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PEOPLE 1の軌道、最新アルバム論と入らなくてよかった曲 - PEOPLE 1「星巡り、君に金星」ディスクレビュー

はじめに

 PEOPLE 1が1月10日にリリースした2枚目のフルアルバム「星巡り、君に金星」を聴いた感想、及びそれにまつわるエトセトラを非常に長くつらつらと書き連ねたものである。勿論私よりもピポワンのファンだというような人が大勢いるのは承知のうえで書いているし、そのつもりで読んでいただきたいので、もし何か間違っているところがあったら小声で教えてほしい。

アルバムを出すことへの意外性

 「あ、ピポワンってアルバム出すんだ」PEOPLE 1の2ndアルバム「星巡り、君に金星」の発表のティザー映像をYouTubeのプレミア公開で観ながらそう思ったのを覚えている。
 説明するべくもないという人も多いかもしれないが、PEOPLE 1といえば結成5年以下でありながらあり得ない速度でワンマンツアーの動員数を右肩上がりで伸ばし続け、ロックフェスにも多数出演しそのステージもどんどん大きくなり続けている、新進気鋭のスリーピースロックバンドである。「常夜燈」からネットで話題になり始め、初めてライブを行ったのが同じく新世代のバンドNEEとの対バン「BLT LIVE BOOSTER vol.1」で2021年。そこから4年とたたずにZeppをSOLDさせ、直近のCDJではEARTH STAGEにブッキングされた。

 (人によっては短いと感じる方もいるのは重々承知だが)曲がりなりにも10年以上もバンドシーンを見続けている私としては類を見ないスピードでの大出世だと感じている。(あくまで個人的な感想なので他にも○○がいただろ!とかの指摘は勘弁してほしい)このバンドがこれからどういう進化を遂げるかで、今後数年のバンドの売れ方のある意味スタンダードな指標が示されるとも思っている。
 初めて彼等のライブを観たのは2022年のBLT LIVE BOOSTER vol.2で、音源を聴いて打ち込み多めのツインボーカルバンドくらいの認識しかなかったもので、そもそも正規メンバーが3人のみで、メインのメンバーがここまで楽器を持ち替え、それに合わせて白衣のサポートメンバー2人も阿吽の呼吸でいくつもの楽器を捌いていたのを観て驚いたのも記憶に新しい。
 そんなライブのやり方や売れ方、何をとっても新しい彼等が2ndアルバムを出す、と。1stがあったんだからそりゃ2枚目も出すだろうとはどっかでは思っていたのだが、それでもやはり少し意外という感想を持ったのは、既に色々なところでも指摘されている通り「アルバムを作る」ということがアーティストの活動の優先度として低いところに置かれ始めているという実感があったからである。

CDJでの販売ブース。サイン入りクリアファイル付きアルバム予約は速攻で予定枚数が売り切れていた


アルバムはもう時代遅れである

 バンドに限らずだが、最近の曲はその時間が短くなっているという話がある。明確なデータはどこかで探せばあるかもしれないが、そんなものはなくてもそういう実感を持っている人は多いだろう。軽く調べたところ、CDからサブスクリプションへと聴き方の主流が変わり、より多くの音楽に簡単にアクセスできるようになったからという背景がありそうだ。近年のTikTokやYouTube shortsの隆盛、度々話題になるファスト映画など他の例を見てもどうやらこれは最近のコンテンツに共通して言えることらしい。これはまあ納得できる。
 そしてPEOPLE 1の曲も近年の例に漏れず短い。バラードの紫陽花ですら4分を超えていないし、2分台の曲も多い。また一般的にどういう手法で1曲の時間を短くしているかというと、元よりBPMが速い曲はあると思うが、平成の時代と比べて構成を端折る傾向にある。具体的にはイントロ・アウトロがない、2番Aメロ・Bメロからサビにいかずに間奏や落ちサビ・Cメロを挟み大サビを迎えるサビ2回構成などである。そもそもAメロ・Bメロ・サビという昔ながらのJ-POP進行に囚われないような曲もある。PEOPLE 1もそういった手法で曲の時間が短くなっている。

