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62【記憶のない日々】

術後、1回目の外来を終え
8月に入ってからの記憶がほぼない
(これを書いてるのは9月13日の朝)

なんにもなかった日々

なんにもできなかった日々

覚えておくようなことがなんにも

ちょっとそのことに恐怖を感じる

きっといろんなことがあったはずなのに
なんにもないことになってることが


ある日、無性にチキンラーメンが
食べたくなった

医師にも食べたいものを我慢するより
食べたいものをゆっくり食べなさい

と言われていたので
我慢するのをやめ
チキンラーメンを作った

どんぶりに乾いた麺を入れ
卵をプルンと乗せる

小さいヤカンで沸かしたお湯を
そこにぐるぐる回しかけ
ラップをかけてタイマーをセットする

3分後、湯気の上がるそのどんぶりに
お箸を突っ込んで掬い上げる

ズルズル〜 はふはふ
ズルズル〜 はふはふ

ラーメンはすする
すすれないラーメンは
ラーメンじゃない


美味しかった
一口目は最高だった

だけど
噛まないといけない
麺がドロドロに溶けるまで

やたらひたすら噛まないといけない

逃げる
麺は逃げて逃げて逃げまくる
勝手に喉の奥まで逃げ込んで
下に落ちようとさえする

一回、挑戦してみてほしい
麺が口の中で完全なる液体になるまで
麺が逃げずにそこに留まるかどうかを

無理だ

無理すぎる

苦痛だ
苦痛でしかない


早く喉に流し込んで
次の麺を吸い上げたい

だって麺たちだって
明らかにそれを望んでるんだから


そんなこんなで
ついつい早く食べ終わってしまった

美味かった
美味しかった
久しぶりのジャンクで
身体を汚してる背徳感も
全然、悪いものじゃなかった

大丈夫でしょ
これぐらい

きっと大丈夫


いやいやいやいや

全く大丈夫じゃなかった


幸せな時間は
あっという間に過ぎ去って
喉元過ぎればなんとやら

猛烈なダンピングがやってきた


十二指腸から下の内臓を
思いっきり握りつぶされて
そのままギューギューひねって
絞り上げられるような
なんとも言えない奇妙な痛み

ここまでのものは初めてで
うんうん唸ってのたうち回った

最悪や
あんなに美味かったのに
最悪や


クソーーー
もうイヤやー

その嵐が過ぎ去った頃に
むうは決めていた
(一体、何度目だろう、、泣)

食べたいものを
食べたいだけ
たべたい時に
食べるのはやめる


欲望にただ従うのは
もうやめる

そしてこれを底にやめる
チキンラーメンなんか
2度と食うものか!

これから
ただただ
生命維持のための
点滴のように
ダラダラひたすら

たべてることを
わすれるように食べる


そしていつかは

ほんとうに食べることを
忘れてしまっても
いきられるようになる


これでいってみようと思った
(これがなかなかどうして難しい)


食事の調整は難しい
普通に食べられないことが
こんなにも難しい

みんなにいっぱい迷惑をかけた

せっかく、寮生活から帰省してる
のんにもなんにもしてやれんかった

じぶんのこともいっぱい責めた

なんにもできなくて
なんにもしたくなくて

気力も体力も奪われた



そんな最中、ある日
のんの将来の話になった

色々、考えてはいるけれど
将来を未だ描けていない様子

彼女は血の巡りにちょっと難があって
急にバタンと倒れ込んだり座り込んだりすることが
ここ最近、何度かあって原因もよくわからなかったから
将来普通の仕事をすることが難しいんじゃないかと
不安に思っていた(バイトもそれでやめていた)

話しているうちに
勧めた訳ではないけれど
うちで働くことも
考えてもいい様子

前は絶対、嫌だといっていたのに
この心境の変化、なんだろう
嬉しいか嬉しくないかといえばそれは
ちょっと嬉しいけど
完全にむうの代で終わらせるプランで来てるので
これはちょっと色々考え直さないとなとか
思い始めたけど

きっとそれは身体のことを心配してのこと
だから、ほんとの興味を訊ねると


デザインを使った広報などクリエイティブや
ビジュアル制作に興味があるという

昔から一人でひたすら
何かを描いたり作ったりしていたし
センスはあるからきっとそこは伸ばせそう

ここでパチンとむうのスイッチが入った


いろんな学校やいろんな進路を
調べ始め、それにハマっていった

むう自身も興味があることなので
余計に面白くなってズンズンいった

夏にオープンキャンパスを
やってる大学もいくつかあって
そんな情報をのんに共有し
資料を取り寄せたりもした

自分に意識の矢印が向いてる時は
鬱々として全てダメダメな気分だけど

こうして誰かのことに
夢中になってるとそれは面白いほど消える

それはきっとむうの特性なのかもしれない
そんな光がちょっとだけ見えた日々だった

退院したら2週間ぐらいで
仕事を始めるつもりでいたけど
まだ、全然そこまでいけそうにもないことに
焦りと不甲斐なさを感じていたけれど

働くことだけが人生じゃない
動くことだけが人生じゃない


こうして休むことも楽しめる人間になりたい
今のところ、無理だけど

いつか、ただ、休むことができるように


縁あって、うちにいる植木ちゃんたちが
ちょっと窮屈そうにしてたので
大きめの鉢を買って、植え替えをした

小さい入れ物にぎゅうぎゅうに根を張って
この世界いっぱいに手を伸ばすように
伸びる葉っぱたちに生きるチカラを感じた

自力ではそこから一歩も動けないことを
存在として受け入れて
ただ、太陽と水分とを取り込んで生きる
その姿が


そんなふうにして夏は過ぎていった

あ、そうか
なんにも覚えてないのは
この間、
高校野球をひたすら流してたからだ

近江高校の山田くんを

熱い夏、熱闘甲子園

あの満塁ホームランは痺れたなぁ。。。


教訓
:チャンスをものにできるのがすごい
:ピンチもどうにか乗り越えるしかない
:ピンチはチャンスと言えるようになりたい
:誰かのことをやってる時は我を忘れる

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