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2022年09月北海道録音取材記 ~Day2 (後半) 接触マイクと転車台。そしてクマ牧場のヒトのオリ~

みなさんこんばんわ。レヱル・ロマネスクシリーズの原案、シリーズ構成を勤めます、進行豹です。

せっかくの北海道取材にもかかわらず、台風の影響で刻一刻と強まっていく雨と風。

そんなさなか、わたくしと録音技術者の町田さんとは、ニセコ駅前鉄道遺産群

にお伺いいたしました。

なんとなれば、2019年に開催されたクラウドファンディングで

わたくし、
『【転車台の手回し体験付き】有島記念館学芸員による鉄道遺産案内』
がリターンとなる支援を行っていたからです。

とはいえプロジェクト終了から3年も経ってしまっております。
コロナうんぬんがあったとはいえ、権利が失効していたとしても文句はいえないところです。

「今からでも大丈夫ですか?」
「録音・撮影も可能でしょうか?」

――その問い合わせに快くOKをいただきまして赴きましたニセコ駅前では、9600形蒸気機関車、9643が前照灯を輝かせ、有島記念館の学芸員さんとともに我々を迎えてくれました。

ご挨拶をして、早速、録音・撮影のセッティングです。
どんどん強まる風の中、町田さんはコンタクトマイクの取付箇所を丹念にテストしています。

コンタクトマイク――

それは文字通り、録音対象物へとコンタクト=接触させて録音をするマイクです。

もっとも頻繁に使用されるのは「弦楽器の胴へと接触させる」という用法においてであるようです。

弦楽器の胴=弦の響きを共鳴させ増幅しながら振動をする部分に貼り付け、その振動を拾うことにより、
不要な雑音を極力入れずに録音をする――そういうことが可能となってくる、マイクなのです。

転車台は、何十トンもある巨大な鉄の塊です。

風がどれほど強かろうと、音を立てるほど揺らされてしまうことはほぼほぼ想定できません。

転車台が、まわり、動く、その響き=振動。
強風の中それを拾うためには、コンタクトマイクはおそらく最善の選択肢のひとつとなってくるわけです。

言葉で説明してもイマイチ伝わりづらいかとおもうので、よろしければコンタクトマイクの威力を、そのお耳で確かめてみてください。

音源は、「旭岳ロープウェイ」で録音したもの。

ステレオマイクでの録音音源

では、車内放送などががっつり入ってしまっています。

が、スピーカーがゴンドラそのものを揺らさない作りになっていたため、
コンタクトマイクを用いた録音音源

では、純粋にロープウェイのゴンドラとロープとが立てる音だけを拾うことに成功しています。

しかし、コンタクトマイクは万能ではありません。

ヘッドホン/イヤホンでお聞きいただけばあるいはお伝えできるかもとも思いますが、左右どちらからも、完全に同じ音しかなっていません。

そう。
その特性上、コンタクトマイクは空気中の音の広がりを拾うことはできず。
つまり、モノラル録音しかできないのです。

ので、ステレオマイク、コンタクトマイクどちらの録音もそれぞれ変わらず重要であり。
エンジニアさんたちは、ときにはそれらをいい感じにミキシングして
「現場の耳で聞こえている音」をできうる限り再現しようとすることもあるそうです。

例えるのなら、コンタクトマイクの音はドラムス。
ステレオマイクの音は、ボーカルやギターといった感じでしょうか?

それぞれ別撮りして混ぜることで「ライブの臨場感」を伝えるのと同じことを、環境音でもまた試みるものだそうなのです。

――わたくしはただ録るだけですが、環境音、実に奥が深い世界です。

というわけで。
コンタクトマイクのセッティングがいい感じになるのを待ちまして、いよいよ手回し転車体験、開始です。

この転車台は、1957年――昭和32年から新得機関区で使われてきたもの。
その名を「すてー20形転車台」というそうです。
本来であれば転車は電動――二輪式電動牽引機によって回転させられるものですが、今回はそのモーター軸にハンドルを取り付け、
そのハンドルをぐるぐる回転させることでの、手動転車を行わせていただきます。

ちなみに、このリターンの実施はなんとわたくしが最初の一人。
つまり、関係者以外では世界ではじめて、旧新得機関庫転車台を手動でまわした男がわたくしになるわけです。

かかる栄誉に打ち震えながらハンドルを回す手は、
ほどなくして、筋肉疲労に打ち震えるようになります。

とにもかくにも、
単純! 
肉体!
労働!
なのです。

「ガレー船を漕がされる奴隷の気持ちがわかります」

とのわたくしの率直極まる感想に、学芸員さんも

「はじめて回した時、私も全く同じことを考えました」

と笑ってくださいました。

ともかくは1周の転車を――と当初は考えていたのですが、それをすると何時間かかるものかもわからず。
15分ほど回して、15分ほど逆回転させ、最初の位置に戻してレールをロックして――