 曲が短くて聴きやすいのはいい。個人的にはそれより最近気になるのは新曲のリリースペースだ。サブスクで気軽に新曲を出せるというのは、リスナーとしては早く手軽に聴けていいというメリットを実感しつつ、何だか節操がないなあという気もしていた。そして、そう感じてしまう自分が時代に置いていかれてるのだな、とも。どうしたって手に取りやすい場所に音楽がある方がユーザーにとってはいい。それで現にサブスクで気軽に聴ける方が世に広まり、バンドの知名度を上げることにも繋がるのだから、バンドの利益は少なくともそれがいいのだろうなと思っていた。
 だが昔と違い、B面(いわゆるカップリング曲)を見繕う必要もなく気軽に1曲単位で曲をリリースできるようになったからこそ、アルバムを作る必然性も薄れてしまった。リリース時に単曲で聴くことが多くなり、新曲以外に音楽を聴こうと思う時はアーティストごと・またはライブラリ全体でシャッフルで聴く人も多いらしい。せっかくアルバムを丹精込めて作ってもあまりそのアルバム単位で・曲順で聴かれることが少ない。そうなるともう手を込めてアルバムを作るメリットが少なくなってしまう。それはとても悲しいことだ。


それでも、アルバムを曲順で聴きたい

 時代遅れなのは重々承知だが、それでもやはりロックバンドのファンとしてはアルバムを、可能な限り曲順で聴きたいという思いが強い。アルバムとはバンドの歴史にピリオドを打つものだ。会社だったら入社○○年目だとか、学校だったら学年とか学期の区切りがある。アニメやドラマは3か月ごとのクール制であることが多いし、長編漫画は○○篇というように区切られるのがふつうだ。それと同じなんだよなとずっと思っている。バンドとして○○年目、という数え方は勿論できるが、それよりも○枚目のアルバムの時という方がバンドの歴史の区切り方としては自然ではないだろうか。
 それまでに出たシングルを、場合によってはそのカップリング曲やEPの曲も交えつつ、新曲をある程度まとめて一緒にパッケージ化する。そうすると今までシングル単位で聴いていた曲が新たな聴こえ方をしてきたり、一貫するテーマが見えてきたりするし、そうなるように趣向を凝らすアルバムが好きだ。例えばUNISON SQUARE GARDENの8thアルバム「Patrick Vegee」では既発曲の前にその曲の要素を匂わせる歌詞を含む曲が置かれている。(例:夏影テールライト「幻に消えたなら ジョークってことにしといて。」→Phantom Joke)

 また、例えば[Alexandros]の改名後初のアルバム「ALXD」は最後の曲が5分超えの壮大なバラード曲「Coming Summer」だが、そのアウトロではアルバムの1曲目であるシングル曲「ワタリドリ」のイントロのアルペジオが流れている。これにより繰り返し何度も聴きたくなるようなアルバムになっているというような工夫がある。BLUE ENCOUNTのアルバム「THE END」では、シングルの「はじまり」をあえて最後に置き、1曲目はアルバム名と同じ「THE END」という曲になっている。こういった工夫が好きだった。
 だからこそ、先ほどから述べている通り最新鋭のロックバンドPEOPLE 1が2ndアルバムをリリースすると知らされた時、意外に思いつつもやはり嬉しかったのだ。ロックバンドはアルバムで語るべし、というのは受け売りの持論だが、これで改めてピポワンというバンドをよく知れるという期待感があった。だがここでまた新たな懸念点にぶち当たる。そう、「既発曲多すぎない?」という問題だ。

