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A couple of my PERFECT DAYS

ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演のPERFECT DAYSを見て、これは私の日々の生活の平山(役所広司が演じる初老の清掃員)バージョンだ、と思った。こんなことを言うと、この映画を見た人たちの顰蹙を買いそうだけど。

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朝、目覚まし時計が鳴ってベッドから起き出す。寝室とリビング兼仕事部屋のカーテンを開け、寒いけれどベランダのサッシを開け放つ(こうすると邪気が室内にこもらないのだそうで)。天気がいい日は「今日は富士山が見えるかな」と西の空を見やってその姿を確認。富士山の勇姿がくっきり見える日もあれば、天気が良くても霞んでよく見えない日もあり、富士山の頭に雲がかかっている日もある。

カーテンを開けた窓際にポトスの鉢植えを置き、名前のわからない大きめの観葉植物に水をやる。顔を洗い、歯を磨き終わると、寒いのでさっき開け放ったサッシを全部閉め、コーヒーを淹れるお湯を沸かしている間にコップ1杯の水を飲む。朝のフレッシュな日差しはとても気持ちがよくて、この時間にゆっくりコーヒーを淹れて飲むのは私の至福のひととき(のひとつ)。コーヒーを淹れながらよく「しあわせだ〜」と独りごちている。

晴れていると気持ちがいいが、実は曇りの日が一番好きだ。さらに、「雨など降るもをかし」とも思うし、「雪の朝はさらなり」でもある。雨の日は外に出たくないだけで、部屋の中で雨音を聞きながら過ごすのは贅沢な気持ちになれる。多分、私はこのアパートとの相性がいいのだろう。どんな天気でも、毎朝そのお天気なりの気分よさを味わえる。

着替えをして、メールのチェックなどをしているうちに仕事の時間になり、お昼まで働く。昼食後はスポーツジムへ。ヨガやピラティス、筋トレのクラスに出たり、ウエイトトレーニングやストレッチをしたり、大きいお風呂でリラックスしたり。それからジムの向かいにあるスーパーや八百屋さんで買い物をしてアパートに戻る。

今日はカリフラワーがおいしそうだったので、つい買ってきた。でも、カリフラワーはおひたしにするか茹でてマヨネーズつけて食べる以外の食べ方を知らない。そこで、ネットで手抜きレシピを探した。あった、あった、「カリフラワーのおかか梅和え」。チョー簡単でおいしそう、しかもビールやお酒にも合いそう(ここ、ポイント!)。新しいレシピを試してみるのも、また、楽しからずや♪

夕食は、塩サバを焼いて、作り置きしてあるカボチャのハニーバターチーズとレンコンのきんぴら(どちらもネットで仕入れたお手軽レシピ)をレンジでチン。それに新メニューのカリフラワーのおかか梅和えで準備完了。栄養のバランスも彩りもよく、なかなか豪華な食卓になりまちた。今日の食事に合うのはビールか、ワインか、日本酒か、と思案するのも楽しい。

食事の準備が整ったら、YouTubeを見ながら食事。最近ハマっているのは「お怪談めぐり」と「オカルトエンタメ大学」。そんなのばっかり見ていたら、玄関や浴室、トイレあたりに何かいそうな気配がしてきたので、Amazonで盛り塩セット(固め器➕八角皿二枚入り)を買って玄関に盛り塩してお清めをする。

食事がすんだら食器を洗い、ゴミを出しに行き、9時からはもうひと仕事。たまに仕事がキャンセルになることもある。フリーランスなのでキャンセルは収入減にダイレクトにつながるが、これが実はけっこううれしかったりする。収入は減るが、まるでご褒美のように自由な時間が降ってくるからプラマイゼロという感じだ。こういうときはいつも、神様から「今日は仕事よりもやりたいことがあるんだろう?それに時間を使っていいよ」と言われているような気がする。そこで、何か書いたり、ちょっと調べ物をしたり、YouTubeやAmazonプライムで映画を見たりして過ごす。眠くなったら、加湿器をつけてベッドに入る。

こうして私の平日のルーティーンが終わる。

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今日は早朝にひと仕事終えると、用があって久々に銀座へ赴いた。地下鉄を乗り換えるためにエスカレーターに乗ろうとすると、観光客らしい白人の若い女性が日本語で「どうぞ」と言ってくれたので、「ありがとう」と会釈をして先にエスカレーターに乗った。日本語で「どうぞ」と言ってもらったことがなんだか楽しかった。

用がすむと、木村屋のエビカツサンドを食べに行った。以前、noteでラララさんが紹介していておいしそうだと思って以来、「一度食してみねば」と思って、私の頭の中の To do リストにずっとあった。木村屋の2階のカフェの入り口には6人くらい待っている人がいたが、10分ほどで銀座通りが見える窓際の席に案内された。

木村屋のカフェは初めて。天井が低く、テーブルのレイアウトやカウンター、レジ、ライトの感じが昭和レトロなのが素敵。自分のアパートの天井が低いのは嫌だけど、銀座にこういうお店がまだ残っているのがうれしい。お客さんも銀座でお買い物してきたおじさま、おばさまといった人々で、私がいつもうろうろしている新宿とは客層が全く違う。かくして私はつかの間昭和に浸る。

メニューを見るまでもなく、お目当てのエビカツサンドを注文。ほどなくエビカツサンドとコーヒーが運ばれてきた。あつあつの揚げたてエビカツにはエビが贅沢にごろっと入っていておいしい!でも、揚げ物なので半分食べたらけっこうお腹がいっぱいになってしまった。ニューヨークだったら残りは包んでもらって持ち帰るところだけど、銀座の老舗のカフェでそれをやったら野暮かなと思って、ぜ〜んぶ平げた。コーヒーもおいしかったし満足、満足。しめて1750円也。

エビカツサンドと楽しく格闘しているところへ、私と同年代くらいの夫婦が案内されて隣のテーブルに座った。注文しているのが聞こえてきた。どうやら中国人らしい。日本に戻ってきてからはレストランや電車の中でやたらに人に話しかけないようにしているのだが、なぜかなんとなく声をかけてみたくなった。私の横に座った男性に、日本語はわからないだろうなと思いつつも「どちらからいらしたんですか」と尋ねると、「マカオからです」。あら、日本語がわかるんだ。

どうして木村屋に来たのか不思議だったので、「どうしてここ(木村屋)にいらしたんですか」と聞くと、「36年前にハネムーンで来たんです」と答えてくれた。若いときに来た思い出の木村屋に、また夫婦一緒に来るなんて素敵だ。きっといい思い出があるのだろう。それを聞いてなんだかうれしくなって、「楽しんでいってください」と言って私は席を立った。

で、木村屋を出てから激しく後悔した。もっと話せばよかった。

どうして日本語を勉強したんですか。
今回はどこに行きましたか。
36年前の日本と今の日本はどんなふうに変わっていましたか。
36年前、木村屋で何を食べたんですか。

たまたま木村屋のカフェで隣り合ったのも他生の縁。なのに、一期一会の機会をどうしてもっと大切にしなかったのだろう。見知らぬ人に、しかもご夫婦で食事中にあれこれ話しかけては迷惑だろうと、つい遠慮してしまった。日本人の美徳ではあるが、この”遠慮”のせいで私は日本でもニューヨークにいたときでさえも後悔することが多かった。遠慮しないで聞けばよかった、もっと積極的に話せばよかった…と。

もう少しこのマカオの夫婦の話を聞いてみたかった。
先に立つ後悔というものがあればいいのに。

気を取り直して、1階で桜あんぱん1個と食パンを1斤買って木村屋を後にした。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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