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君は預言者

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最終話

最終話

無機質な部屋に響く機械の音。何度も寝たこのベッド。

目をつぶる度に最後のような気がしてしまう。

君と夏祭りに行きたかったなぁ…

朝から降りしきる雨。夏の終わりを告げる雨は僕の気持ちを代弁している。

雨はやっぱり好きじゃない。意識していなくても、あの日のことを思い出してしまう。

球児たちの夏も終わった。彼らも夢の時間から現実に戻っているだろう。

それは僕も同じだった。

あれからさくらと

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第10話

第10話

君には嫌われちゃったと思っていた。図書館に君が来た時、本当は嬉しくて泣いちゃいそうだったんだから。

ありがとう。

君に出会えて、本当に良かった。

夏休みも半分を切った。やることも特になく、僕は球児たちの青春を眺めている。

『カキーン』

金属音が響き、観客が湧く。ボールはレフトスタンドの柵を超えた。

サヨナラホームランを見届けた僕はテレビを消した。コップに麦茶を入れると、自室に戻る。

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第9話

第9話

電気を消してからすぐに君の寝息が聞こえた。

こんな無理言ってごめんね。そっと君の背中に手を添える。君の温もりを肌で感じたかった。

僕の夏休みは慌ただしく始まったが、その後はいつもの様子を取り戻していた。

さくらや遥香と遊ぶことも無ければ、顔を見る機会すら無かった。

「うまっ…」

博多土産のめんべいを食べながら、僕は宿題を進める。宿題はさっさと終わらせるタイプだ。

『やっほー。今日はね、

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第8話

第8話

どうしてあんなことしたんだろう。今思うと恥ずかすぎる。

でも、君にかわいいって言われたの、少しドキッとしちゃった。

はぁ…明日の病院、嫌だなぁ。

「はぁ…はぁ…」

インドアな僕には早歩きもしんどい。病院に着く頃には肩で息をしていた。

「あれ、さくは?」

病院の入口にさくらの姿は無かった。まさか、拗ねて帰ったのか?

「いた!」

遥香の指差す方向を見る。そこには、タクシー乗り場でおじさ

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第7話

第7話

お揃いのお守りを買った。受験が終わったらかぁ…頑張らないとなぁ。

大丈夫、私なら大丈夫。だって、神様にお願いしたもん。

「うわぁ、広い!」

大きなテレビに寝心地の良さそうなベッド、さくらのテンションが上がるのも分かる。

「さく、ベッドめっちゃ柔らかいよ!」

「すご!君もおいでよ」

お子様の輪に入るのは嫌だが、僕もベッドに腰掛けた。

「すごっ…」

思わず声が漏れる。さくらはニヤニヤと

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第6話

第6話

この1週間、私は人生で1番勉強した。いつもなら「補習でいいや」って思ってた。

でも、今年はそういう訳にはいかないんだ。

朝は得意な方ではない。どうして僕は夏休み初日に、人気のない駅前にいるのだろうか。

「お、気合い入ってるねぇ」

諸悪の根源は早朝でもニコニコして登場した。

「気合いじゃなくて悲哀の間違いじゃないか?」

「これから楽しい楽しい旅行なのに?」

旅行自体に不満な部分はない。

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第5話

第5話

ジェットコースターは楽しかった。お化け屋敷は怖かった。観覧車は2人がすっごく楽しそうだった。

君はこんなデートをするんだね。

週末が終わる。週末が終われば、僕らの繋がりは嘘かのように無くなる。

今日は木曜日。夏休み前の期末テストを来週に控え、自然とクラスは勉強ムードに包まれる。

「○○、今日の予定は?」

「今日は大人しく勉強するよ。夏休みに補習させられるの嫌だし」

俺もこいつも部活に所

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第4話

第4話

友達と友達を会わせるのってなんだか緊張する。

でも、2人には仲良くしてもらいたいの。ずっと、ずぅぅぅっとね。

僕の初めてのデートは思っていた始まりでは無かった。

「まだ、この状況が飲み込めないんだけど」

「あの顔見てみ?」

後ろを指さした賀喜さん。そこにはニヤニヤとこの状況を楽しんでいるさくらがいる。

「諦めて今日を楽しみなよ。私の事を覚えてなかった贖罪も忘れずに」

人付き合いを避け

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第3話

第3話

君との初めてのお出かけはとっても楽しかった。
あ、でもラーメン残しちゃってごめんね。美味しかったよ。

後は…あの本、ずっと持っていてくれたら嬉しいなぁ。

今日一日で何度も突飛なことを言っていた。僕はそれを真に受けないと決めていたはずだ。

「なんでそう思うのさ」

隠していたつもりだが、僕は明らかに動揺していた。言っていることが1ミリも分からなかったからだ。

「だって私、預言者だから」

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第2話

第2話

いきなりあんなこと言って嫌われないかな?
いや、きっと大丈夫。

だって、とってもお節介な君だから。

「ちょっと、黙らないでよ!」

答えに困っていた僕を彼女は現実に引き戻した。

「ごめん、返す言葉がなかった」

「可哀想だ、って思った?」

また、答えにくい。僕のボキャブラリーの中には人を労える様な言葉は多くない。

「僕と同じ歳の君がそんな運命を背負っていることに驚いた」

「ふふふっ…君

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第1話

第1話

その出会いを私は偶然とは呼びたくない。人は必要な時に必要な人と出会う、そう思っているから。

「君は私の事、殺さないといけなくなると思うなぁ」

君に言われた衝撃的な言葉。今でも脳裏に焼き付いている。

「なんでそう思うのさ」

「だって私、預言者だから」

君との出会いは偶然、いやそんなこと言ったら怒られるかな。

春と夏の狭間、不快な暑さの漂う雨の日だった。

「何してるの?」

病院近くの公

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