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【文字で味わう】うばいあえ!現代川柳

これをやりました

というわけで、Ptf.126にて、現代川柳の「読み」の訓練(という名のおしゃべり)をしました。参加者は詠みも読みもてさぐりレベルのど素人2名。すこし長いですが、文字でもアーカイブしておきます!

▲本編はこちらから聴けます!

いちおうルール

まずは、最近見かけた現代川柳をちゃらんぽらんな直感であらかじめ20句ピックアップ(ツイッターの現代川柳系bot経由が8割、ピックアップした今田本人も忘れた謎ルート経由が2割)。そこから今田と高澤それぞれが「この句はぜひ家に持ち帰りたい!」と思った7句ずつを選び、その持ち帰りたさを紳士的に口げんかでアピール。「おもしろい読みを披露できたほうが勝ち=その句を持って帰れる」といった雰囲気としました。

そもそも「読む」って?

ざっくり「句を解釈する」とか「句を味わう」ていどの意味で使っています。「句に込められた思いを読み解く」とか「句の答えを探る」的なことはしてません。(すくなくともこの回では)句を題材にとったイメージふくらませの術といった塩梅です。

うばいあい・怒涛の7句

物置の暗がり 少年発酵する

――細川不凍

今田:まずはぼくが選んだやつから
高澤:はい
今田:高澤さんはべつに要らないんですよね
高澤:要らないとかじゃないです。おもしろい。イメージしがいがあります
今田:1字空いたところがある。ここで発酵してるんでしょう。つまりこのスペースが暗がり……これ「発酵」ってほんとかな。「暗がり」と対置させるなら「発光」じゃないかな
高澤:1文字空けることによって間をかんじます
今田:あ、そうか、発酵って一瞬では出来ないことか。要するに、発酵するには1字必要だぞと言ってるわけですね。よし、これはぼくがいただきます
高澤:はい。次はわたしが選んだやつです

奪取したのは一枚の海でした

――倉富洋子

今田:これもぼくがもらいます
高澤:どうしてですか。選んでませんよね
今田:人が頼んだものって美味しそうに見えます
高澤:海の拡がりを「一枚の」って言うのがいいんですよね。面で捉えてる
今田:実際の単位は、1海(かい)? なんでしょうね。よく「7つの海」って言いますよね。あと昔「数取団」ってあったね
高澤:おすもうさんに殴られるやつ
今田:あ、これ奪取するために単位をつけたんじゃない? 単位のないものって奪取できないでしょ
高澤:なるほど。では次

ティーカッププードルにして救世主

――暮田真名

今田:ぼくのです
高澤:これわたしも選びましたよ
今田:でもぼくは(この句の作者である)暮田さんの文章で現代川柳を知りましたし、ティーカッププードルのブリーダーもやってますし、あと、救世主もやってますし
高澤:親和性がありますね
今田:ぼくの手元にないとおかしい句です
高澤:わたしは犬が嫌いなんですよ。でもこの句の文字で見ると、わたしの苦手とする犬とはかけ離れたものとして味わいなおせる
今田:へ~。現実世界にいるティーカッププードルではなく、言葉の世界だけにいるティーカッププードル。それを見て、「こっちなら好きだわ」と
高澤:そうです
今田:つまり(犬嫌いにとっての)救世主ってことか。うん。嘘にしてはよくできた話だと思います
高澤:嘘……
今田:これバトルだから、嘘とか本当とかつじつまとかはどうでもいいんですよ。なんでもありというか。ひとまず今回はゆずりましょう。続いては高澤さんが選んだやつ

弔はそれぞれの木にある いくさ

――北村泰章

今田:「戦」なのか「行くさ」なのか。訳せないというか、日本語だからこそのやつですね
高澤:わたしは、扉を開けて振り向いて、そこに残していく人たちに対して「ぼくは行くよ」って言うイメージでした
今田:「弔はそれぞれの木にある」は?
高澤:墓標。木が
今田:これも1字空けがありますけど、これは?
高澤:「それぞれの木にある」と言った人が、それを自分に落とし込んで、次へと(意識を)ジャンプするための間というか
今田:は~、なるほど。ジャンプのために体を沈み込ませるみたいな……やりますね高澤さん
高澤:そうですか?
今田:では、これはお持ち帰りください。次はぼくが選んだやつです

