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腸腰筋を機能させる為に必要なこと~解剖・運動学・アライメントの観点から~

今回は臨床ガチガチな話をしていきます。

皆さん、大好き腸腰筋の話です。

以前スポーツ選手が腸腰筋を鍛えた方がいい理由を解説しました↓↓


これは一般の方でももちろん鍛えた方がいい筋肉です。

腸腰筋を鍛えることで、

✓股関節の痛みを改善することができる
✓良い姿勢を保持することができる
✓腰痛が出にくい
✓腹筋に力が入りやすくなる
✓太ももが張りにくくなる

などメリットが沢山です。

腸腰筋について一から紐解いていきましょう!


腸腰筋の基礎解剖

まずは基礎解剖からやっていきましょう。

腸腰筋は、「大腰筋」と「腸骨筋」で構成された股関節の屈筋です。

大腰筋は体幹と骨盤を繋ぐ唯一の筋肉で腰椎を安定させる重要な筋肉です。

大腰筋

起始:(浅層)Th12~L5の椎体側面、椎間板の側面
   (深層)L1~5の肋骨突起
停止:大腿骨の小転子
機能:股関節の屈曲、外旋
   腰部の側屈、腰椎の安定化
神経:大腿神経

大腰筋の特徴は、股関節屈曲筋であると同時に腰椎を安定させる機能があるということです。

大腰筋は腰椎を前弯させるので過剰に使われたり、使われなさすぎは腰痛や股関節痛の原因となりやすいです。

また起始が浅層と深層となっていて、浅層は腰椎を屈曲させ、深層は腰椎を伸展させます。

股関節の動きだけでなく腰椎の動きにも関与しているということですね。

腸骨筋

起始:腸骨窩
停止:大腿骨の小転子
機能:股関節の屈曲、外旋
神経:大腿神経

腸骨筋は腸骨窩から起始して鼠径靱帯部で大腰筋と癒合して大腿骨の小転子に停止します。

腸骨筋は強力な屈筋で、骨盤が固定された際には大腿骨を屈曲し、大腿骨が固定された際には骨盤を前傾させます。

股関節の屈曲と言えば教科書的には前者の骨盤が固定された際の股関節の屈曲が思い浮かぶと思いますが、

固定された大腿骨(地面に足が固定された状態)で骨盤が前に傾けば相対的に股関節の屈曲となります。


腸腰筋の筋線維構成について

腸腰筋の筋線維タイプを研究した報告があります。

・大腰筋では白筋線維の比率が最も高かった
・腸骨筋では白筋は中間線維とほぼ同程度だった
・大腰筋と腸骨筋は赤筋線維が少なかった

腸腰筋って赤筋線維が多いんじゃなかったっけ?
持続収縮に優れているんじゃなかったっけ?

こう思う方もいると思います。

個人的にはここからが面白いなと思って、

・筋線維の太さは大腰筋、腸骨筋ともに赤筋・中間・白筋の順に大きくて赤筋の太さは白筋の約3倍だった
・筋線維の密度は大腰筋では赤筋が、腸骨筋では中間線維が最も高く白筋の密度は低かった

つまり、比率としては白筋線維が多いけど太さや密度は赤筋線維が高いので持続的収縮に優れているんだと思います。

姿勢保持筋と呼ばれるのもこういった理由があるかもしれませんね。

腸腰筋のトレーニングが大事なのが分かります。


腸腰筋の役割

腸腰筋はヒトの体で唯一股関節前面を覆う筋肉です。

もちろん関節包や腸骨大腿靱帯なども股関節前方を守る組織ですがこれらは受動的な支持となります。

つまり自分からは力を発揮できない静的支持組織です。

その点、腸腰筋は能動的に自分の意志で動かすことができます。

股関節の外側は中殿筋や小殿筋などが、股関節の後面は外旋筋や大殿筋などが股関節を安定させますが、

股関節前面は腸腰筋のみが骨頭を求心位に股関節を安定させるように働きます。

その為、腸腰筋が作用していなければ骨頭が前方変位し屈曲時大腿骨と寛骨の間でインピンジメントを起こします。

骨頭が前方変位し股関節屈曲で衝突

そして、腸腰筋はヒトの体の中でも最も大きな屈曲の力を有する筋肉と言われています。

ただ、腸腰筋が大きな力を発揮するのは股関節の肢位が関係していて、

「深い屈曲域で大きな力を発揮する」

と言われています。

・股関節を安定させる
・深い屈曲での作用

この点も踏まえて腸腰筋鍛えてあげましょう!


腸腰筋と大腿直筋の関係性

「立位で大腿前面がパンパンに張っている」
「運動すると大腿前面が張りやすい」
「sway back姿勢になっている」

臨床でこのような方々は多くないでしょうか?

