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印税① 銀座で巨エビを小脇に抱えるまで

3回目にしてようやく景気の良い話ができそうです。
何せ「伊勢海老」が登場するのですから。
あまりにも縁遠いので、いつのまにか僕の中で「高級食材」ではなく、チュパカブラ、ビッグフット、志茂田景樹などと同じ「UMA」のフォルダに入ってしまっていた、あの伊勢海老です。

なおリアルタイムの僕はというと新潟の親が送ってくれたミカンをじいと見つめ「不思議の国のアリス症候群」を待ち「ミカンがでっかくなったぞ!」と感じた瞬間に食らいついて何とか膨満感を得ようと目論んでいる最中なので、何と申し上げますか、そっとしておいてください。

「こんど印税が入ったら…俺、巨エビをおごるんだ」

もし「死亡フラグ審議委員会」なるものがあったら「これは死亡フラグかいなか」で揉めに揉め白熱するあまりとうとう死者が出てしまいそうなセリフですが、僕が友人と交わした約束です。

デビューから2ヶ月後。念願の印税が入りました。
僕の場合は新人作家であり、なおかつ所属事務所を経由して手元に渡ることになっていたのですが、それでもこれまでの最高月収であることには変わりありません。
生々しい金額こそ明かせませんが手元にある『あしたのジョー』全20巻セットで換算すると同じものが70セット買えるので「ジョーが70回真っ白な灰になる」くらいの額です。わかりにくいにもほどがありますね。

もっと簡単にいえば、まさにエビをご馳走する約束をした、現在大手企業に勤めている友人が毎月もらっている月賦くらいの額です。
また滞納していた国民健康保険と住民税で大抵は消えます。
景気の良い話をしようとしたら、なんだか悲しくなってきました。
ちょっと鏡を見て「不思議の国のアリス症候群」を待ち、「自分が大きくなった!」と感じる頃合いに戻ってきます。

改札越しに千円札を受け取り、生きる。

銀座で、その友人ら2名と待ち合わせました。
ちゃんと「銀座で一番でかいエビをだす店」も予約済みです。
巨エビナタリーでも特集された名店です。

そもそもどうしてそんな約束をしていたのかといえば、
まさに前記事の頃、水で水を薄めるほどに逼迫していたとき、
色々と世話になっており、そのお礼を兼ねてのものでした。

どれくらいお世話になっていたか。1例だけ挙げさせて頂くなら、
彼らが『ずっと喪』の刊行祝賀会を催してくれた帰りしな、
終電ギリギリの駅の改札前にて財布を改めれば千円一枚も入っておらず、suicaの残高も0。路線が違うので先ほど別れた友人はというと、既に改札内に入り家路へと向かっている最中。衆目など一切気にせず「シータ!」「パズウ!」ばりのスペクタルでもって改札越しに千円札を受け取り、なんとか帰宅できたことがあります。僕はこれを「友情」と呼び、彼はこれを「赤恥」と呼び、世間様はこれを「迷惑」と呼ぶに違いありません。感謝です。

乙姫が普段食べてるレベルの巨エビで記憶を失う

なんて話をしているうちに、エビが運ばれてきました。
でかいのです。「不思議の国のアリス症候群」ではなく、錯視でもなく、現にエビがでかいのです。

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ここから先の記憶は定かではありません。とにかくエビの存在感に圧倒され、サルトルさん言う所の「エビがエビすぎるやないか」でありまして、
どんな味であったか、どんなリアクションをしてくれたのか、そういや巨エビナタリーとは何か、まるで覚えておりません。
気づけば店員さんを呼び、
「ジップロック、ありますか」そう尋ねておりました。

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「貧乏根性が持ち帰らせた巨エビ殻の味噌汁」のレシピ

【材料】
・ウルトラセブンにいた気がするエビの殻・・・持ち帰れるだけの量
・オマール海老っぽい海老の殻・・・電車の中で汁が漏れない量
・本当に知らんエビ・・・途中で我に帰った時に車窓から投げ捨てられる量
【作り方】
『リトルマーメイド』の世界における処刑と同じ。
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なぜこのような行為に及んだのか。
動機はレシピ名の通りです。
巨エビの総額はさすがにジョーを何十回も真っ白な灰にするに及びませんでしたが、僕をそうさせるには十分過ぎるほどだったのでしょう。
味はというと「しょっぱい」。
そう後の妻となる人が漏らしていたことを記憶しております。
待ち焦がれた印税は僅かな塩気だけを残し、静かに去っていきました。
長くなりましたが、今回の記事を通してこれだけは言えます。
伊勢海老ではなくオマール海老でした。訂正してお詫びいたします。


またご愛顧、そしてサポートしてくださったみなさま、本当に有難うございます。この場(文章の放課後みたいな箇所)をお借りして、心から感謝御礼申し上げます。大袈裟でなく、生きる糧となっております。


いつもいつも本当にありがとうございます。