オルガンとすすきになって殴り合う

――石部明

高澤:これほしいな~
今田:だめだよ。ぼくのですから
高澤:(選ぼうか)迷ったんですよ
今田:なにとなにになって殴り合うか、って考えたときに、やっぱオルガンとすすきなんだよね
高澤:どっちもすごい強そうですしね
今田:そう? 弱くない?
高澤:わかんないですよ
今田:でもすすきが強いはずはないよ
高澤:繊維が強いですよ。オルガンは一度壊れたら終わりですけど、すすきは踏まれても踏まれても立ち上がるイメージ
今田:それすすきですか?
高澤:麦ですけど
今田:なんか「すすき」で植物全体を指そうとしてませんか? ちょっと卑怯ですよ
高澤:でも、茎がしっかりしてますよ
今田:してないよ。いや、「オルガンと植物になって殴り合う」じゃなくて、すすきなのよ。オルガンとすすきって、ふつう(?)殴り合えませんよ。その殴り合えなさに価値があるわけで
高澤:だから、物質的な強さじゃなくて、イメージとか概念的な強さが……
今田:たしかに、現実世界の意味を外して、言葉だけの世界に飛び立てるのが現代川柳ですよね。なんというか、まず(現実世界の感覚では)オルガンとすすきが殴り合うのはおかしいわけです。で、さらに「そういえば」と思い返したとき、「オルガンvsすすき」というマッチメイクもおかしいと気づく
高澤:そうですね
今田:ふつう(?)なら、オルガンとフルートとかね、オルガンとピアノとかですよ。戦うとすれば
高澤:戦うとすればw
今田:すすきも、麦とか、もやしとか、そっち系でしょ。戦うとすれば。でもそうではなく「オルガンとすすき」なんです。これは川柳でしか出会えないんじゃないかなあ
高澤:「川柳でしか出会えない」っていいですね
今田:どうしてもぼくは出してしまうんですよ、こういういいフレーズを
高澤:負けました。次はわたしが選んだやつです

遠いところから来て不意に生まれる

――小池正博

今田:かぶった。ぼくも選んだやつです
高澤:なんのことかはわからないけど、喜怒哀楽どの感情も当てはまるんですよ
今田:ひとつの事象が、受け手によっていろんな色で受け取れる。それって「遠いところから来」たからなんです。距離のぶん選択肢が広がる。「遠いところ」から見たら「行っちゃった……」ってかんじがして悲しいけど、来られた側からしたら、「よく来たね~」ってかんじでうれしい……ただ、「行った」だの「来た」だの言ってるけど、これまだ生まれてないんですよね
高澤:そうか。「不意に生まれる」ですもんね
今田:だから、おまえら(≒おれたち)いったいなんの話をしてるんだ?っていうかんじもする。これはいいですよ
高澤:これほしいです~
今田:懇願みたいな顔してるけど、顔は関係ないよ
高澤:じゃあ(上下で)分けます? わたし「不意に生まれる」だけいただきます
今田:えー? 「遠いところから来て」だけ食べたってしょうがないしなあ。あと「不意に生まれる」だけ食べてもしょうがないと思うよ
高澤:そうか
今田:やっぱり一連でとらないと。でもまあ、いまの読みの切り口(喜怒哀楽どれでも当てはまる)は高澤さんのだったんで、記念にゆずります
高澤:ありがとうございます
今田:いえいえ。次はぼくが選んだやつですね

ほかのはもういいんだよ泉のほとりでいわれたこと

――柳本々々

高澤:これ、わたしもほしい……
今田:いや嘘でしょ? ぼくが(ほしいと)言ったからでしょ?
高澤:わたしも言いました。今田さんカンニングしました?
今田:ぼくはカンニングは一度もしたことがないんですよ。カンニングではたどり着けない学歴の持ち主ですから
高澤:泉だけ漢字です
今田:高澤さんヴィジュアル面よく見てますね。美大とか行けばよかったんじゃないですか
高澤:美大卒です(ほんとう)
今田:「ほかのはもういいんだよ」ってなんか、やさしい口調ですよね
高澤:わたしは怒りとか、諭し(さとし)かなと
今田:でも、泉のほとりで怒れますか?
高澤:泉って神聖なイメージだから、(主体が)誰ってわけじゃないけど、天啓、啓示みたいなかんじがするというか
今田:『シークレット・サンシャイン』ってこと?
高澤:映画の? 観てないです
今田:あっちか、カール・テオドア・ドライヤーの
高澤:観てないです
今田:観てないか
高澤:これは柳本々々さんの句ですね
今田:柳本さんはね、ネットの記事とかいろいろ読ませていただくと、すごくロジカルかつやわらかい文章で、おもしろい方なんですよ。あと『はじめまして現代川柳』という本。あれは小池(正博)さんが書いた本なんですけど、川柳作家としての小池さんを紹介するページは柳本さんが書いてる
高澤:へ~
今田:あ、すいません、句と関係のないことべらべらしゃべっちゃって
高澤:いえいえ。じゃあこの句は差し上げます。周辺のこともよくご存知のようですし
今田:「泉のほとり」ですから、ほとり、周辺の話もしておこうかなと。ぼちぼち後半ですね
高澤:では、次はわたしが選んだやつを

