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冥王星と能登

2006年8月。チェコのプラハで行われた国際天文学連合の総会で、冥王星を惑星とする定義に対して、多くの天文学者から反対の意見が出た。会議は難航したが、ついに惑星の新たな定義が採択された。

この年、人類は冥王星を失った。

私が子どもの頃、惑星は、水、金、地、火、木、土、天、海、冥と覚えた。いま、太陽系の惑星に冥王星は含まれていない。太陽系外宇宙を旅して戻って来る軌道の長いこの星が、太陽系から消えたのは、冥王星の発見者のトンボー博士、生誕100年の年だった。

私は能登半島を何度も訪れているけれど、実は冥王星を追いかけて能登を旅していた。能登と冥王星には不可思議な関係があるんだ。でも、その話をする前に冥王星について少し考えてみたい。
冥王星は「プルート」と呼ばれる。プルートは「プルトニウム」の語源でもあるだけど、ローマ神話に登場する冥府の神だ。冥界……地下世界を統治して死者の魂を護っている。

惑星だった頃のプルートは最も長い軌道を持ち、248年の周期で太陽系に接近して外宇宙の未知なる力を運んでくる存在だった。誰も明確なイメージを持つことはできないけれど、確かに存在する未知なるもの。そのパワーはとても強い。不吉ですらある。古い秩序を壊し、新しいものを創造する力を与える……と占星学の世界では考えられていた。

冥王星が太陽に接近してくる時、そのパワーゆえに太陽系は損傷を受ける。破壊的な事件が起きやすくなるとも言われた。でも、遠い宇宙から新しく持ち込まれた活力は、地球規模での様々な変革の力になっていく。破壊によって新しい思考が生まれるのだ。プルートは、天界のジョーカーのような存在だった。

この、冥王星を発見したのはトンボー博士なのだが、そもそも冥王星の存在を確信し、発見したのはトンボーが助手を務めていた、天文学者のパーシヴァル・ローエルだった。ローエルの死後、トンボーがローエルの意思を継いで観測を続け、ついに冥王星を発見するのだが、この発見もまた、信じられない偶然によってもたらされた。

冥王星が発見された後、ローエルが残した惑星軌道の計算式はまったく間違っていたことが証明される。つまり、トンボーは間違った計算式に基づいて観測していたのに、なぜか偶然に冥王星を発見してしまった……というわけだ。

トンボーが冥王星を発見したのは1930年。第二次世界大戦に世界が巻き込まれようとしていた時代だ。それから10年後に人類はウランとプルトニウムからとり出した力で原子爆弾を作るのだけれど、この話は今回は脇に置いておく。

能登の話だ。ローエルはボストン生まれのエリートなのだが(弟はハーバード大学の学長だった)、なぜか日本に憧れて、明治16年に日本に来日。日本語を覚え、日本研究に没頭し、日本を紹介する数冊のエッセイを出版する。数学や天文学を学んだローエルがなぜ日本を気に入ったのかその理由はよくわからないが、とにかく彼は能登半島の地形に興味を持って、能登を旅する。

当時の能登は鉄道も通っておらず、日本の原風景をとどめていた。ローエルは半島の先端まで行きたかったらしいが、陸路の道は険しく、穴水町で引き返している。

旅の途中、多くの貴重な写真を撮った。その後、ローエルはアメリカに帰国して「NOTO」という旅行記を出版する。本には貴重な能登の風景や当時の人々のポートレートが掲載されていた。ローエルは能登の地域おこしに一役買った。いまでも、穴水町にはローエルの名を冠した銘菓が残っている。

アメリカに帰国したローエルはアリゾナの砂漠の真ん中に天文台を建てて「惑星X」の発見に没頭する。太陽系外から太陽系に戻ってくる惑星が存在するはずだ。Xを発見するのがローエルの悲願だった。61歳で亡くなるまで、彼は砂漠で星を見つめ続けた。

私はこの変人の天文学者に興味を持った。なんと、彼が日本で冥王星を発見しようとしていたからだ。ローエルは日本各地を調査し天文台を建てる場所を探していた。その最有力候補地として福島県を選んでいた。

