見出し画像

初盆・新盆調査

この調査をTwitter(現・X)上で行ったのは2019年夏のこと。ちょうど我が家が「新盆(あらぼん)」のときであった。「新盆ってなんですか?」と尋ねられ、「亡くなった方が初めて迎えるお盆のことですが、そちらではなんと呼びますか?」とお聞きしたのが始まりでした。

【質問】あなたのお住まいの地域では、「亡くなった方がはじめて迎えるお盆」をなんといいますか?
#お盆  
よろしければ回答とともに地域(都道府県程度)をレスで書き込んでいただけると幸いです。

こうして2019年8月5日から7日まで、たった3日間で777件の回答を得て作ったのが「初盆・新盆分布」でした。



統計の方法

  • 都道府県別で回答を求める。全体の75%を占めた回答をその都道府県の呼称とする。互いに回答が拮抗する場合(互いに50%の±5%内の差)、代表的な回答を表す2色を縞模様で塗り分ける。また同都道府県内であっても地域で違う呼称(同一回答が3件以上、他の回答が半数を超えない)がある場合、その地域を色分けする。

初盆・新盆分布図(2019)


「はつぼん」と「にいぼん」

777件の回答のうち多かったのは「はつぼん」と「にいぼん」。「はつぼん」が312件、「にいぼん」が231件でした。「はつぼん」は「初盆」という表記で、福井県嶺南地方岐阜県静岡県の遠州地域以西はほぼ「はつぼん」と呼びます(島根県愛媛県東予・中予地方和歌山県有田郡は例外)。西に行くほどその比率は高くなり、九州に至っては各県とも90〜100%「はつぼん」と回答しています。
一方「にいぼん」と呼ぶのは東日本エリアに多いですが、東京都神奈川県が「にいぼん」が9割強と多かった以外は、地域での呼び方としては多い、あるいは他の呼称と拮抗しているという結果でした。そして不思議なのは「はつぼん」優勢の西日本エリアにおいて島根県だけが「にいぼん」の回答が多いこと。他の中国地方と比べても「にいぼん」と呼ぶ率は非常に高いのが謎です。また、これは後ほど書きますが、「にいぼん」には「新盆」と書く場合と、「入盆(にゅうぼん)」から転じて「にいぼん」と呼ぶようになった地域もあるようです。
北海道秋田県はこの「はつぼん」と「にいぼん」が互いに拮抗しています。北海道は各地からの移住者が多かったから、混在しているのは理由は分かります。では秋田県はなぜでしょう。これはよく言われることで、北前船の影響で、西国の文化が途中の寄港地へ移植され、そこに根付いていきます。この言葉の混在も、その影響のひとつなのではないでしょうか。


「あらぼん」は群馬・長野、愛媛の一大勢力

「あらぼん」(126件)は「新盆」と書き、群馬県内は100%この呼び方をします。長野県北信・中信・東信は「あらぼん」、これに隣接する埼玉県北部新潟県上越地方中越地方南部栃木県南西部、そして福島県中通り会津地方でも「あらぼん」が優勢です。
もう一つ、「あらぼん」と呼ぶ地域があります。愛媛県東予中予地方。愛媛県の回答14件のうち、12件が「あらぼん」と回答(中予2件、東予4件、松山市2件、不明4件)。残り2件が「はつぼん」でしたが、これは南予地方での呼び方と回答されていました。さらに広島県瀬戸内海島嶼部で「あらぼん」との回答もありましたが、これも愛媛県からの影響でしょう。しかし、なぜ愛媛県だけがポツンと「あらぼん」なのでしょうか。


「しんぼん」と「おしんぼん」

「しんぼん」は「あらぼん」と同じ「新盆」と表記します。千葉県では44件の回答のうち33件(75%)が「しんぼん」と回答。隣接する茨城県南部地域でも「しんぼん」が優勢、県中部あたりでも「しんぼん」と「にいぼん(にゅうぼん)」が拮抗しています。つまり、千葉県の「しんぼん」と福島県浜通り地方の「にいぼん(にゅうぼん)」が茨城県内でグラデーション状態で分布しているということのようです。
長野県南信地方から山梨県北中部の「おしんぼん」は「新盆」に「お」をつけて呼びます。回答のうちに「しんぼん」は一つもなかったので、似てはいるが千葉県の「しんぼん」とは同じ起源ではない可能性が高いと考えられます。また他の地域では「おしんぼん」とは言わないので、やはりこの地域のみでの呼称のようです。


狭い地域での呼称「はつのたな」と「さらぼん」

「はつのたな」「はつたな」は秋田県由利本荘市周辺のみで呼ばれます。「初の棚」と書くので、盆棚を初めて飾るから「はつのたな」なのだと思っていました。ところが、寄せられた情報では「初めての七夕」で「はつのたな」なのだということです。確かにお盆は太陰暦でいうと7月15日で七夕に近く、聞いてみなければ分からないものです。
「さらぼん」は和歌山県有田郡での呼び方で、新しいという意味の「さら」なのだろうとは想像はつきます。「新盆」と書いて「さらぼん」なのだそう。和歌山県は有田郡以外は「はつぼん」が100%。なぜ有田郡だけなのかは不明。


「新盆(にいぼん)」でない「入盆(にいぼん)」

「にいぼん」の中には「新盆」ではなく、「入盆(にゅうぼん)」から転じて「にいぼん」になったと思われる地域があります。福島県浜通り地方。今も「にゅうぼん」と「にいぼん」が半々であり、茨城県北部栃木県北部でも「にゅうぼん」の読みが残っています。入盆とは「盆(に供養される側)に入る」ということでしょうか。これは「おしんぼん」のときと同じように、読み方は似ているが起源が違うタイプと言えそうです。


山陽特有?「はつぼに」

岡山県と広島県の回答の中に「はつぽに」が1件づつありました。詳しく聞いてみると、岡山県で年配の方は「はつぼに」と呼んでいた、と回答いただきました。調べると「ぼに」は平安時代からの「盆」の呼び方で、それが岡山、広島では残っていたということなのか、あるいはそれとは別に「ぼん」が転じて「ぼに」になったのか。そのあたりは調査中です。


散らばって存在する「ういぼん」

大多数の中にわずかばかりだけれど、全国的に存在する呼び方「ういぼん」。「初盆」と書き、そのほとんどが「はつぼん」と呼ぶ地域と重なります。多かったのは宮城県岡山県のそれぞれ3件づつと兵庫県が2件。北海道青森岩手福島東京岐阜静岡京都大阪鳥取福岡佐賀が各1件でした。ここからみて「初盆」を「はつぼん」ではなく「ういぼん」と読んだ事例が、定着したものなのかもしれません。


常でないから残る

この「初盆・新盆」のアンケートを取りながら思ったことは、「全国的に統一されず、言葉として各地によく残った」ということです。テレビ・ラジオなどの影響で全国的に「方言が廃れ、同じような言葉を使う」ようになる中で、今回の「亡くなった方が初めて迎えるお盆」という「しょっちゅう使わないが、何かしらのタイミングで必ず使用する言葉」であるがゆえに、影響も受けずに残り続けてきたのだと思われます。

ただ、これはあくまでも簡単な方法で取られた、サンプル数も少ないアンケートなので、もっと大々的に行えば、また違った結果が得られることでしょう。このアンケートに協力していただいた皆様に心よりの感謝を申し上げます。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?