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『世界は贈与で出来ている』近内悠太−withコロナ時代の世界との出会い直しについて/私たちはコートの中の1万円札に気づいたか?

GWは、緊急事態宣言に伴う自粛要請もあり、街は閑散としている。
そもそも、行く場所がない。行く場所がなければ人が外に出ることもない。

「普通ならたくさん人が居るはずなのに・・・。」という感覚は、ある種のSF的な感覚にも近い。

日常に少し歪みを生じさせて、その日常を非日常にする。

改めて、非日常から過去の日常を眺めることで、私たちはこの世界あるいは社会的な関係から大いなる贈与を受け取っていたことに気がついた。

『世界は贈与で出来ている』の著者である近内さんによれば、このように改めて世界と出会い直すような想像力を「逸脱的思考」と呼んでいる。

「世界と出会い直すことで、僕らには実は多くのものが与えられていたことに気づくのです」
−『世界は贈与で出来ている』近内悠太 185p

逸脱的思考とは、著者の言葉を引用すれば「何気ない日常の中であふれている無数の贈与(ありがたみ)」つまり「僕らが気づかぬうちに受け取っていた贈与」に気が付くための想像力に他ならない。

withコロナ時代に於いては、昨日と同じ日常が明日も繰り返されることは必然ではないということを改めて私たちに教えてくれた。
つまり、日常というのはある種の整った状態だ。しかし、「それは固定された状態ではなく、一時的なものだということ」

日蓮宗僧侶の横山 瑞法さんのこの言葉をふと思い出した。以下にその言葉を引用する。

"整う"というのは、固定された状態ではなく、一時的なもの。
仏教でいうところの諸行無常ですね。乱れた状態もそのまま受け止め、戻す作業も含めてフローな状態でいることが、心が整っているということなのだと思います。
−部屋が整うこと、心が整うこと(&Premium No.75/3月号)

横山さんのこの言葉は、生活のなかの習慣に触れたものであるが、この今だからこそ示唆に富んだ言葉に感じる。

この混乱に不平不満を唱えあるいは恐れや怒りを抱いて周囲に発散するだけなのか。それとも、この状況を受け入れてまた日常へ戻ろうと行動を起こすのか。つまりインサイド・アウトの姿勢を持てるかどうか。

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それは恐らく想像力や感性を要する。逸脱的思考は、その中の1つの力だと思う。

ところで、夜の社交場は3密になることが多く、クラスターを発生させ易いとの発表があって久しい。
それに伴う休業要請を受けて自身の経営するホストクラブの営業停止を発表したROLANDさんは、他店が営業を続ける中で至った決断の背景をYouTubeの動画の中で語っている。

その動画の中でROLANDさんは「コロナが無くなって普段出来ていたことがもう1回出来るようになったら今までの当たり前が感謝できる」と述べている。
元々持っていたものに、改めて出会い直すことで感謝出来る。そんな気持ちを「コートの中に入った1万円札」に喩えて語る。

普段どれだけね 花火大会で 夏そろそろ始まりますけど 花火をみんな集まって何も考えずに見ることができるのがどれだけ幸せか
去年だったらそんなこと思わないじゃないですか 
コートの中に入った1万円札 わかります? 暖かくなってきたから(コートを)クリーニング出すじゃないですか 冬になって戻ってきて 
ポケットの中1万円札が入っていたとしたら 元々持っていたものなのに 
得した気持ちになる
コロナも今の自粛の雰囲気の中で これがなくなって 普段できていたことがもう1回できるようになったら 今までの当たり前が感謝できる
−【正直な話】コロナ自粛で営業停止…都庁に緊急招集 l Stay Home #3  YouTubeより
−( )は引用者による

私たちは、コートの中に入った1万円札に気が付ける想像力を持っているだろうか。
またそれが1枚だけとは限らない。自分の想像力次第で、より多く気が付けるのかもしれない。報道を見る限りでは、その感性の格差は人によって大きい様に感じる。

最後に近内さんの言葉を引用する。

「そんな言語ゲームの他者だからこそ、僕らの言語ゲームの中で透明になってしまっているものを可視化させることができるのです。それはつまり、僕らが子供のころ、この世界を初めて見た時に感じたであろうセンス・オブ・ワンダーを再演してくれているのです。」
−『世界は贈与で出来ている』近内悠太 184p

私たちは今「あって当たり前」だった時代からもしかしすると「無くて当たり前」の時代に突入しようとしているのかもしれない。

他方で改めて得るものも、もちろんあることだろうと思う。
だからこそ、この世界と再び出会い直すことで、僕らには実は多くのものが与えられていたことに気が付く求心力ようなものと、日常を取り戻すさらに言えば、過去の日常より良い状態へ向かおうとする遠心力。その2つが必要なのではないかと、本書を通じて考えた次第だ。

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