もって、わたくしの手回し転車台体験は完了いたしました。

大変に楽しく、大変にキツかった時間を終えると、風雨はどんどん強まっていきます。

室内体験などで音がでるものを予約できればよかったのですが、
台風接近&直近予約となってしまうこともあり、それは叶わず。

やむなく「屋根があって、その音をかき消せる程度に音源からの音が激しそうなもの」という候補地を探しに探して、
登別は地獄谷の間欠泉とその周辺を撮影取材いたしました。

そうする間にも雨はどんどん強くなり。
屋内設備があるという、「登別クマ牧場」に、我々は移動してみることにしました。

登別クマ牧場の屋内施設。
それは「ヒトのオリ」と呼ばれる、地下からクマの第一牧場を見学できる施設です。

ヒトのオリは周囲をぐるりクマたちに囲まれたガラス張りで、
そのあちこちに、鉄のパイプが通っています。

そして入り口には、コインロッカー。
100円を入れて鍵を回すと、とうもろこしやふすまなどをコロコロとしたボール形のクッキー状にまとめた、クマの餌を購入できます。

鉄のパイプはスライド/ピストン式。
注射器のような構造になっています。

パイプ内側のスライダーを引き出し、引き出してできた隙間にクマの餌をいれ、スライダーを押し込むことでクマの餌をパイプの向こうに移動させると

スライダーの向こう側で口を開けてまっているクマが、餌をぺろりと食べてくれるというわけです。

クマは案外賢いらしく、それぞれ「ここに餌を入れろ!」とばかりにやれ爪でガラスを引っ掻いて、やれうおううおうと鳴き声をあげ、
それぞれのパイプに取り付いています。

パイプは伝声管の役割も果たし、クマの鳴き声をダイレクトにこちらに伝えてもくれますので――

録音を町田さんにおまかせし、わたくしはひたすら、クマへの餌やりを繰り返し続けました。

あちらのクマへ、こちらのクマへ――どれほど給餌を続けたでしょう?

いつのまにやってきていた係員さんが「そろそろ閉園の時間です」と我々につげ――

もって、Day2の録音取材はその幕を閉じました。

台風の影響での悪条件の中、できる限りは尽くした感もございますが、やはり録れ高は不安です。

「台風抜けたらがんばりましょう」と町田さんと近いあい、開いてるお店で夕食を食べ、お宿について――

疲労困憊のわたくしは、深い眠りに落ちるのでした。


(つづく)

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【メンバーシップ限定記事のご案内】

『レヱル・ロマネスクnote』メンバーシップ
『御一夜鉄道サポーターズクラブ』

にご参加いただきますと、
今回の取材内容を下敷きにした、以下のあらすじのショートストーリーをお楽しみいただくことができます。

ぜひご参加ご検討ください!

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『ハチロクとクマと給炭と』
https://note.com/railroma/n/n367fc70b538f

(あらすじ)
視察の合間、クマ牧場へと遊びに来たハチロク。
ヒト牧場なる地下施設で、クマへと餌を与え続けるマスターの勇姿に、
ふっとひとつの連想をしてしまうのです。

(登場レイルロオド紹介)

「ハチロク」(旧帝鉄8620形御一夜鉄道8620専用レイルロオド)

<出身> 日ノ本(ひのもと/日本)帝鉄レイルロオド工機部 旺宮工場

<所属路線> 御一夜鉄道 大畑線(御一夜温泉駅~早戸駅)

<能力・性格>  旧帝鉄初の国産大量生産蒸気機関車のトップナンバーレイルロオドとして製造された、気品、能力ともに卓越していたレイルロオド。
反面、他者を無意識に見下すような一面や、挫折・失敗に対する脆さもあわせもってしまっていたのだが、運命のマスター、 右田双鉄との出会いによって、いわゆる「人間的な丸み」を帯びるように成長した。
さまざまな苦難を越えたいまのハチロクは、全国的な(一般の人たちからの)人気においてはランに一歩を譲るものの、レイルロオドや鉄道関係者たちからは、『レイルロオドの鑑』として一目も二目も置かれる存在になっている。
かといって増長することもなく、他のレイルロオドたちの良さを引き出し、お互いに刺激しあい成長しあうことができれば――との思いで、今回のレイルロオドサミットに臨んでいる。
流石に製造100年に近づき、性能面では後継機たちに見劣りするようになってきたが、性格――というか人格面では、ほぼ円熟に近い状態を迎えている。
指導者・司会進行役としては、まさに理想的な存在だが、所用あってその役をすずしろに委任することとなる。

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