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地酒が結ぶもの -富山の三蔵を訪問して-

#三笑楽酒造 #林酒造場 #皇国晴酒造 #地域ものがたるアンバサダー

こんにちは、タカハシリョウです。

2022年の6月から、地域ものがたるアンバサダー活動で富山県を担当いたしました。
地域の魅力として地の物、特に国酒である地酒の位置付けに興味を持っており、米どころで酒蔵も多くある富山県でも3つの酒蔵を訪問させて頂き、蔵元からお話を伺うことができました。

世界遺産に囲まれた酒蔵、三笑楽酒造【南砺市】

岐阜県の白川郷と山を挟み接している南砺市の五箇山は、共に合掌造りの集落として世界遺産に登録されています。
そんな雪深い山深い場所に、三笑楽酒造さんは溶け込むように佇んでいました。

お話を伺えたのは、7代目代表であり杜氏でもある山﨑 英博さん。
先ず聞きたかったのは、なぜこのような山深い場所で操業しているのか、ということ。
山﨑さん曰く「ここにお米があったからではないか」。

その昔は現金のように貴重だったお米ですが、三笑楽酒造さんの足元には米どころでもある広大な砺波平野が広がり日本酒製造に向けられるくらいの余裕があり、またお米やお酒を運ぶために庄川を利用できたことも大きい要因だった可能性もあるとのことでした。

とはいうものの酒造り本番となる冬には相当な雪も降るエリアであり、起伏に富んだ山間の地形のため操業の効率性は良くないのではと勝手に心配になるものの、そこは「地域あっての酒蔵なので」という確固たる信念のもとでの酒造りがあるとわかりました。

「この地で育てられ、この地で愛されてきた、この地を離れるつもりはない」と山﨑さんは言い切る。
蔵元の真髄を垣間見た気がしました。

合掌造りの建物にも溶け込む酒蔵は、地域に根差しているということの現れ

そんな三笑楽酒造さんの日本酒は骨太と表現されることが多いようです。
お米の旨味がどっしりと、しっかりと感じられるということでしょうか。

そのような味わいとなるように、造りとしても手間のかかる山廃仕込みをわざわざ行い、アミノ酸を豊富にしているとのことでした。
冬の寒さはゆっくりとお酒を醸すことに適しており、夏の涼しさもできたお酒をやさしく熟成させてくれることも、五箇山の地の特徴ということです。

五箇山は山岳部のため、地元では山菜や鮎・岩魚といった川魚も多く食されます。
どちらも苦みを含む食材ですが、それらを使う料理に合うような(味わいとして負けないような)日本酒を造っているということ。
まさに愛され育てられた地元のことを見て、地元のためにお酒を醸すのが三笑楽酒造さんの存在意義と感じました。

ここでは地酒が、地元の方の生活と結び付いていると感じました。
「お酒は人の繋がりを深くし、人生をさらに豊かにしてくれる役割がある。笑って楽しく飲んで頂きたい。」
まさに酒蔵の名前に相応しい。

山﨑さんがこれから目指す日本酒のスタイルは「もっと”色気”をプラスすること」。
色気とは、余韻のようなイメージとのことで、食中酒としてより料理と合う味わいの追求と理解できました。


富山県最古の酒蔵、林酒造場【朝日町】

富山県でも最西端、新潟県との県境にあるのが朝日町。
そこに1626年以来、約400年に渡り日本酒造りをしてきているのが林酒造場さん。
富山県では最古となる酒蔵さんです。

お話をしてくださったのは、杜氏であり15代にあたる林 秀樹さん。
400年という伝統をどう捉えているのかを伺ってみたいと考えてました。

これまでの伝統と英知を集結した昔ながらの酒造りをしている銘柄としては「黒部狭」があるものの、一方で平成25年に新銘柄である「林」を発表している。
この「林」は富山県に限らず全国各地の優れたお米(酒米)の個性を生かすために立ち上げたブランドということです。

林さんは「伝統に縛られずに、新しい取り組みも必要」と言う。
林酒造場さんの在る場所はその昔は富山と新潟を行き来する関所があった場所ということで、元来から新しい情報などが行き交う場所だったということから、400年という長い時間をかけても守りつつも変化して存続できる気質があるのだと思えました。

