Hazuki Nakamori

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靴ずれ

ああ、この靴はそのうちに靴ずれするだろうな。 人生それなりに生きていれば、試した瞬間にそんなことくらいだいたいわかる。でもやっぱり諦められなくて、足の皮がめくれたのを観察しながら、 (なんなら絆創膏までバックにしのばせておく用意周到ぶり) 皮のほうが観念して固く分厚くなるまで、わたしは飽きもせず一目ぼれした靴を履いて歩く。痛みさえ心地よいのだと言い聞かせながら。 きっと彼はそんなことはしない。選ぶ段階で入念なリサーチをして、機能性と価格の釣り合いがとれた自分にしっ

    • 世界が変わるということ

      いま、私たちはこれまでとは異なる世界にいる。これは確かなことだ。 できるだけ外に出ず、ほとんどの時間を家で過ごす。電車やバスに乗らない。というか動かない。運動不足解消のためにヨガをはじめる。床にうっすら積もるホコリが目について、掃除をする。ピカピカにしたら今度は生き物の気配が恋しくなって植物をもらって来る。お腹はきっちり朝昼晩と空くのでその度に食事を作り、ちょっとお酒を飲んで洗い物をしているとグラスを落として割ったりする。 こうしていると、仕事でいろんな人に会ってほ

      • 味噌汁に実を入れすぎる病に誰か名前を

        味噌汁をつくる くず野菜を入れてつくる 冷蔵庫の中で忘れられて 干からびそうになっているカボチャも いつかの鍋の残りのシイタケも 3パック100円だった木綿豆腐も 見切り品だった玉ねぎも みんなみんな入れちゃおう ちょっと汁が足らないけど というかほとんど野菜の味噌煮込みだけど このさい細かいことは置いておこうよ だっていろいろ食べられたほうがいいでしょう? 捨てちゃうよりもいいでしょう? そう言ってへへと笑いながら 母の出してくれた味噌汁の温かさよ またそんなこと言って

        • 絵よりもさきに、何をみている? #0

          芸術作品といえば、何を思い浮かべるでしょうか。ダビデ像? サグラダ・ファミリア? でも彫刻より、建築より、やっぱり頭の中にあるのは「絵画」ではないでしょうか。そして現代においてはとくに、美術館でみるものと想定されがちです。 では、美術館に収められているものだけが芸術作品なのでしょうか。もっと言えば、美術館にあるから、芸術なのでしょうか。 これから芸術作品を、現代に一般的な「絵画」から切り取り、いったい芸術とは何なのか、芸術が目指すものについて考えてみたいと思います。 そも

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        • ニューヨーク旅行
          3本
        • おしいそう
          5本
        • 卒論からの逃避
          0本

        記事

          童貞と出産 ツチヤタカユキに寄せて

          「男性」の孤独はとても深い。 あるカイブツの存在を知って、その深刻さと切実さに、打ちのめされた。 二十七歳、童貞、無職の「伝説のハガキ職人」・ツチヤタカユキさんだ。 そして同時に思う。私は圧倒的に、孤独ではない。 「女性」は孤独でないことを、本能的に知っているのではないか。 私はフェミニストでも、男根主義者でも、あるいはLGBT側でも、ない。私は私でありたいと思う自己中心主義者だけれど、「雌雄」は認めざるをえないと思っている。生きていこうと思うなら、残念なことに、私は身体

          童貞と出産 ツチヤタカユキに寄せて

          NYかってに街角スナップ

          ブルックリン橋を歩くご夫婦。カラーコーディネートばっちりすぎ。 頭から足の先までぜんぶ真似したい! ブルックリン、好みの人がいすぎて困った。 弦が切れて帰ろうとしていたお兄さんにリクエストしたら歌ってくれた。 シアトルのトランジットで時間つぶしに付き合ってくれたマリアちゃん 旅のお供、カメラ小僧もキマってるね。

          NYかってに街角スナップ

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          かなり食と美術にかたよったNY旅行記

          かなり食と美術にかたよったNY旅行記

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          楕円の夢 PV制作うらばなし

           寺尾紗穂さんが、最新アルバム『楕円の夢』を今年の3月にリリースしました。そのリード曲である「楕円の夢」のPVを手がけた5人が再び集結、製作当時を振り返りるトークショーが下北沢のB&Bで開催されました。チーム「楕円派」のみんなで、和気あいあいとおしゃべりするうち明らかになったのは、「楕円」というモチーフに象徴される、それぞれの生き方でした。彼らの憧れる「楕円」の魅力とは何なのでしょうか? あなたも知れば、ちょっと生きるのがラクになるかもしれません。 チーム「楕円派」寺尾紗穂

          楕円の夢 PV制作うらばなし

          0. 映画よりも刺激的?−−無計画ニューヨーク11日間の旅

          友人に誘われるがまま、ニューヨーク行きの航空券を取って1カ月。とくにワクワクして眠れないみたいなこともなく、前日の夜中から始めた荷造りは、喉元まで出かかる「面倒くさい」をなんとか飲みくだすこととの闘いだった。 estaの存在も、ガイドブックをぎりぎりまで開かなかったせいでフライトの5時間前に知る始末。 唯一していた準備といえば、ニューヨークが舞台の映画とか小説(たぶん死ぬほどあるけれど)を新たに何本か観たり、記憶をたどり直したりしたことくらいだった。 そんなこんなで辛

          0. 映画よりも刺激的?−−無計画ニューヨーク11日間の旅

          アルバムのチカラ

          写真には「撮った人」がいる。この当たり前のことをみんな最近忘れがちだ。おじいちゃんおばあちゃんの若かった頃くらいまで、写真を撮るのは一大事だった。一張羅を着て写真館へ行って。大勢親戚が集まった時とか何かの記念に撮って、焼き上がった写真は丁寧にアルバムにしまわれていた。ところが現在、写真はモノではなくなってしまった。いつでもどこでも撮れる代わりに実体がどこかへいってしまったのだ。シャッターを押すたび(もはやタッチするだけで)意味は削られペラペラにされる。もう撮影者さえ、自分とい

          アルバムのチカラ