去年のツアーLOVE2での112号室ブース


令和のアルバムの作り方

 こんなただの音楽好きの素人が思うことなのでプロはその何十倍も考えていることだろう。どうしたって単曲でサブスクですぐに公開されるようになったこの状況でのアルバムの作り方を。最近多いのは2枚構成にするという方法だ。昨年リリースされたなきごとのアルバム「NAKIGOTO,」は合計22曲の2枚仕立てだった。Vaundyの最新アルバム「replica」は1枚目にセルフカバー等を含めた新曲、2枚目に既発曲というような構成になっていた。また、逆にosageのアルバムは8曲23分という短さだった。ミニアルバムとの定義の違いまではよくわからないが、聴きやすさという点では好みだ。
 それから、ピポワンの1stアルバム「PEOPLE」も既発曲が多かっただろうというツッコミも予想されるが、それはその通りである。そもそも1stアルバムというものはメジャーデビューしたりして多くの人に聞かれるようになってきてから出すことが多く、それまでのEPやミニアルバムの曲、インディーズ時代の人気曲や、初音源化だが昔からライブの定番である曲などが入ることが多い。つまりはじめましての自己紹介の1作目になるという性質上、どうしても今までの曲が多くなってしまうのだ。

 さてそれではPEOPLE 1の2ndアルバムはどういう構成になっているかというと、1枚で14曲41分。なかなかどうして構成としてはスタンダードなものにおさまった。41分というのも何度も聴きやすくていいと思うし、世の中的にも曲の時間と同様アルバムの時間も短くなっている傾向がある。何様という感じではあるが、皆にもっとアルバム単位で曲を聴いてほしい私としても嬉しい変化だ。ただその曲順はあまり他で見られないような形だった。つまり、2〜11曲目までが単純にリリース順になっているということだ。
 既発曲がかなりの割合を占めるアルバムとして最初に思い浮かんだのがBUMP OF CHICKENの「aurora ark」だ。これぞまさに令和になりたての頃に出たアルバムだが、このアルバムのリリース前はバンプがタイアップ曲を出しまくってた時期で、これアルバムにまとまるのか……てかいつ出すんだ?と誰しもが思っていた。だがインストを除き完全新規の曲が1曲にも関わらず、巧みに曲順を組み、14曲で1時間5分の1枚の作品に仕上げてみせた。けれどもピポワンのアルバムはリリース順に曲が配置されているのだ。


2023 SS TOUR "PEOPLE SAVE THE F×××ING WORLD" のステージセット


ピポワンの進化をアルバムで追体験することができる

 PEOPLE 1の強みの一つとして多彩なサウンドや曲調、先の読めない展開があると思う。そしてそれは新曲がリリースされるたびにこんな曲もあるのか!と色々な人を驚かせ、新たなファンを獲得してきた。その快進撃の軌跡を、アルバムを曲順で聴くことで辿れるのだ。これはファンからすると彼等の歴史を再び追いかけることができるということで、アルバムの作り方としては単純だが盲点と言っていいほどいい並びだと思う。
 また寂しい夜に寄り添うような、どうしようもない自分を認めてくれるような歌詞が今まで一貫しているからこそ、通して聴いても彼等の芯がぶれていないことがわかる。変わらないけれども変わり続ける。ここ1・2年でさらに知名度が上がった、そんなバンドの代表作としては申し分ない構成だろう。さらに、最新鋭のアルバムでありつつも、その工夫は今までのロックバンド達がとってきた手法を踏襲しているのも好感が持てる。

 こんなことはプロからしたら当たり前のことなのかもしれないし、例を挙げれば多くなるがその1つが曲間の秒数だ。ピポワンが1曲単位でリリースするとき、少なくない曲が、曲終わりの無音の時間がなかった。少しはあるのかもしれないが、0秒台であることは間違いない。前述の通りサブスク全盛の現在、次の曲を選ぶ前に何度でもつい再生してしまう、全曲シャッフルで聴いた時にすぐに次の曲にいくためにハッとさせられる、などの効果があるのだと思う。だが今アルバムではその時間が数秒取られている。
 つまりは(それでも短いことには変わりないのだが)その曲自体の時間は伸びていなくても、1曲の時間が少し長くなっているのだ。例えばYOUNG TOWNは2:50→2:53と曲終わりの時間が3秒取られているし、DOGLANDも同様に2:55→2:58と3秒長くなっている。アルバムとして通して聴くことを想定されているからこそ、数秒の間によって次の曲に頭を切り替える余白が用意されているのだ。単純に曲順に並べているといっても、そこにはこういう工夫が用意されており、(ライブで披露されていたりはしたが)そこから新曲3曲で〆めるといういい流れができている。

