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前編! 前十字靭帯損傷の基礎から学ぶ~病態・受傷メカニズム・手術方法~

スポーツの場面や日常生活でも重要な役割をしている前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:以下ACL)は損傷や断裂を起こすとリハビリなど長期間を要す。

放置しておけば関節軟骨や半月板損傷などを併発し、将来的に膝OAに進行する可能性が高くなります。

そして、手術後のメディカルリハビリテーション、競技復帰するためのアスレティックリハビリテーションもかなりかなり大事です。

ACLの基礎的な部分からリハをどのように進めていくのかを前編と後編に分けて書いていきます。

ACLの選手を特に見る機会がないと「あぁ、内側広筋の筋力が無くなるよね」とか「BTBとSTGだよね」とか「ラックマンテスト大事だっけ」みたいな教科書的な部分しか覚えていない状況になります。(自分がそうでしたw)

解剖からもう一度詳しく見ていきましょう!

前十字靭帯とは

・前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:以下ACL)は膝関節の滑膜内に存在する厚く強靭な靱帯で膝関節を多方向に安定させる機能を持ちます。

引用:プロメテウス解剖学


そしてACLを構成している成分はⅠ型コラーゲンとエラスチン、プロテオグリカン、線維芽細胞などです。

主な成分がⅠ型コラーゲンと線維芽細胞です。この2つを整理していきましょう。

Ⅰ型コラーゲンの特徴は引っ張られる力に強く頑丈なつくりをしています。なので、骨同士をつなげて関節を強くするのに適した作りです。

そして、筋膜などと違い、コラーゲンは規則的な配列をしているのである一定方向へのストレスに非常に強く反応します。ACLであれば前方へ偏移を制動する。とかですかね。

線維芽細胞はヒアルロン酸やコラーゲンなどへ形を変化させます。

そのほかにも、水分を保つプロテオグリカンや弾力性のあるエラスチンも存在します。

ACLは半月板などと同様血液量が乏しいので損傷を引き起こすと自然治癒は期待できません。

前十字靭帯の解剖と機能

では次にACLの付着部を見ていきましょう。

ACLは大腿骨外側顆内側面~脛骨高原の前顆間窩に付着していて、前内側線維束と後外側線維束の2つの線維で構成されています。

引用:プロメテウス解剖学

全体で見れば屈曲位で弛緩して、伸展位で緊張すると言われていますがもう少し細かく見てみると伸展位では後外側線維束が緊張し、屈曲位では前内側線維束が緊張します。

後ろから前方へかけて走行して、伸展で緊張、屈曲で弛緩している、と考えて頂ければいいと思います。

そして靱帯の走行上様々な動きを制御すると言われています。

主な制御機能としては脛骨の前方移動を制御しています。

大腿四頭筋が下前腸骨棘から脛骨粗面に付着している為、ジャンプの着地やカッティングで大腿四頭筋の力が働き脛骨を前方へ偏移させようとします。

これが過剰に行かないように制御してくれているのがACLになります。他にも下腿内旋の制御機能などもあります。

前十字靭帯の受傷メカニズムとは

内側側副靱帯などは接触による損傷が多いのに対して、スポーツ関連のACL損傷の70%は非接触によって生じています。

損傷時の多くが、ジャンプの着地や片足着地、カッティングなどです。実際に選手に聞いても大腿こんな感じの答えが返ってきて「急に力が入らなくなる感覚」「足がガクッとした」など言います。

受傷肢位は、
①    膝関節がわずかに屈曲
②    膝関節の顕著な外反
③    膝関節の過度な外旋

これら3つがそろうと損傷する確率が高くなります。

前十字靭帯損傷診療ガイドライン2019でも、
ジャンプの着地や急停止で膝外反、脛骨内旋が損傷のリスクになると言われています。

先ほどACLは脛骨の前方移動を制御すると書いたので矢状面上の動きのみで損傷すると思われたもしれませんが、このように見てみると矢状面、前額面、水平面すべての要素が絡み合い非常に強いストレスがACLに加わった時に損傷するのが分かると思います。

ここで片足着地時にACLを損傷するメカニズムを考えてみましょう。

①    ジャンプの片足着地で足部が地面に固定される
②    距骨下関節回内(踵が外向く)
③    距骨内旋、底屈、下腿は距骨の動きについていくので下腿内旋、内方傾斜
④    相対的に大腿骨は外旋(下腿が内旋するため)
⑤    大腿四頭筋が下腿を引っ張りさらに張力が加わる
⑥    ACLは回旋、剪断ストレスが加わり牽引され引っ張りに耐えられず損傷する

これが一瞬で起こります。

怖いですねぇ~

前十字靭帯の手術方法は?

先ほども書きましたが、ACL損傷を放置することで関節軟骨や半月板の障害を併発し、将来的に膝OAへ進行する可能性が高くなります。だから、基本的には手術が進められます。

手術方法は元のACLの大腿骨、脛骨付着部に骨孔を作製し、移植権を誘導・固定することでACLを再建し機能を再獲得する、というものになります。

現在の主に使用される移植腱は自家腱を用いたものです。使用されるのは骨付き膝蓋腱(以下BTB)とハムストリングス腱(STG)です。

自家腱のメリットとして免疫反応や異物反応の危惧がなく、治癒や成熟が早いとされています。デメリットは採取部の筋力低下など。

BTBは両端に骨がついているので骨癒合が早期に生じます。また、STGと比べて破断強度が強く正常ACLより高いと言われています。

STGは多重折にすることで強度を補うことが可能です。1重束、2重束、3重束とそれぞれACLの解剖学的な形態を考慮する必要がある。STGは骨-腱の癒合なのでBTBに比べ遅くなる。

因みにBTBとSTGの手術成績に大きな差はないとされています。

八王子スポーツ整形外科さんの半腱様筋腱を用いた動画が非常に分かりやすいのでこちら是非参照してみてください↓↓

https://youtu.be/1J3CoP0jNAUより引用

まとめ

・前十字靭帯は滑膜内に存在し、血液量が乏しく自然治癒が見込めないので基本的には手術が進められる

・膝関節屈曲位で弛緩し、伸展位で緊張する

・膝関節の外反、外旋はACLの受傷リスクを高める

・手術はBTBとSTGを用いたものが主流

参考文献

石井、森口:膝関節理学療法マネジメント

前十字靭帯損傷診療ガイドライン2019

Donald A 訳嶋田、有馬:筋骨格系のキネシオロジー

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