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大切に握りしめているものは、実は……〈shortstory〉

心地よい夢を見た。

それは夢と呼んでいいかわからないくらいリアルで
人の肌を触ると温かみがあるように、そのひとの声にはぬくもりがあった。

僕はどこかの草原に寝そべり、目を閉じていた。

風が吹き、爽やかさを味わっているとひとの気配がした。

僕は目を開けないでいると「やあ少年」としゃがれた声がした。

歳の頃は二十代から三十代くらいだろう。

軽々しさを感じると同時にこういうひとになりたいとも思った。

ひとの目や反応を気にせず、あるがままでいられる。そんな姿が想像できたからだ。

「悩んでる頃か」

返事をしなかったのは図星だからた。悩んでいる僕は返事にも悩む。頭の中ですぐ迷子になる。

「俺もその頃は悩んでいたものさ。思春期の悪魔。青春だね」

確かに僕はまだ中学生で思春期と言われる時期だ。だけど、そういう言葉で片付けないでほしい。
だって今だけみたいにいうけど、絶賛迷子中の僕にはそれが永遠に続くような気がしているのだから。

「俺は片付け名人のジョニー。いらないものを捨てる手伝いにきた」

自分で名人と言ってる時点で自称感しか感じない。

「いらないもの」

「お前の悩みだよ。可愛いのかそれ。うまいのかそれ」

「全然」

「じゃあ捨てろよ。いらないだろ」

「でも捨てかたがわからないんだ」

それで困っている。
最近、自分の在り方がわからなくて悩んでいた。
友達や親、先輩や先生。
うまく立ち回れなくて、あんなこと言ってしまって恥ずかしいとか、どうしてこういうことをしてしまったんだろうとか。
後悔する。
そうすると、こうありたいとかこうなりたいがでてくる。
だけどそれも叶えられなくて苦しくなる。

解決できない悩みならいっそのこといらないのに、ぐるぐる同じところを廻っている。

「俺がお前に今、自分の穿いてるパンツを渡す。そしたらお前はどうする?」

「まずは、受け取らないよ」

「間違って受け取るんだよ。パンツにお前の名前が書いてあったとかで」

「じゃあ……受け取ったら、ぶん投げるよ」

「ふはは。そうだよな。でも今のお前はそのパンツを自分のだと思い込んでるから捨てられないんだよ。持ってて不快だって感じられてるのに。名前が書いてあるからだ」

僕は黙った。

「でもよく見てみるとお前の名前の下にジョニーという名前が書いてあるんだよ。

それでやっと、ああ、これジョニーのパンツだったんだ。なんで名前が書いてあるか知らないけど、自分のじゃないから捨てようって思うんだよ。

でも、それじゃあ時間がかかるだろ。

他人のパンツを握りしめたまま、心地よく自分の人生は生きられないよ。どう見ても変な奴だし。

だから言うけど、不快なものは全部お前のものじゃない。

味わったら手離していいんだよ。それを自分だと思っている自分は粉砕されて光に溶けるだけ。

こうありたい、こうなりたいだって同じさ。全部光にして解き放て。

シンプルだろ?」

ニヤリと笑った気がした。

「なんでパンツで例えたかというと、それくらい嫌なものだって自覚できていないからだよ。じゃあまたな」

そういうと気配はなくなった。

ああ夢かと気づく頃には、胸の真ん中がポカポカと温かくなっていた。

目を覚ましたら、忘れていい。

だけど次の瞬間、新しい僕が始まる。

それを繰り返して、本当の僕になるんだ。

そんな気がした。

「ありがとう」

天使かな。精霊かな。はたまた女神か神か。

わざわざ今の僕に伝わりやすいように、姿を変えてメッセージをくれたんだね。

そう気づくと

今までの日常生活の中にも

嫌だと思うこと

不快だと思うこと

そういうことを与えてわざと僕に、本当の自分を思い起こさせるきっかけを与えてくれていたのかもしれないな。

何にも気づけない。
わからない。

それでいい。

僕の心が僕になれば、わかっているのだから。

「おはよう、世界」

目を開けるとまばゆい朝が、僕を迎えてくれた。

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