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楽園BOOKS4 ひとの気持ちが聴こえたら 私のアスペルガー治療記 (スプリングフィールド・マサチューセッツ・USA)


ひとの気持ちが聴こえたら(早川書房)

自閉症(アスペルガー)の筆者の実話に、涙が止まらない

さあ、ブックカフェを紹介しましたので、そこで読む本をセレクトしましょうか。ヨーロッパから大西洋を渡って米国東海岸、ボストンから少し内陸に入った中規模の都市、スプリングフィールド(「春の野原」みたいな意味の街ですね)で自動車修理工を営んでいた一見変わったアメリカ人、ジョン・エルダー・ロビソンによる「ひとの気持ちが聴こえたら」です。ノンフィクション。

これはコロナ期間でたくさん読書をしていた2022年に出会った本で、その年に読んだどの本よりも衝撃を覚えました。

すごく簡単に話せば、子供の頃から自分はどこか人と違うと感じておじさんになった人が、40歳の時に友人のセラピストに「あなたは自閉症(アスペルガー)だ」と指摘され、そこからrTMS治療という、脳に電気刺激を送る治療法に取り組むことになるのですが、そうすると人の心が理解できるようになって、なんか人生がハッピーになったよ! みたいな体験記です。医学的な話も出てくるので専門的とも言えるし、体験談として難しいことを考えることなく読めるという意味でライトでもあるし、SFが現実になったような話でもあるので、SFが好きなんて人にも合うかもしれません。日本の評論家? 文筆家? アニメプロデューサー? の岡田斗司夫さんのYoutubeでこの本を初めて興味を持ち、読んでみることにしました。

自閉症、ASDやADHDなど脳になんらかの特徴を抱える人の数は、一説には10人に1人ぐらいいるなんて話を聞いたことがあります。でも、多くは普通に治療を受ける事もなく日常生活を送っています。おそらく自分が少し人と違うと思っていても、とりあえず自分が病気だとは思っておらず、まあやり過ごしている人が多いのでしょう。あなたの周りでも、絶えずあらゆるところに興味が移って集中力を維持できない人、目を合わせようとしても微妙に合わず、どこか無表情で気もそぞろで考えてることが理解できない人、がいれば、それはひょっとするとそういう特性を持った人かもしれません。

彼はASDゆえ、他人の気持ちが理解できません。しかし、治験としてTMS治療を受けた初日の帰り、高速道路を運転中に何気なく音楽を流すと、何回聴いたかわからない曲を聴いて感動し、涙で思わず事故しそうになるなんて話が登場しますが、そうやってTMS治療を受ける前と後の人生が鮮やかに変わっていくところは、思わず「本当かよ?」と思わざるを得ません。

ところで私、何を隠そう、ASDとADHDと診断が下っておりまして、かつてカウンセラーさんに言われたけどあまり気にも止めてなかったんですが、この本を読んで、なんて空気をよめない、人の感動を読めないんだ、とASDあるあるが出てくるところは、はっきり言って涙なしには読めませんでした。私やこの本の著者のように、そういう傾向がありつつも逆にある部分では才能を発揮したりして、社会に居場所をなんとか見つけられる人も多いですし、そうでない人も多いです。

彼は40歳でASDと言われ、50代にして治験を受け、59歳にしてこの「ひとの気持ちが聴こえたら」(現代:Switched on)を出版し、ASD症状は改善し、明るい人間になったものの、今度はそれまでの人生とその後の人生の違いに苦しむようになります。悩みは尽きません。でも、普通の脳を持った方も、なんらかの特殊な脳を持った方も、人生のピークはいつくるかわかりませんよ、59歳にして人間活動のピークに達する事もあります、という希望の話をしたいと思います。

実は私もこの本をきっかけにrTMS治療を東京で受けています。その結果がどうだったのかは、治療には時間がかかるので何年後かに。

原初: Switched On  / John Elder Robinson


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