プルートを発見するために福島を選ぶというのも、今になってみれば皮肉な偶然なのだが、彼が選んだ候補地は福島県浄土平。現在、ここには日本一標高が高い天文台がある。ローエルはここに天文台を建てようとしたのだが、当時、火山ガスの発生があり建設を断念したと言われている。

紀行文によればローエルは日本地図を見ている時に突然「ここはknot(結び目)だ」とひらめき、能登半島旅行へ旅立ったらしい。とにかく直感的な人だったんだろう。いったい能登に何を感じたのか。

いきなり話は飛ぶのだが、実は能登半島は、UFO目撃率が高い。

江戸時代の古文書にも山から飛び立つ丸い光の記録が残されており、昔から頻繁にUFOが目撃されている。ローエルの文章にUFOの記載はいっさいないので、ローエルとUFOを直接結びつけることはできないのだが、私にはローエルが冥王星の影響を受けた人物のように思えてならなかった。外宇宙からの未知なる力、冥王星に取り憑かれた男。

未知なる力。飛来するX。
UFOと冥王星には見えない共通項があるように思えたのだ。

それで、2000年代初頭に角川書店の「野生時代」に「マアジナル」という小説の連載を始めた。舞台は能登半島。UFOを目撃した少年たちのその後の人生がテーマだった。取材のため、何度も能登に訪れた。日本最古のウッドサークルがある縄文真脇遺跡は古代から未来が見渡せるような場所だった。古いものになかに未知なるもの、新しいものが隠れている。それを予感させるような、そんな土地だった。

不可解なのだが、ローエルの助手のトンボー博士は、冥王星を発見後にUFOと遭遇したと公的に発表している。彼はUFOが実在することを生涯をかけて主張した。その理由は、遭遇してしまったから……としか言いようがない。まったく、奇妙な話だが事実だ。

私は……と言えば、残念ながらUFOを見たことは一度もない。一度くらい見てみたいのだが……。そのかわり、小説を書くためにUFO目撃者をたくさん取材した。

取材にあたって決めたことがある。「複数の人間で、一緒に、巨大なUFOを目撃した証言者だけに話を聞く」
流れ星みたいなUFOではない。シャンデリアみたいなUFOを見た人だけに話を聞いた。しかも複数で見たという人々に。

驚いたことに、世の中にはそういう人たちが、私が想像していたよりもたくさんいた。そして、ほとんどの人がおびえていた。

取材を続ける中で、感じたことがある。UFOにはやはり宇宙人が乗船しているらしいのだが、彼らがメッセージとして送って来ることが、わりと一環している。つまり、UFOにはテーマがあるらしい(目的とは言いたくない、もっとあいまいだから)。それが、ほぼほぼ「原子力」に関することのようなのだった。

私が直接に宇宙人から聞いたわけではないし、目撃した人たちの話にどれほどの信憑性があるのか、判断ができないのだが……、話を聞いてみて感じることは、どうも宇宙人は人間に原子力を使うのはやめといたほうがいいよ……、と婉曲に伝えているように思える。でも、それはもしかしたら目撃者の潜在的な思いが入ってしまっているのかもしれないから、なんとも言えない。

「宇宙人は、原子力を使うなと言っている。田口さんは作家なのだから、そのことをもっと多くの人に知らせてほしい」

と、取材対象者から迫られたことがある。私は……「それは難しい」と答えた。申し訳ないけれど、UFOを見たこともないし、自分がじかに聞いた話ではないのだから、そんないい加減なことは書けないと思った。いまもその考えは変わらない。

1月1日に、能登半島で大きな地震が起きてたいへんな被害が今も続いている。
かつて、能登半島の先端、珠洲市に原発の建設計画が持ち上がった。珠洲原発は、北陸、中部、関西電力による共同開発のプロジェクトだった。2014年に稼働する計画だった。住民の根強い反対運動によって、2003年、計画は凍結された。

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