掲げられている看板の「関桜」からも、関所であった名残が伺える

伝統的な銘柄の「黒部狭」は、淡麗辛口で和食、刺身に合うまさに富山県ならではのお酒ですが、一方で新ブランドの「林」は味と香りをしっかりと出し、味の濃い食事に合うように設計されているとのこと。

そのために変えたことは、全て手作業とすることにこだわったこと。
そのために、洗米は一般的な量の1/5程度の少量で作業することでムラを抑え、麹づくりでも昔は普通に使われていた麴蓋という少量で非効率ではあるが温湿度管理の品質が上がる器具に”戻し”たり。

伝統的な作業を新しい味わいを目指すために活用するという、まさに受け継がれてきた英知の結晶がそこにあるように感じました。

「(林は)若い方に合うと思う。まだ日本酒を飲んだことがない方に飲んでもらいたい。」と林さんは言う。
まさに味の濃い現代人の舌や食生活に合ったお酒ということでしょうか。

どんな料理に合うのか?
それはパスタや中華料理とのことでした。
林酒造場さんでは、地酒は新時代と結び付いていることがわかりました。


名水百選の天然水が自噴する酒蔵、皇国晴酒造【黒部市】

富山湾から僅か100mほどのところにあるのが、皇国晴酒造さん。
まさに海とともに在ってきたと言え、その歴史も創業140年*と長い。
*:確証のある範囲の来歴であり、古文書から推定すると200年前には存在していたようです

お話をしてくださったのは代表の岩瀬 新吾さん。
岩瀬さんの柔らかな人柄そのままに、皇国晴酒造さんの目指すスタイルは「毎日気軽にのんでいただける美味しいお酒」と自然体でした。

岩瀬さんは伝統を「時代を受け入れる」と表現されてました。
流されるのではく、変化するという意味での受け入れる。
「伝統とは、しっかりと次世代へ(酒蔵を)引き継ぐこと。そのために変化して守ることが役目。」
それが、酒蔵運営に生かされており、興味深く感じました。

蔵元・蔵人の人柄がお酒のスタイルとリンクする

消費者の食生活が変わってきていることは前の林酒造場さんでも伺えた点で、皇国晴酒造さんでも酒造りのプロセスをしっかりと守り手間はかかるが品質を高くあることを目指しているが、変わるのは消費者だけでなく酒蔵で働く蔵人(従業員)も同じと捉えておりました。

岩瀬さんの先代までは「背中を見て盗め」と表現されるような昔気質の職人肌が求められる環境(職場)だったそうで、そのことが若い蔵人が定着することのハードルになっていると感じていたそう。

そのような経験から岩瀬さんは、今の酒蔵の雰囲気を「明るく楽しく、柔軟にチャレンジ」というモットーにしたそうです。
「蔵人が楽しく働いていないと、良いお酒は造れるわけがない。お酒も生きているのですから。」
その最たる事例が、奥様の岩瀬 由香里さんが2022年秋から、富山県初となる女性杜氏になるという事例に現われていると感じました。

杜氏が変わることに不安は無かったのか?
「失敗してもチャレンジすることが重要。ポジションは人を育てることを実感しており、覚悟をもって取り組んでいる姿は安心して任せられる。」

きっと皇国晴酒造さんではいろいろとチャレンジできるのであろう。
最近ではIT系など異業種からの転職もあるようで、人を育てる環境を整えることで伝統というバトンを渡すことができそうです。
皇国晴酒造さんでは地酒が蔵人と結び付いていると感じました。

ちなみに、酒蔵の敷地内には環境省が指定する名水百選の黒部川扇状地湧水群に属する「岩瀬家の清水」が湧き出しているということで飲ませて頂きました。
実は深さの違う2本の湧き水が敷地内にあり、仕込み水に使うほうは北アルプスの雪解け水が染み込んだとてもクリアな味で、もう1本の湧き水は富山湾からの浸水もあるようで塩味を感じる味わいでした。


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取材にご協力いただきました皆様、ありがとうございました。
三笑楽酒造 山﨑 英博様
林酒造場 林 秀樹様
皇国晴酒造 岩瀬 新吾様

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