第二十回 ファストコンテンツからコンテンツファーストへ(1)

異なる産業を比較して眺めるのはなかなか楽しい。

流通しているものは違っても、人と商品が関わり合う構造そのものは同一だ。何かを作り、売り場をセッティングし、それを誰かが買う。人が動き、物が動き、お金が動く。そうした骨子は同じなわけだ。

だから二つの産業を注意深く観察すれば、何かしらの知見が得られる可能性がある。

ファストフード業界が苦戦している。売上げの低迷もあるが、マクドナルドやゼンショー(すき家)のようにトラブルが発生してしまったところもある。

バーガーショップや牛丼屋は、デフレ下では大いに活躍していた。ブイブイ言わせていたといってもよい。しかし、もはやその姿は見る影もない。

デフレ下に強いと言われていたコンビニ業界も、全体の店舗数が5万店を超え、いよいよ成長限界が指摘され始めている。もちろん、それぞれの本部は改革し、新しい施策の投入によってさらなる成長を目指すだろう。しかし、そこで生まれるものは、これまでのコンビニと同じものではない。逆に言えば、それくらい大きな変化がないと、生き残れない状態になっているのだ。

マクドナルドは、少し前から施策がおかしくなっていた。60秒で提供できなければ無料にする、というのは明らかに自社が提供している価値を見誤っていたし、カウンターからメニューを撤去する施策は、どうみても顧客の視点には立っていない。新商品のバーガーも、客単価アップの施策も、プロモーションのやり方もずれていた。その上、あの「食の安全」問題である。

致命的な売上げの低下は、随分前から予期されていたし、「食の安全」問題はくすぶっていた導火線に新しく火をつけたにすぎないと言えるだろう。

すき家は、2014年の2月頃から人手不足が無視できないレベルにまでなり、4月頃までいくつかの店舗(約250店舗)が営業できない状態にまでなった。

もともと「ワンオペ」の問題が指摘されていたが、2013年の年末に吉野屋が発売した「牛すき鍋膳」の大ヒットを受け、類似商品を展開したところ、オペレーションがまったく追いつかず、現場の混乱を引き起こしたことが一つのトリガーだった。


ここには面白い対比がある。

客単価アップに向けてうまく変化できたところと、そうでないところだ。そうでないところは、単に変化に適応できなかっただけでなく、抱えていた問題がはっきりと露呈してしまっている。

安い商品を、手早く提供する。

ビジネスモデルとしては良くある形だろう。それが時代の状況にぴたりとはまると大きな活躍が見込める。しかし、そうした状況に過剰に最適化すると、いささか危ういものも見えてくる。

第一に環境が変化してしまったとき、その形は最適なものではなくなり、ビジネスモデルとして不具合が出てくる。売上げが上がらない。すると、それまで回っていたものがうまく回らなくなってくる。泣くのは誰か? もちろん現場だ。決して経営者ではない。

第二に、あまりにも状況に最適化しているために、変化することができない点がある。すき家はそれがはっきりした形で現れているが、マクドナルドも凝った商品を出すためには、キッチンで商品を作る、というプロセスに大幅に手を加える必要がある。そして、マニュアル式のやり方ではそれはうまく回らない。つまり、全然違うものに変えなければいけない。これはコストと抵抗が大きいし、当然失敗する可能性もある。

ちなみに、最近マクドナルドは明らかな客単価アップのメニューとして「コーンクリームスープ」を提供し始めた。290円とマクドナルドの単品メニューとしては比較的高価である。なにせSサイズのホットコーヒーが3杯ぐらい飲めてしまうのだ。

味は、ごく普通のコーンスープで、私はコーンスープが大好物なので(胃がコーヒーを受け付けないときよく飲む)、メニュー開始当時はよく頼んでいたのだが、最近はあまり頼まなくなった。ちなみに、モスバーガーではしょっちゅう頼んでいるので、コーンスープに飽きたわけではない。

で、なぜ頼まないようになったかというと、容器が非常に残念なのだ。いかにも安っぽいプラスチックの容器に入って出てくる。まるで軍事偵察で森の中に入って食事しているような気分になる(もちろん、そんな偵察はしたことがない)。私がよく行くモスバーガーでは、ビニールのパウチらしきものからちゃんとカップに移し替え、銀色のスプーンと共に提供してくれる。それで値段は、同じく290円である。

胃にコーンスープを放り込めば何でもいい、というのならともかく、コーンスープを味わいたいというならば、断然後者を選択するだろう。そういう細かいところが、いちいち効いてくるのが食事というものである。

しかし、じゃあマクドナルドで同じように提供できるかというと、たぶんそれは無理なのだろう。そして、そこに一つの限界が、構造的限界があるわけだ。

まずはファストフード業界の状況をざっくりとではあるが眺めてみた。

もちろん、この連載は『「メディア的」に生きる』であり、対比したいのはメディア(コンテンツ・メディア)である。

というわけで、続きはまた次回。

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