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箱根をどう旅する?ある日の通訳ガイド

通訳ガイドのぶんちょうです。
関東圏に住む私は、箱根へ外国人観光客を案内することも少なくありません。

箱根は特に東京近郊に住む人にとって日帰りで気軽に行ける場所として昔から人気の観光地ですよね。

温泉が豊富。天気がよければ、あの富士山が間近で拝める。美術館もいろいろ。遊覧船、ロープウェイ、ケーブルカー、スイッチバック式の電車など様々な乗り物が楽しめる。都会の喧噪を逃れて、ゆっくりと温泉に浸かれる。人気の理由はたくさんありますね。

一泊してゆっくりしたいなら、民宿から最高級の旅館やホテル。本当に盛りだくさんで、おいしい食事を味わうだけのために来る人も多そうです。

こんな日本人にも人気の観光地。外国人観光客が放っておくはずがない!外国人観光客たちもわんさかです。

そんな外国人観光客のお相手をするのが通訳ガイドの仕事です。

ネットの情報を頼りに自力で旅をする外国人も多いですが、
ガイドのお客様になる人たちはこんな感じです。

情報を調べる手間を省き、
失敗を避け、
効率よく、
ネットの情報では手に入らない話をタイムリーに聞き、
交通機関や施設のチケットの確保を確実にし、
混雑を避け、
おいしいレストランを選んでもらい、
言語の壁に煩わされず、
安全に旅をしたい
道中とにかく快適に過ごしたい!

いやいや私自身もこんな理想の旅をしたいもんだ笑

今日は、ある春の日の箱根ツアーについてです。

今回の箱根ツアーは専用車で都内のホテルから箱根をめぐって、夕方に都内のホテルに戻るというものでした。

ところがツアー前々日になり、このツアーは公共交通機関を使うことに変更になりました。高速道路の激しい混雑が予想されたので変更との連絡をツアーの会社から受けました。

「マジですか…」(とは言いませんが)

箱根には、かなりの頻度でツアーに行きますが、電車で行くのは、おそらく7、8年ぶりです。箱根までの行程をシミュレーションしていると、昨今はドライバーさん付きの専用車ばかりのツアーで、甘やかされていた自分に気づかされます。

プロのドライバーさんは、行き先を告げればちゃんと連れていってくださる。そんなツアーが当たり前のようになっていたなと。

ドライバーさんのプロ仕事には、いつも感謝し、感心し、彼らから学んだことも沢山あります。それでも、いつの間にか、どこかでそれが当然のようになっていた自分。反省...。

数年ぶりの電車とは言え、新人のころは何度も箱根に通い、地理や動線を身体にたたき込みました。観光案内所のおばさんに「また、あんたか!」と毎週現れる私を見て呆れられるほどに。

そんな経験もいつかは役に立つもの。都内を出発し、箱根を回る方法は、少ないようで10通りくらいあります。

ホテルの場所、ゲストの体力、年齢、好み、を考慮して、あらゆる方法を考えておきます。幸い、前日に都内のツアーをご一緒させていただいたお客様なので、どんな方たちかわかっているのは、ルートの選択肢を絞る上で非常に有利です。

考えた旅程は、東京駅から小田原まで新幹線。そこからタクシーで箱根入りするというルートです。本来は専用車で行くお客様なので、確実に座っていける方法を選びます。

このルートのために、前日にお客様にお願いして朝のホテルでの待ち合わせを少し早めていただきました。

お天気に恵まれ、真っ白な雪を頂いた富士山が新幹線の車窓から見えると、お客様のテンションも一気にあがります。

このところ天気が悪い日が続いていたので、見事な富士山に喜こぶゲストの隣で、今日の人出は相当なものになるなと、私の心はちょっと戦闘モードに切り替わります。

小田原からのタクシーでの箱根町入りもスムーズ。うん、なかなかいいスタート。まずはタクシーの運転手さんに芦ノ湖畔に寄ってもらいます。そして写真撮影。ゲストは湖のきれいな写真を夢中で何枚も。でも、これは実は時間調整です。お目当ての寄せ木細工の開店時間まで5分の時間があったからです。

お店の前で開店をぼっーと待つ5分は友達同士の旅ならOKでも、やはり、仕事では、たとえ5分でもお待たせしたくはないのです。

そして、開店時間に合わせて入店し、箱根の素晴らしい工芸品、寄木細工を堪能していただきました。そして、案の定、お客様は、その素晴らしさに感動されていました。これも前日の様子からアート好きだとわかったので、組み込んだ行程です。お客様が喜んでくださるほど、ガイドにとってうれしいことはなく、心のなかで「よっしゃー」となる私です。