これらの原因の多くが、

腸腰筋が使えなくて大腿直筋が過活動を起こしている

ということ。

股関節屈曲運動で骨盤後傾量が大きいと大腿直筋の筋活動開始が早く、骨盤後傾量が小さい場合は大腿直筋の筋活動開始が遅い傾向に見られた。骨盤後傾量が大きいと大腿直筋が過活動し、骨盤後傾量が小さいと腸腰筋の収縮が起きていることが考えられる


つまり、骨盤が後傾していれば大腿直筋が活動を起こしやすく、骨盤が前傾位に近づくほど大腿直筋の過活動が抑えられ腸腰筋が収縮しやすくなるのでは、ということが考えられたのです。

立位姿勢を考えてみればわかりやすいですね。

通常の立位姿勢は重心線が股関節のやや後方から中央を通り大殿筋や腸腰筋などが働くのですが、

骨盤後傾量が大きい場合は重心線が股関節の後方を通ることになります。

これは外部股関節伸展モーメントの増加と言えます。

簡単に言えば、重力の影響で股関節を伸展させようとする力が増えるのです。

股関節を伸展させる力が増加するということは、支える場所が無いとヒトは倒れてしまうのでここで働くのが大腿直筋など股関節前方の筋肉です。

つまり、外部股関節伸展モーメント(股関節を伸展させる力)が増加すれば内部股関節屈曲モーメント(股関節前面の筋肉の働き)も増加するので自ずと大腿直筋は過活動を起こしやすくなるのです。

インナー(腸腰筋)が効いてない状態でアウター(大腿直筋)が過活動するので大腿が張りやすいという状態ができてきます。


理想的な胸郭と骨盤の位置

ここまで読んでいただくと分かるのは、ただ股関節屈曲のトレーニングを行うだけでは腸腰筋は働きづらいということです。

大事なのは、

「ニュートラルポジション」

これをつくってあげることです。

ニュートラルポジションとは体にかかる負担が最小限で体のバランスが取れている姿勢になります。

横隔膜と骨盤底筋が平行になる位置とも言われます。

右がニュートラルポジション

ニュートラル姿勢が作られることにより日常的に腸腰筋が収縮しやすい状態となり大腿前面の過活動が減少していきます。

結果的に腸腰筋が働きやすい状態となります。

では、実際の現場でどのようなアプローチをすればいいのか?

これをSway back postureを例にとって考えてみましょう!


臨床的な考え方と実践


Sway back postureとは骨盤が後傾または前傾で骨盤前方シフト、股関節伸展を引き起こす姿勢です。

左写真

姿勢分類についてはこちら↓↓

上半身にもアプローチが必要ですが今回は股関節を中心に話していきます。

骨盤が後傾で前方シフトしている場合大腿後面は短縮し、前面は伸張された状態です。先ほどのモーメントの話で言うと、

「外部股関節伸展モーメント」の増加。
「内部股関節屈曲モーメント」の増加。

つまり、大殿筋の筋出力が減少し大腿前面の筋肉や筋膜が受動的な支持を作っている状態です。

これを変えるためにまずは後面のハムストリングスや大殿筋をストレッチしていきます。

大殿筋は股関節伸展+外旋なので股関節屈曲+内旋でシンプルに伸ばしていきます。

大殿筋、ハムストリングスが伸びてきたらその後に腸腰筋に刺激を入れていきます。

腸腰筋は赤筋線維の面積が大きく持久力に優れていて、深い屈曲域で強い力を発揮する。

これが特徴でした。

なので、エクササイズとしては浅い屈曲ではなく、屈曲位から深い屈曲を行うエクササイズが効果的です。

屈曲→深い屈曲。

さらに、

・腰椎の前弯
・骨盤の前傾

これを保ったまま股関節屈曲を行っていきます。

後傾したまま行うと大腿直筋などのアウターマッスルが優位に働きやすくなり腸腰筋の収縮が効かないのでこれは意識しましょう。

エクササイズとしては、座位で股関節90度からさらに屈曲していきます。

もちろん腰椎後弯と骨盤後傾が入らないように。

骨盤の後傾が入らないように股関節の屈曲


これができれば立位で壁を支持して股関節屈曲を行います。

座位の時のように骨盤が固定されていないのでより骨盤が後傾を起こしやすい。

それをコントロールしながら股関節屈曲を繰り返す。


臨床ガチガチで書いていくと初めに宣言しましたが理論的なところがかなり多くなりましたw

やっぱり基礎知識って大事ですね。(書いてて思いました)


まとめ

・腸腰筋は股関節と腰椎を安定させる筋肉でヒトの体では股関節の前面を覆う唯一の筋肉

・腸腰筋は白筋線維の比率が多いが、太さ、密度の観点では赤筋線維が優位

・エクササイズは屈曲位から屈曲を行い、腰椎前弯、骨盤前傾が崩れないように


参考文献

・小栢進也 他:関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮筋力の変化―数学的モデルを用いてー

・本島直之 他:骨盤大腿リズムにおける骨盤後傾量と大腿直筋の筋活動との関係

・長谷川真紀子:ヒト腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)の筋線維構成について

・Donald A 訳嶋田、有馬:筋骨格系のキネシオロジー

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