うばいあい・怒涛の4句

理科室を出て濁流の河となる

――楢崎進弘

今田:理科室を出たら廊下が濁流だったのかな
高澤:それ不思議な絵面ですね
今田:なんか1コママンガみたいに思えるな~
高澤:わたしは、理科室の水道って陶器で出来てるっていうイメージがあって、そこからもう、理科室とか建物とかは関係なく……
今田:?
高澤:住宅街にある川の壁面って、大きいホールみたいなのがあるんですよ。雨水を流すでかい穴が点在してる。で、そこから出ている水の元が理科室のように見えます
今田:???
高澤:なんて言えばいいんだろう
今田:一句からいろんなイメージを引き出すのはけっこうなんですけど、いまのはもう、もはや句が関係ないなって気がします
高澤:具体的すぎましたかね。個人的というか
今田:そうですね。(今回のバトルのような)人を説得しなければいけない場では、そういう(ひとりよがりな)スタイルではちょっと弱い気がするな~
高澤:「理科室を出たら廊下が濁流」っておもしろいですね
今田:急に? ぼくの読み? じゃあ(この句)いただけますか?
高澤:わたしがいただきます
今田:次はぼくの選んだやつです

お菓子あげるわ田んぼに落ちたんか

――小池正博

今田:これ詠まれた場にぼくもいたんですよ
高澤:そんなにニューなんですね

今田:「お菓子」っていうテーマで詠まれたやつですね。ぼくもやったんですけど、なんか頭でこねくりまわしたかんじにしかならなくて……いや、この句もぜったい頭で考えてるはずなんですけど
高澤:恐れ入りますと
今田:ええ。「お菓子」でここまで行けるのかと
高澤:飛距離がすごいですよね。次がわたしの選んだ最後の句です

煮えたぎる鍋 方法は2つある

――倉本朝世

今田:また1字空けですね
高澤:視点の移動が見えるんです。「弔はそれぞれの木にある いくさ」の1字空けは内面のジャンプだった(と、高澤が思った)んですけど、こっちは視線そのもののアクション
今田:こっちからこっちにカメラがパンしてると
高澤:そうそう
今田:この「2つ」っていう文字が重要ですね。これがあることで頭の中に「2つ」という概念がふわっと入る。《こっち》と《こっち》という「2つ」があるんだな~ってなんとなく刷り込まれるんですね。その刷り込みが「カメラが2点間を移動している」という感覚の助けになってる
高澤:たしかに
今田:まとめると、この「2つ」という語は、その句の物語内では「じっさいに2つある」という意味そのものを示していて、それと同時に他方で、句の外側、というか読み手の無意識下に概念としての「2つ」を刷り込む役割も……

(中略)

今田:……っていう、要するにこの句はマルチバース的に読めるってことですね
高澤:そうですね。マルチバースです
今田:次がぼくの選んだ最後の句です

絶対に飛ばないからと開く羽

――

今田:すいません、作者のお名前がわからなくなってしまって……ツイッターからコピペで持ってきたつもりだったんですけど、いま検索しても見当たらなくて。申し訳ないです。どっから持ってきたんだっけなあ
高澤:「絶対に飛ばないから」っていうのは「押すなよ!」みたいなことですか?
今田:フリってこと? バラエティ番組的な?

(今田、しばし「押すなよ!」的シーンを実演)

高澤:大勢のオーディエンスが見えました
今田:いまみたいな(バラエティ的文法の)仕組みの句だとしたら、べつの言葉でも表現できる気がしますね。「絶対に食べないからとかける塩」とか
高澤:「絶対に食べないからと塗るワサビ」
今田:とたんに俗世ですね。「開く羽」は文学的だったのに。そういえば、最初は羽がしゃべってるような、幻想的な雰囲気にも読めたんだけど、「押すなよ!」の読みのインパクトが強すぎたのか、いまはまったくそういうふうには読めないです

おわりです

取り上げた句、および作者に敬意を表します。

厳密な書き起こしではなく、じっさいの内容とはニュアンスを変えている箇所もあります。ぜひ気の迷いで本編も聴いてみてください!


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