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動物は正の強化で幸せなのか?

へたくそトレーナーは思うわけです。

トレーニングがうまく進まない、イルカは離れ戻ってこない、時には威嚇されたり、採血しようとすればあとちょっとのところで逃げられる。
そんな毎日を過ごしていると、ヨカラヌコトを考えてしまいます。

「強化子がもっと魅力的だったら、トレーニングがどんどん進むのに」
「強化力さえ強ければうまくいくのに」
「どこかにもっと強力な強化子ないかなー」

資料に載っていないかな、もう一度調べてみるか?
ちなみに、書籍や論文や他人の知識に答えを求め、必要な知識を集めただけで終了することを逃避と呼びます。

最強の強化子を作り出す事だけを考えて、魔女が魔法の薬を煮詰めるように、頭の中の思考を煮詰めていきましょう。

間欠強化を使えば、少ない餌でトレーニングに集中させる事ができそうだ。
比率変動強化スケジュールはギャンブルと同じで、執着させる事ができる。
強化子に執着させる事で、イルカはトレーニング中毒になるのか?
強化子の種類は沢山あったほうが良さそうだ、他に強化子になりそうな物はないかな。
強化子となる薬はないだろうか、いっそのこと魔女につくってもらおうか。

とてつもなく強い強化力をもった強化子を手に入れたら、どんなトレーニングになるだろうか。強力な強化子を目の前にしたとき、イルカはどんな行動をするだろうか。

サイン反応は良くなりそうだ。
トレーニングも進みそうだ。
強化子のことしか考えず、強化子のためなら何でもやるかな。
逆にNGの時には、強烈な威嚇や攻撃が即発生しそうで非常に危険かも。
自由時間は全く動かないか、強化子を求めて過剰に動き回るか。
考える事は強化子の事だけで、イルカ自身の意思は消えてなくなるかも。
強化子への執着が異常で、むしろ依存状態だな。

なんか薬物中毒患者、強化子の奴隷のようです。

私が育てたいイルカとは違う。
強化子の効力を高める方法を突き詰めると、その先には暗黒面が広がっているようです。危ない、危ない。

でも大丈夫、私は絶対に暗黒面には引き込まれない。
正の強化をしているから大丈夫、負の強化子は使わない、罰は使わない。
イルカの良いところを強化して、伸ばしているから大丈夫。
イルカも強化子が沢山もらえると嬉しいはず。
エンリッチメントも強化子はあったほうが良い。
どうすれば強化子がもらえるか、イルカが考えることは良い事だ。
イルカが、強化子を得るために強化子の事を考えている時間は長いほうが良い。
むしろ、強化子の事だけを考えているほうが、余計な事しないので楽だ。
強化子に執着すればするほど、イルカにとって良い事だ。
強化子に執着?
あれ?また違う方向に進んでいる?

本当に大丈夫なのか?正の強化。
強化子の効力が高すぎる事が問題のような気がする。
ちなみに、強化子は変えずに同じ大きさの魚1尾と固定して、トレーニング開始状態を変えるとどうなるだろうか。

健康な状態 ⇒ お魚1つ
少しだけ栄養不足 ⇒ お魚1つ
かなり栄養不足 ⇒ お魚1つ
飢餓状態 ⇒ お魚1つ

飢餓状態のほうが強化力は高そうだ。
でも、ここまでくると負の強化ですね。
正の強化と負の強化は表裏一体、本質は同じものなのか?
もしかしたら、気づかないうちに負の強化をしている可能性がありそうだ。

迷走気味なので、ここでまとめ。
正の強化には欠点もあり、強化子に依存する動物が出来上がる可能性がある。
正の強化と負の強化は本質は一緒、負の強化に入り込まないように注意。
そもそも正の強化はアイテムの一つで、単なる道具、使う人次第で良くも悪くもなる。
正の強化を使っていれば動物は幸せだ、とは単純に言えない。
どんなイルカを育てたいのか、理念や思想が必要だ。
という事になりました。


さて、トレーニングがうまくいかないので、ヨカラヌコトを考えてしまいましたが、私がやりたいのは、イルカの幸せに繋がるトレーニング、イルカが楽しいと感じるトレーニングです。イルカは好奇心が旺盛で、様々なモノを調べたり、理解したり、手に入れたいと思っています。一方で、拘束されること、強制されることに対して、拒否反応を示します。
私がしなければならなかったのは、種目の選択や、トレーニングの方法、求めるレベル設定がイルカにとって楽しいものになるように考える事でした。私と同じように、トレーニングがうまくいかないのであれば、何がイルカにとって楽しいのか、自分の都合を押し付けていないか、イルカを強制していないか等、イルカの都合を少し意識するだけでトレーニングが楽しい時間に変わると思います。

物質的に豊かになり、心の豊かさが求められる時代です。幸せ、楽しみ、心の繋がりなど目に見えないものが注目され、飼育動物についても幸せや心の豊かさにが求められます。
動物に心はあるのか、動物の感情や情動を知るにはどうすばよいか、動物の幸せとは何か、科学的に検証できるのか、再現性はあるか等、検討しなければならない課題は多く残されていますが、不十分でも今できる事から動き始めても良いのではないでしょうか。動物たちにとって、楽しみや幸せは多すぎて副作用が出る事はないと思います。
これからのトレーナーには、動物が楽しみや幸福を十分に感じることができるような飼育やトレーニングを行う事が求められます。もちろん行動形成や維持は当然ですが。
嫌がる動物を強制的に出演させたイルカショーや、人に触られることを拒否している動物とのふれあいプログラムは、すぐに見抜かれ価値のないものとして評価されることでしょう。
トレーニング技術は道具の一つです。道具を正しく使うには理念や思想が必要です。動物にどのように向き合うのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。火付け役はトレーナーの皆様です。

つづく・・・。

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