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昭和男と実家じまい6

この投稿は、実際の実家じまいについて綴っています。

<以前の投稿>
昭和男と実家じまい1
昭和男と実家じまい2
昭和男と実家じまい3
昭和男と実家じまい4
昭和男と実家じまい5

◉家探し、再び

しかし、すごい本の量だ……
銀行通帳とカード、銀行印を見つける為に、書斎を家探ししている時にもれた言葉。
2階の父の書斎には、山ほどの本がビッシリと積み上げられている。
書棚もあるが、そこに入りきらない本は、書斎にあるデスク2台の上にも積み上げられていた。
和書だけでなく、洋書の数も半端ない。加えてTIMESやNewsweekの英語版が1980年代から現在に至るまで、全て保管されていた。
本は、書斎だけでなく、2階のユーティリティースペースや、もと私の部屋であり今は納戸化している部屋にも積み上げられ、1階のリビングや和室にもその場を広げている。
この本達も片付けなければならないのか、と少しめげそうになったが、今は本よりも銀行だ。
私と夫は、探しに探した。
母の時に、ある程度の物を片付けて、どこに何があるかは大体把握している。
その上で探しているのだが、どうしても見つからない。
見つけて手にするのは、記帳済みの銀行通帳ばかり。
お父さん、どこに移したんだろう。
「ここまで探して見つからないなら、仕方ない」
と旦那様が、探し疲れた顔で言う。
後は、一つ一つ銀行にあたって、残高証明を依頼して確かめるしかなかった。

その事実を弟に伝えた。
その数日後、弟から連絡があり、なんと父のあの手帳の様なメモの様な物を見つけたと、写メを送ってくれた。
弟の長女、私の姪に当たる子が、台所で発見してくれたそうだ。
なぜ、こんな大切な物を台所に置いておくんだと思ったが、父にとっては日常生活の身近な場だったのだろうと思えた。
送られてきた写メを見ると、それは100均で売っている様なメモ帳だった。
父が最後の日に私に伝えようとしていた物だと思った。
そこには、銀行名の数々、預金高、貸金庫の鍵番号が記載されていた。
そうだ、貸金庫!!
もしかしたら、父は貸金庫に銀行通帳とカードを入れたのかもしれない。
それに、税理士さんからは、家の売買契約書を見つけて欲しいと言われていた。
詳しくは分からないが、相続税を計算する際に必要になるそうだ。
売買契約書も見つからない物の一つで、それも貸金庫に入っていると考えた。
確か貸金庫の鍵は、父が亡くなった時に警察が現場検証で家探しして、貴重品と共に弟に返却されたはず。
急いで弟から鍵を送ってもらい、それらを手に貸金庫を借りている実家近くの銀行へ行く。
しかし、そのどれもが貸金庫の鍵に当てはまらなかった。
私と夫は唖然とした。
貸金庫の鍵すらも見つからない。
一体、この銀行通帳と鍵で何回実家と家を往復しただろう。
しかし、貸金庫の鍵は絶対見つけなければならない。
何度となく家探しをしたが、やっぱり見つからない。
何度探しても見つからない鍵に、心が折れて「鍵を紛失したことにして、貸金庫は開けられませんか?」と行員の女性に質問してみたこともある。
「その手続きもできますが、銀行の鍵とお客様の鍵があって開ける物ですので、鍵だけでなく鍵穴の方も全て取り替えるために、費用もかかります」
と申し訳なさそうに言い、加えて
「それに、貸金庫と銀行の口座解約はセットですので、貸金庫の解約ができなければ、口座解約ができず、お金を引き出すこともできません。まだ、お通帳の方も見つかっていらっしゃらないんですよね。」
と更に申し訳なさそうに言われた。

「最後にもう一度と原点に返ってみよう」と夫が言った。
原点とは、父が生きていた時に銀行通帳とカードを見つけた場所、そう2階の主寝室にある母のカバン達だ。
実家に行き、山の様なカバンを押し入れから全て出し、一つ一つ調べていった。
「あった!やっとあった!!」
そう歓喜の声をあげたのは旦那様だ。
貸金庫の鍵は、以前、銀行通帳とカードが入っていたセリーヌのセカンドバッグに入っていた。それも内ポケットのジッパーを開けてようやく見つけられる場所にあった。
私たちは一気に肩の力が抜けた。

◉貸金庫の中には……

そして、冒頭の文面に戻る。
やっと鍵を見つけて開けた貸金庫。
ドキドキしながら貸金庫を開けると、探していた物の内の一つ、実家の売買契約書が目に入った。
一つは見つけられたという、ほっとした気持ちで、売買契約書を手に取る。
しかし、探していた銀行通帳とカードは入っていなかった。
ここにもなかったかと落胆したが、ふとその下に一枚の紙が目に留まった。
何だろうと手に取ると、それは思いもかけない物だった。
「こんな物、入れてたんだ……」

それは、少し黄ばんだ
婚姻届。

そこには父の名前、母の名前が書いてある。
ちゃんと証人欄にも名前が記載されていた。
婚姻届は、役所に提出したら手元には残らないはずだ。
だから、これは役所に提出する物とは別に、二人で書いた物だと分かった。

40年以上前の婚姻届は、貸金庫に、ここに保管されていた。

その一枚の存在が、二人の仲の良さを証明している様で、なんだか照れくさて、そして、ストンと心に落ちる様に思った。
そうか、お父さんは、早くにお母さんに会いに行きたかったんだ。
そう思えたら、なんだか、悲しさが少し減った。
手放せなかった悲しみが、一つだけ放たれた気がした。

父と母、どっちが、婚姻届を貸金庫に入れたのかは、分からない。

どっちが入れたの?

そう聞きたい。たずねたい。
まだまだ、一杯聞きたいことがある。
言葉にしなかった言葉達が、まだ自分の中にある。

実家じまいは、思わず発せられる言葉の連続だ。
でも、言葉を発してもそれに返事はない。

自分で想像するだけ。
物を通して、耳を傾けるだけ。

実家じまいは、まだ、はじまったばかりだ。

私は家族と共に、
父と母を思い出しながら、
また片付けをはじめる。

おわり

※長文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

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