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外国人もはまる芸者さんとのお座敷遊び

通訳ガイドのぶんちょうです。

お客様の案内で、久しぶりに東京で芸者さんとの宴に同席しました。
都内某所で3人の芸者さんと6人のお客様です。

朝から都内の観光地を精力的に回ったお客様は一旦ホテルに戻りました。
夜の宴席のためにドレッシーな服に着替えて登場した時は、男性も女性も文字通り見違えるほどで、私もドライバーさんも一瞬、別の方たちかと思ったくらいです。皆さん、50代から60代の方たちです。

ホテルから車で30分。さあ、到着です。併設の日本庭園をまず見ていただきたかったので、少し慌ただしかったのですが、早めに滞在先のホテルを出発して正解でした。黄昏時の庭園は、ライトに照らされた石灯籠、木々の緑が神秘的と思えるほど素敵でした。

お庭の散策後に案内の方についてお部屋まで、私を含めて総勢7名はぞろぞろと奥まったお座敷へと案内されました。和服姿の案内の方に続き、建物内の長い長い廊下を静かに歩いていきます。ところどころに置いてあるランタンのほのかな光が、これから入っていく非日常への世界へいざないます。


今回の場所は、和室に外国人のための便宜を図って、椅子とテーブル席が用意されていました。さっきまでの東京の喧騒から遮断された、しんとした空間、日本的なしつらえ、和服姿の案内の方々に、お客様の間に少し緊張が走ります。

人生初の芸者さんとの対面を前に、これから一体、何が始まるのかという面持ちで、いつも元気な青い目のお客様も、おとなしくちょこんと座っています。いい感じの緊張感だ。

私は陰で案内の方に、まずは芸者さんの演奏からスタートしてくださるようにお願いしました。

いよいよ芸者さんたちの登場です。畳の間におひとりずつ静かに、三味線や太鼓などをお持ちになって入っていらっしゃいました。芸者さんお二人と半玉さんの豪華なお着物のため、空間が一瞬にして華やぎます。

いえいえ、それはお召し物のせいだけではなく、芸者さん、つまり芸術家としてのオーラが放つもののためなのでしょう。


芸者さんは英語で自己紹介をなさり、演奏が始まります。そう、芸者さんとの宴席ってプライベートのライブハウスで生演奏を聴くということなんです。究極のぜいたくですね。

いくつかの唄と舞の披露の間、お客様の目は釘付けです。日本人には馴染みのある三味線や太鼓の音、ゆったりとした舞の動き、独特の節回しは外国の方にはどんな風に聞こえるのでしょうか。

演舞の披露が終わると、前菜から始まる会席料理を楽しみながら、ゆっくりと芸者さんたちと時を過ごします。ガイドは宴席の場合、通訳として入りますので、お客様の質問やを日本語にして、芸者さんに伝えたり、その逆のことをする係です。

芸者さんとお客様の談笑風景

芸者さんはお客様の前に立ち、着物やかんざしなどの説明をされますが、一通り終わると、今度は芸者さんたちが、私たちの席の間にお座りになって雑談をします。

お客様にとって、この芸者さん達との雑談の時間がとても楽しいのです。ミステリアスな日本の芸者さんと直接、会話ができるチャンスですからね!「何歳の時に芸者さんになったの?」「休日は何してるの?」聞きたいことは尽きません。

芸者さんは、ひとつひとつに丁寧にお答えするだけではなく、楽しい話題も提供して、どんなお客様も飽きさせません。まさに、おもてなしのプロですね。

「通訳さん、お願い!」とあちこちの席から何度も呼ばれて、ちょこちょこと席を移動する私。この時ばかりはもてもて状態です。それでも、おいしいお料理だけは残さずしっかりいただいてきました。これ、通訳ガイドの技です!

お客様が演舞の後におっしゃった感想は、「手の動きがなんて滑らかなの!」の他に「袖の中に手が隠れたり出てきたりするのね」まで。なかなか面白い視点ですよね。

舞のとき、腕を伸ばした時に着物の袖から手がのぞき、手を下ろすと手の甲に絹がかぶる。その様子を興味深く見つめていたのですね。

しなやかな手の動きが醸し出す上品な色気というものを感じてくれたのだなと日本人としてうれしく思いました。

歓談が楽しすぎてお客様のお料理はなかなか進まないほどでした。でも、ワイン好きの今日のお客様、ボトルの数は順調に進んでいきます。

その後は、お座敷遊びでとても盛り上がる時間。金比羅ふねふねのゲームです。ご存じない方はこちら、Youtube舞妓Geisha 様の映像を貼っておきます。ご覧になってください。


単純なのだけれども、難しい。そして、なぜか闘争心に火を付けるんですよ、これが。お酒が入って、なお楽しいというところでしょうか。とにかく盛り上がるんです!

「誰から行く?」で先頭を切った男性のお客様、いい感じでスタートを切りますが段々上がっていくスピードについて行けず、あえなく敗退です。周りは大喜びで爆笑。

男性陣が全滅したところで、私に行けという声。酔いが回ってきたお客様たちは、揃って私の名前を連呼。教えてないのに酔っ払いの行動って世界共通なのね。

さて日本を代表して意気揚々と登場するガイドの私。久しぶりの金比羅さん、こんなことなら家で特訓してくるんだったと意味のない闘志がわいてきました。

仕事は一旦忘れ、お客様になりきって座布団の上に座ります。始めはゆーっくりなテンポで三味線伴奏が入ります。ここまでは楽勝。これが段々スピードを上げていくと……。あっという間に負けました。えーっ! それにしても、お客様たちのうれしそうなこと! なんでよ?!さんざん面倒みてきてあげてるじゃん。

そこで復讐のため「ほんとはね、罰として負けたらお酒のグラス空けるんだよ」と入れ知恵。

もう一度やる!と意気込んで出てきた男性。自分でグラスになみなみとワインを注ぎました。ほ、ほんとにやるんかい!

予想通り、負けた男性は皆の前で見事にグラスの一気に飲み干していました。いや、一気飲みまで教えてないけど‥‥。

大いに盛り上がったゲームの後、写真撮影をして帰りの時間になりました。

ご夫婦が3組で6人のお客様は6本のワインを注文。ひとりボトル1本です。いやあ、よく飲みましたね。

日本人はよく酔っ払って、ぐでんぐでんになりますが、お酒に関しては欧米強し。お帰りになるときは、さっきまでの、まるで学生の飲み会のような騒ぎ(今は違うのかな)がなかったかのように、しゃんとしています。

帰りのハイヤーのなかでも、楽しかった宴席の余韻に浸っていたお客様。「いやあ、とてもスペシャルな経験ができたよ」と。

はい、こちらも、あなたたちのおかげでとてもスペシャルな経験しましたとも! 


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