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なぜ本屋は "最強のメディア"なのか

昨日はNewsPicksアカデミアのイベントで、ケトルの嶋さんと集英社の石塚さんをお招きして雑誌×コマースの未来について伺いました。

このテーマで嶋さんに打診したときから『いいテーマですね』と言っていただいていたのですが、冒頭からなぜ編集者が仕事の幅を拡張しなければならないかについて熱く語ってくださった嶋さん。

編集者の目利き力やコンテンツを作る力はとてもハイレベルだからこそ、それを発露する乗り物のバリエーションを増やすべきという話は非常に納得でした。

顕在化したニーズではなく、潜在的な需要を言語化して顕在化してあげること。

その仕事は今後AIが発達していく中で、人間に残された唯一の役割なのではないかと思います。

今回、イベント前に嶋さんの本を読んでのぞんだのですが、これがまた面白かった。

本屋は元祖セレクトショップであり、さらに商品である本自体にコンテクストがあるので、棚に並べる時にも様々なコンテクストを作ることができます。

最近は私も本屋をうろつく機会は減ってしまいましたが、たしかに本屋はいうなれば知のセレクトショップ。

それも、ジャンルごとにきっちり分けてある大型書店より、店主の趣味全開の小規模なお店こそが面白い。

私は谷根千エリアが好きなのでよくフラフラしにいくのですが、「猫と本のまち」と言われるくらいこだわりのある本屋が所狭しと並んでいるエリアなので、ついつい帰る頃には肩が痛くなるほどの本を買い込んでしまいます。

特に小説やエッセイとの出会いはそうした独立系本屋の方が面白く、ビジネス書はAmazonで買っても、小説やエッセイはいまだに独立系書店でじっくり選んだものの方が結局気に入ってしっかり読み込んだりするものだなあと。

ちなみに、前述の嶋さんの本を読んでから意識して本屋に入ろうと思ってあれこれ足を運んでいるのですが、久しぶりに大型書店に行ったらあまりの面白くなさにびっくりしました。

なぜこんなに面白くないのか考えてみたところ、彼らはいまだに『売ろう』としているんですよね。

本に限らず、売るための棚づくりを目指すと同じものばかりで溢れてしまい、魅力的に映らないので結局売れないという負のループを生み出すものです。

つまり、多くの大型書店はアパレルの店舗でいうと白・黒・グレーのアイテムばかりを揃えて売ろうとしている状態なのだと思います。

モノトーンがブランドコンセプトになっているなら別ですが、ほとんどのアパレルブランド、特に女性向けのブランドは多少売れなかったとしても明るい色の商品を作らなければ売場が暗く沈んでしまいます。

それとまったく同じで、どの本屋も面陳されているのは白地に黒文字のビジネス書フォーマットと『マッキンゼー流』『スタンフォード式』といったいかにも売れることを意識した本ばかり。

もちろん読まれなければ意味がないので手に取られやすいパッケージにする努力は重要ですが、売ることが先行しすぎて、肝心の中身がおきざりになっている本も多いように感じました。

しかし、そういった本が売れるから本屋側も並べざるをえない。

すると本当に本が好きな人たちの足は遠のき、普段本を読まない層の人たちに向けて一生懸命本を読むことから啓蒙しなければならないはめになってしまいます。

「いい本屋にはいいお客さんがいて、いいお客さんに売るためにいい本が揃っている」というのは嶋さんの本に書いてあったことですが、いい棚を作ることが生のループを回し続ける鍵なのだろうなと思います。

一方で、思想のある独立系本屋はもはや本屋ではなくメディアとして機能しはじめています。

天狼院書店などはその代表で、本屋というメディアをフル活用してイベントやゼミといった『学びのコミュニティ』を形成し、単に本を売る以外の収益ポイントも作っています。

私は常々店舗はメディアになると思っていますが、その中でも本屋はいち早くメディアとしての機能を備えていくはず。

というのも、本屋は先ほども書いた通り知のセレクトショップとしてすでにコンテクストのある商品を扱っており、さらに粗利率が低いビジネスモデルなので店舗の使い方を抜本的に変革させる必要に迫られているからです。

昨日のイベントでも話にでていましたが、1,000円の本を売ったとしても本屋に入る利益はたったの200円ほど。100冊売っても2万円しか入ってきません。

それに比べて百貨店や商業施設はいまだに30〜40%のマージンで、さらに単価も高いので実は本屋ほどにはお尻に火がついていないのだろうなと思います。

水曜日のWeekly OCHIAIでも落合さんが本屋の可能性についてお話されていましたが、物販のビジネスモデルとしては破綻していても、メディアとしての可能性は非常に大きいのが本屋というビジネス。

この本屋の知の編集術が、服や雑貨、食品などにどう展開できるのかを思案しているここ最近です。

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