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【小ネタ満載】色彩から読む映画『ミッドサマー』 考察 本当の怖さとモチーフを紐解く!

※10/28 追記

今日たまたま観たのですがこの方の考察動画の方が何倍も正確で考察も鋭かったので共有させていただきます

公開から3年がたった今でも度々話題になるカルトホラー映画の金字塔となった今作。本作にこめられた本当の怖さを紐解いていきます


映画開始時に出てくる絵と実際の出来事

本作では様々な絵が登場しますが映画の最初に出てくるこの絵が最も重要な意味を持っております。
この絵は本作の全体のストーリーの流れをまとめて表しているだけではなく、映画に込められた悪意が織り込まれているのです
左から一枚ずつ見ていきます

冬 ダニーの家族の死

絵の一番左で描かれてるのは映画冒頭でダニーの家族が死んでしまう場面です。
家族をつなぐ紐を骸骨が切っていますね

春 ダニーとクリスチャン

家族の死により悲しみに暮れるダニーと慰めようとするクリスチャンが描かれています
それを木の上から覗いている人物がいますが、髪型からしてこれはペレです

ペレは家族の死によってダニーとクリスチャンが微妙な関係になっていることを観察していた、という事が分かります。
クリスチャンたちはダニーを置いてホルガ村へ向かうつもりで、ダニーにもそのことを告げていませんでした。
家族の死によって不安定な状態になっているダニーは、クリスチャンが自分を置いて旅行に行こうとしていることに嫌悪感を抱いて、自分も連れて行って欲しいと懇願するであろうとペレは予測していたという事がこの絵からわかるのです

夏 ペレに連れられる一行

この絵が一番の問題作です。
ペレは笛を吹いていて、一行がその後をついていますが、これはハーメルンの笛吹き男のパロディです

つまりホルガ村に連れられたが最後、連れられたものは元の世界には帰れないことを表しています。
そしてペレの一つ後ろにいる男には変な帽子が被せられていますが、これはジェスターハットという道化師が被る帽子です。
劇中の最後の方でこの帽子を被せられた死体がテントに運び込まれるシーンがありますが、あの遺体は先祖の木に小便をしたマークのものです。
この絵からマークが馬鹿にされていることが分かります。

そしてその後ろに本をいっぱい運んでいる黒人が描かれていますが、これはジョシュですね。
自分の論文のことしか考えていないことをバカにされています。

歓迎を受ける一行

ホルガ村の住人たちから歓迎を受ける一行ですが、ズラッと並んでいる女性たちのうち3人だけが上半身裸になっています
そのうちの二人は頭蓋骨を、一人は飲み物を差し出しています。

マーク、ジョシュ、クリスチャン。この3人の内二人は殺され、一人は媚薬を飲まされて性交をさせられましたよね?

この後の運命を示唆していたのです

メイポールのダンス

楽器を演奏している者、そしてダンスをしている何人かの人が骸骨になっています。

実はこのダンスには元ネタがあり、このダンスが始まる前に女性が「昔死ぬまでダンスを踊らせた」という旨の、ダンスの起源を説明していたと思うのですが、実際にスウェーデンにはあのような伝説が存在するのです。

ホルガ村という名前もこの伝説からそのまま取られていることが分かります

曲を演奏するものが骸骨として描かれているのもこの伝説のように、人の命を奪う人間ではないものだからです。

そしてその上で不敵な笑みを浮かべる太陽についてですが、この笑顔はラストシーンにダニーが見せる笑顔を表しているのだと思います。

このことについては後ほど説明します

ダニーの家族の死

ペレが殺した説

ダニーの両親の家にはホルガ村を連想させる要素がいくつも存在しています
枕と布団が派手な黄色だったり、壁紙が花模様だったり、ベッドの側においているダニーの写真の周りが花で飾られていたりといった要素です。
このことからダニーをメイクイーンに仕立て上げるためにペレが両親を殺したのでは?と考察してみたのですが、これは監督によってきっぱりと否定されています

誰が殺したか

映画の最初に出てくる絵では、骸骨が家族の間の紐を切っています。
骸骨はメイポールダンスの絵にも楽器の演奏者として描かれています。
上述の通り楽器の演奏者ん人間を死へ導くものだったという伝説が存在し、ダンスの開始時にされる女性の説明ではこの存在のことを「the Black One」と呼んでいます。

ダニーの姉のメールにも「Everything black」と書かれていたことから、監督は姉の死にもスウェーデンの伝説を関連付けようとしていたのではないでしょうか

色彩の使い方

黒色

先ほど述べたように黒色は人を死に導く色として使われています。
ダニーの妹が一家心中をしたときに使われた車の排気ガスも黒色です。

青色と黄色

本作で最も効果的に色彩が使われているのが青色と黄色です。
青色と黄色は本作の舞台となっているスウェーデンの国旗の色として使われています

この二色の使い分けが最も効果的にされているのが冒頭ダニーの妹が一家心中をするシーン、そしてホルガの老人二人が崖から飛び降りるシーンです。

ダニーの妹は黄色、両親は青色の服を着ていて、排気ガスを送り込むためのホースの色も黄色になっています。

また崖から飛び降りる老人は二人とも青い服を着ていて、大きな三角形の黄色いテントと一緒に映るショットが出てきます。
ダニーが見る夢のシーンでこの二つの出来事が結びつけられて登場します