2022 AW TOUR"嘘だらけのPEOPLE 1"のポスター


このアルバムに入らなくてよかった曲

 もう一つ、個人的に今回のアルバムでいいなと思った点がある。それはPEOPLE 1初のフィジカルシングル「GOLD」のカップリング曲「夏は巡る」が収録されなかったこと。今更B面とは何かという解説は控えるが、単曲リリースの後にシングルをCDという形でリリースするにあたってGOLDと共に世に放たれたこの曲は、ワンマンライブでも定番となっている曲であり、そのファン人気はA面のGOLDと遜色ないように思える。それを安易にアルバムに入れなかったのがいい。
 アラサーロックバンドリスナーとしての今までの体感では、バンドを聴く時の流れとして ①有名曲・ベストアルバムを漁る②最新アルバムを1周する③過去のアルバムまで遡る④過去のカップリング曲を掘る というようなものが主流だと思っている。③の過程で自分が好きなのは○枚目だな、といったようなことを思ったりするのだが、もしかしたらサブスク全盛の現在はそんなことはしないかもしれない。しかしいずれにせよ、アルバムに入らず、トップソングでも上の方にないカップリング曲はリスナーが最後に辿り着く場所である。

 個人的にはこの辿り着きづらい場所に「夏は巡る」があるのがいい。便利になりすぎた時代に残るあえての不便さとして、1stシングルのカップリングというのはなかなかいい位置じゃないだろうか。例えばピポワンというバンドがこの先もう少し長く続いたとして、新しく好きになった人がアルバムを何枚か聴いてライブに行き、そこで初めて「夏は巡る」を聴いたらどうだろうか。「知らない!でも楽しい!なんだこの曲」となり、探してみたらなんとCDというものがあった時代のB面というポジションだったのだと、気づくような光景を想像すると勝手にニヤリとしてしまう。
 勿論カップリング曲をアルバムに入れるバンドは多くいるし、そこに関しては特に何とも思わない。DREAMS COME TRUEの人気曲「未来予想図II」がカップリング曲だというエピソードは有名だし、多くの人に知られるB面があってもいいとは思う。それと同じくらい、いい曲なんだけど全然知られてないんだよな、「予習」してなかったのにライブで初めて聴いて1発で好きになったんだよな、というようなことも面白がりたい。「大好きだけど人気になってほしくない。」バンドを追う時に誰しもが一度は抱く思いを、私は「夏は巡る」に対しても持っている。


まとめ

 「既発曲ばかりのアルバムなんてなあ……」「曲順がリリース順なんてベストアルバムじゃないんだから」最初にどうしてもそういったネガティブな考えが少しはよぎってしまったことは否定できない。だが曲順で何度もリピートすると、いや無意識にリピートしてしまうからこそ、彼等の拘りがどこまでかはわからないにせよ、やはりロックバンドのアルバムっていいよなという念に囚われずにはいられない。それはなけなしの小遣いでTSUTAYAに行き1000円で5枚のアルバムを借りていたあの頃と同じように、ある程度の時間をもって1曲目から順番にアルバムを聴くということ自体にまだ意味を見出せることへの喜びでもある。
 
去年のツアーのSEである(これも行った人しか知らないか)「PEOPLE SAVE THE MACHINE」から始まり、これまでのピポワンの進化の軌跡を辿って「closer」で星巡りという1つのテーマに近づく。ハートビート曲2連続を経て、敢えてシンプルな3ピース曲「高円寺にて」でさよならが近づいていることを実感する。「君に金星」というショートチューンで星を巡る旅が終わり「鈴々」で最後はポップに終わる。そしてこの曲はお得意の「曲終わり0秒曲」である。気づいたらフェードインする1曲目に戻っており、まさに星巡りのような、惑星の公転のような、何度でも繰り返し聴きたくなるアルバムだと思った。ここからら始まる、新たに「3枚目」として刻まれるピポワンの歴史への期待値も、上げざるを得ない。

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