うのである。

(初出:「いま、もっとも危険な人物 この人が動けば、その世界が動く」『ダカーポ』2006年8月16日号 マガジンハウス)

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