一瞬喜びを味わった次の瞬間は再び、次の行動をシミュレーションです。お客様はどの程度、興味を示したり、買い物に時間を取るかは現地でないとわかりません。この後は遊覧船に乗るので、いくつかの船の時間の候補を見ながら、お客様の様子をうかがいます。

団体ツアーならば「20分後に集合です。遅れると船に乗れませんよー」なんて言えちゃうのですが、個人ツアーですから、スケジュールの都合でゲストを催促することはあまりしたくありません。

船着き場までの徒歩の時間やチケット購入の時間などを考慮して逆算。船は本数が多くないので、時間管理に一番神経を使います。決して、せっつかないように、でも、もし時間が迫ってくればさりげなく誘導していきます。

船は案の定の混雑でしたが、これは避けられません。お客様も理解してくださいます。箱根の海賊船には一等船室があるのですが、今回はわざと一般席にしました。

かなりの人数の外国人観光客の団体が一等船室の切符を持っていて、彼らがとても大きな声で乗船前から騒いでいたためです。いいタイミングで船に乗れたので普通席でも、一番の席を取って差し上げることができました。

30分程度の船を楽しみ、湖の反対側、桃源台に到着です。ここからは、とにかくロープウェイに乗ることがとても楽しい経験です。何度も乗っているロープウェイですが、毎回、私もワクワクします。特に今日は天気がいいので、富士山がどーんと目の前に広がる感動をお客様と分かち合えると思うとなおさらです。

ロープウェイが大涌谷に近づくと硫黄の色で染まった山肌と噴煙の立ち上る荒々しい景色が現れ、生きている地球の営みを感じることができます。ロープウェイの中から硫黄の匂いを感じることもあります。

この景色は圧巻で、たとえ富士山の見えない日でも、ここは足を運ぶ価値のある場所です。富士山とはまた違う大涌谷のゴツゴツした大自然の景色とパワーは誰をも圧倒します。

その後、数年ぶりのケーブルカーと登山電車で彫刻の森美術館へ。屋外の彫刻を、公園内を散歩する形で鑑賞できるユニークな美術館は、日本人以上に外国人に人気の場所です。年中無休なのもガイドにとってはうれしい部分。

アート好きのゲストはピカソ館に夢中になり「ここが日本だということを忘れそうになった」と。アート好きならずとも、大人も子どもも楽しめる場所だと思います。

彫刻の森美術館での行楽が終了し、再びガイドにとって、ここ一番の勝負どころがやってきます。東京までの帰りをどう快適にスムーズに過ごしていけるか!

観光をし、説明をしながらも地方にいる時は電車の時間のチェックは欠かせません。箱根登山鉄道は単線なので上りも下りも同じホームに入線します。

春という時期を考えると、上り電車の混雑は必至。一旦メインの強羅に戻り(下り電車)そこからタクシーで小田原を考えていました。この日は、上り(箱根湯本行き)が入線してきました。

ホームに入って来た車内を覗くとなんと空席があります。咄嗟の判断でルート変更。ゲストを促し、すぐに乗車してもらいました。車内で、私の行動を説明し納得してもらいます。

登山電車は、スイッチバック式なので面白い経験もできます。3回ほど、違う駅で運転手さんと車掌さんがホーム上を歩いて場所を入れ替わるという、何とも、のどかな光景が見られます。(お仕事をされている運転手さんたちは大変ですが)。山の険しさを感じることのできるこのスイッチバックの電車が個人的に大好きです。

約40分、登山電車に揺られた後、ガイドにとって更なる試練(笑)が。箱根湯本から普通のローカル列車に乗せることです。ここの接続がなんと1分くらいしかないのです。

接続が1分なので急いでもらうこと、混雑したローカル列車で10分強我慢してもらうことをしっかり説明しておきます。

こんな日本人には、普通のことも外国人にとっては、ある意味「試練」なのです。本来は東京のホテルから高級車でゆったりと、ぜいたくな旅をするはずのゲストなのですから。

無事に小田原に着いたので、私もほっとしました。ここからはゆったりと新幹線のグリーン車で東京まで帰ります。急げば乗れる新幹線もありましたが、ここは次の新幹線を待つことにしました。

帰りの切符を購入し、20分ほど駅のスタバで休憩していただきます。ゲストおふたりの今日の協力に感謝し、最後の30分はグリーン車でくつろいでいただき、無事に東京のホテルにお送りしました。

翌日、ツアーの会社を通してゲストから、ご自分の趣味に合った場所だけを選んでくれたこと、状況に合わせて効率よく回ってくれたことに対して丁寧なお礼のメールをいただきました。ガイドにとって1番うれしい瞬間です。

ガイドの仕事は、こんな風にいつもハラハラ、ドキドキの連続です。でも本来の私は天然系だからプライベートの旅行は行き当たりばったりで失敗だらけ。反対向きの電車に乗るなんて、しょっちゅうです。ワハハ。




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