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心は孤独な狩人 書評

『心は孤独な狩人』
カーソン・マッカラーズ作
村上春樹訳

1 内容



主な登場人物は以下の5人です。
○シンガー 
 白人で聾唖者。ギリシャ人のアントナプーロスと共に2人で暮らしていた。
○ビフ・ブラノン
 ニューヨークカフェで働いている男。
○ジェイク・ブラント
○ミック
 女の学生。音楽が好き。
○コープランド
 黒人の医師。黒人差別について、常に考えを張り巡らせている。また、差別に対する行動を起こそうともしていた。常に自分が正しいと信じている彼の周りには、家族が近寄らなくなっていた。
この5人のそれぞれの物語と、シンガーを中心とした彼らの物語で話は進んでいきます。

 舞台はアメリカ深南部のある町で、労働者の大半は貧困に悩まされています。
 シンガーは同じ聾唖者のアントナプーロスと暮らしており、2人は仕事の時間以外はほぼ人と関わらず2人だけで生活をしていました。しかしある日、アントナプーロスが精神病院に送られ、シンガーは1人生活をすることに。孤独に耐えられなくなったシンガー下宿屋に部屋を借り、ニューヨークカフェで、食事を摂るようになりました。そして毎晩1人で町を歩き続けました。
 ニューヨークカフェでシンガーはジェイクとミックとコープランドに出会います。彼らはそれぞれにシンガーに好意を持っており、彼が聾唖者だと分かってはいるものの、個人的に話を聞いてもらっていました。
 ある日、アントナプーロスに会いに行ったシンガーは彼がすでに亡くなっていることを知ります。彼はその後、自殺しました。
 彼の自殺は町の人々に深い悲しみを与えました。ミックは音楽が書けなくなり、ジェイクは街を出ていきました。コープランドは、家族により強制的に町から追い出される形になりました。
 ミックだけはニューヨークカフェに通い続けていますが、前とは別人になってしまったとブラノンは感じます。


2 感想


 続けて、2度読みました。1度読んだだけでは咀嚼が足りないと思ったので、間を置かずに読みました。
 貧困や黒人差別などを扱っているので、小説全体に暗さが漂います。
 タイトルにもある『孤独』。
 主要人物はそれぞれが孤独を抱え、物語の最後には完全に孤独へと向かっていきます。
 アメリカ南部の黒人差別問題に関しては、アカデミー賞を獲得した映画の題材でもあったので、余程深刻なんだなと感じていました。
 本作の主要人物の中にも黒人が出てきます。特に黒人医師であるコープランド医師は、黒人差別に対して持論を持っており、状況を変えようとしています。
 今日本に住んでいる限り、わたしたちは黒人差別をほとんど感じることはありませんし、そもそも人種差別すらも感じることがありません。
 けれど、陸続きの国ではそうはいかない。肌の色、出身国、差別はあらゆるところからやってきます。
 また、貧困について。この作品では黒人だけでなく白人も同様に貧困に喘いでいる様子が書かれています。
 貧困はいつの時代にもついて回りますし、まさに今の日本の問題でもある。
 5人の主要人物を通して、これらの問題がまるで目の前で行われているかのように書かれており、肌に突き刺さります。

 5人いる主要人物の中でわたしが特に感情移入したのが、聾唖者のシンガーです。アントナプーロスへの愛や、他の人物との関わり方、アントナプーロスの死からの自死。彼の中にいるのはいつだってアントナプーロスなのです。アントナプーロスが彼の世界のすべてだった。
 彼の最後の場面には目頭を熱くさせてしまいました。

 内容では本当に骨格の部分しか書いていません。本ではそれぞれの主要人物のより広い物語が書かれているので、非常に楽しめると思います。



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