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中川 淳、山口 周「ビジョンとともに働くということ」読了

昨今、ビジョンやパーパスという言葉が世の中に溢れているけど、本当に“意味がある“ビジョンがつくられた事例は、ほとんど耳にしない。本書は、中川政七商店の中川淳 氏と『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で知られる山口周 氏の対話を通して、”意味がある“ビジョンの骨格を模索した一冊。

「見えるけど遠くにあり、実現したら良いこと」と誰もが思えるサイズ感で、選択の示唆を与え、それ自身が選択のコンパスとなる。それが、“意味がある”ビジョンである。

出典:「ビジョンとともに働くということ」より抜粋し筆者加筆

と本書は言う。

我が社もビジョンを作ってみよう、とハウ・ツー本を片手に始めるも担当者は本音と建前に挟まれてチームは自然消滅。何とか作っても、傾きかけた企業は標語が増える、と揶揄されて現場に浸透しない。私もあなたと同じ経験をした一人です。

私が得た学びは3つあります。
1)レイヤーを意識する
2)言葉をつくり込む
3)伝える覚悟を持つ

【レイヤーを意識する】

本書は、ビジョンづくりでは意識すべき3つレイヤーがあるといいます。それは、①社会インフラ、②生活文化、③モノ・コト、の3つ。

これらは、①>②>③というように入れ子状態になっていて、上位レイヤーから下位レイヤーに向かって影響力があります。そして、ビジョンをつくる上では、これら3つのレイヤーを、全体をひとつの整合的な世界として取り扱うことが必要。

まずは社会的影響から考えていく。つまり、「豊かな人生の在り方とは、どういうものか」を思い描くことから始めます。入れ子の状態なので、より大きい器の形によって、中に入る器の大きさや形が決まってしまう。だから、ビジョンを考えるときは、どんなモノでありたいか?や、どんなサービスでありたいか?から考え始めると、影響を与えられる社会的影響は限定されてしまう。それでは、持続可能な企業のビジョンとは言い難い。

では、「豊かな人生の在り方」をどう判断するのか。それは、本書の言葉を借りるなら、自分の眼差しで物事の良し悪しに対する確信(山口氏の言う“美意識“)をもつ、ということ。ここに創業者や個人の思い(Will)が必要になる。山口氏の著書(※1)によれば、美意識の鍛え方は、芸術作品に触れて目を肥やす、になります。日々の積み重ねが必要ということですね。

【言葉をつくり込む】

さて、ビジョンをつくる上での軸がはっきりしたところで、いよいよビジョンをつくり始めます。細かいステップは、別の書籍(※2)に譲るとして、本書では最後の言語化のステップに焦点を当てています。

本書は、意味があるビジョンにするために知行合一である必要を解いています。どんなに創業者の想いが入ろうが、今を生きる経営層や従業員の行動に反映されなければ、いつもの建前になってしまいます。行動を生まなければなりません。ここでのポイントは、一つの事業に一つのビジョン、です。大企業のように業界を超えて事業を展開している企業がビジョンをつくるとどうしても抽象的にならざるを得ず、建前化しやすい。社会に貢献した価値だけを明確にして、それを実現できる組織のサイズを確認してからビジョンをつくる必要がある。

言語化するときに気をつけなければならないのは、言葉は劣化する、ということです。特に感覚や感性のように人が外からの刺激に反応して現れる事象をテキストに落とした時点で、それは既に過去のものになっています。テキストから受け取るニュアンスが、受け手の経験や認識によって変わってしまうことがあります。これが、テキストの拘束力です。そもそも、ビジョンという言葉は、ビジュアルから来ているので、映像を言葉にするとどうしても情報を削ぎ落とさずにはできず、多様な解釈の余地を与えてしまいます。どの言葉を使うかは丁寧に検討しなければなりません。

テキストの拘束力の弊害がもう一つ。それは、「ビジョンの通りやっておけばいい」というトレンドが生まれることです。つまり、思考停止です。ビジョンは、判断軸であって答えではない。答えを求めにビジョンを見るのだけど、逆に問いを与えられるくらいのビジョンがちょうど良い。そういうビジョンをつくるコツは、WHY(なぜやるか?)に集中してビジョンを言語化することです。

【伝える覚悟を持つ】

前述したとおり、感覚や感情のようなものは言語化した時点から過去のものになってしまいます。そして、拘束力を生む。これを調整する良い方法があります。それが、絵やメタファーを使うことです。絵はビジュアルそのものなので、言語化に際に削ぎ落とした情報を補うことができます。また、メタファーは過去のエピソードが言葉から想起され、受け手の頭のなかでイメージ化されることで、情報を補う効果が期待できます。

リーダーがビジョンを何万回も語りかけるのは当然として、どんなに言葉を作り込んでも、ビジュアルで補完しても従業員が受け入れられないことがあります。これはちょっとしたTipsですが、そんな時は、外部を使うとよいです。例えば、社外のメディアをつかって、ビジョンへの外部の共感を認知させたり、社内でも社内報なんかで紹介されたりすると、なぜか腹落ちすることがある。本人から言われると疑念をもつけど、周りから言われるとちょっと嬉しい、みたいな?(思春期か!)

チームメンバーに行動を起こしてもらうために最も大切なことは、選択肢を示す、ということです。人は、自分で選べば納得感をもって行動できます。しかし、その選択が、あまりにも恣意的・誘導的だったり、選択の幅が狭いと自分で選んだ感を得られなくなってしまいます。そもそも事象に対しての選択肢は無限にあり、ビジョンは選択するときの判断軸。判断軸に共感を得ていることが全てですが、リーダーがなるべく多くの選択肢を示すことが、ビジョンが伝わる上で大事な要素になります。

無限の可能性 = 無限の選択肢

【最後に】

かくいう私も職場でビジョン大臣を拝命し、ビジョン作成活動をはじめたタイミングで本書に出会いました。私が最初に手に取ったのは、江上隆夫さんの「ザ・ビジョン」(※2)でした。この本は、ビジョンづくりのステップを丁寧に解説しており、私のバイブルになるでしょう。ザ・ビジョンと本書をつなぐ点は、ビジョンは個人の思いから始まる、ということです。いかに個から集合体にビジョンを発展させるか。その補助線となったのが本書でした。同志の皆さん、ぜひビジョンづくり頑張りましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。もし、ビジョンという言葉にフワフワを感じていて、つくっても手触り感を持てないと思われているなら、そのビジョンに意味があるのかを見直すきっかけになる一冊と思います。ぜひ、ご一読ください。

※1:山口周 著「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

※2:江上隆夫 著 「ザ・ビジョン」


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