このことから黄色はホルガという共同体やその共同体のしきたりやルール、つまり体制というものを暗示していて、青色はその体制に従う者、体制の犠牲となる者を暗示しているのではないでしょうか

冒頭の一家心中も心中を決意した妹は黄色の服を着ていて、ある意味巻き添えを食らったとも言える両親は青色の服を着ていたのも、ホルガのしきたりや体制というものになぞらえて表現していたからではないかと思います。

知るとゾッとする小ネタ集

アリアスター監督映画には一回見ただけでは気付かない怖い小細工が映画のあらゆるところに施されています。本作に隠された小細工を見ていきましょう

ホルガ村入り口の横断幕

一見ホルガ村へようこそ!と書かれているのかなと思ってしまいますが実は「ホルガ村への移民を食い止めよう!」
という抗議の横断幕が掲げられていて、ホルガの排他的な文化が読み取れます

一行への歓迎

一行が村の入り口に入った時、男の人からホルガへようこそと歓迎を受けますが、他の人たちは「welcome」と言われるだけなのですがダニーだけ「welcome home」と言われています
ダニーは最初から村に取り入れる気だったのでしょうか

ジョシュの死因

ジョシュはこっそり聖典の写真を撮っていたところを何者かにハンマーで殴られます。
ジョシュが写真を撮って、誰か小屋に入ってきたと入口の方を振り向くシーンがあるのですが、あのシーンをよく見ると小屋の中に隠れているハンマーを持った男の姿が一瞬だけ映ります。
髪型から推測するに、ハンマーで殴ったのはペレだったのです

ルビンの扱い

ルビンは村にとって意図的な近親相姦によって生み出された障害児です。長老のような男の説明によれば、彼は曇りなき心を持っているので村の聖なる存在として捉えているということでしたが、クリスチャンがマヤと性交をしている場所は、ルビンが寝ている小屋の中でした。
彼らは近親相姦によって意図的に障害児として生み出されたルビンに、外部の血筋の人間との性交を見せつけるという最低な侮辱行為を堂々としているわけなのです

表向きは彼を崇めているかのようなことを言っていましたが実際は彼を人間として扱うことさえしていません

そのことを示すために監督はわざわざクリスチャンの性交シーンにルビンの苦しそうな表情のドアップのショットを挿入しています。恐ろしいショットです。

ラストシーン

ラストの9人の犠牲者を燃やすシーンで、痛みを感じないからと言って樹液を口に含ませますが、実際自身に火が燃え移ると苦しみで喚き声を上げます。あの樹液には何の効果もなかったのです。
彼らは仲間だと思っていた村人に嘘をつかれたという絶望の中死んでいきます。

さらに恐ろしいのがクリスチャンの扱いです。彼は燃やされる前に薬によって口がきけない状態にされました。なので大きい声も上げることができず、叫び声を上げたホルガの犠牲者とは違い、ホルガ村の住人に苦しみも共有されることもないまま孤独に死んでいくことになります。
しかも映画ではバックに流れる多幸感のある音楽にかき消されていますが、ちゃんとクリスチャンの最後の呻き声が収録されています

クリスチャンの最期の肉声はホルガ村の住人だけで無く、観客にも共有されないという、最悪な仕掛けがされているのです。

ダニーの最後の笑顔とエンディング曲

ダニーの最後の笑顔には深い意味があります。
監督は脚本に「ダニーは狂気に堕ちた者だけが味わえる喜びに屈した。ダニーは自己を完全に失い、ついに自由を得た。それは恐ろしいことでもあり、美しいことでもある」
という注意書きを書いていたようなので、ダニーはこの瞬間にクリスチャンとの関係や家族の死の悲しみを乗り越えて、新しい境地に達したと捉えることができると思います。
そしてこの笑顔は最初に出てくる絵の太陽の笑顔とよく似ています

この後に流れる曲のタイトルがthe sun ain't gonna shine anymore(もう太陽は輝かない)なのでこの最後のダニーの笑顔と最初の絵の太陽を重ね合わせていたのは明白です。
この歌の歌詞の内容を要約すると「孤独だと太陽も輝かないし涙が溢れてばかりだから愛し合おう」みたいな内容になるのですが、これはまさしく家族が死んでクリスチャンとも上手くいかずに心がやられて泣いてばかりいた主人公ダニーのことを表しています。

ダニーと太陽を重ね合わせて考えると、ラストシーンでダニーが笑顔になるのは、家族の死別や愛の冷めたクリスチャンとの関係を乗り越えてこのホルガ村と完全に心から同化出来たことで、またダニー(=太陽)は輝くことが出来るようになったからだと考えられます
この時のダニーが身に纏っている花、そして最初に出てきた絵のダニーを表した太陽、どれも黄色ですね。
完全にホルガの文化や体制に染まってしまったことを黄色で表しているのです


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