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小説:おーい、りゅうちゃん!

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北海道の田舎村で過ごした少年時代を自叙伝みたいな感じで綴ってます。
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記事一覧

11歳:先生は作文の鬼

りゅうちゃんは作文が嫌いだった。 いや、いま作文「が」と書いたけれど、語弊があった。 算数も嫌いだったし、理科のことも全然わからなかったし、リコーダーも吹けなかったし、鉄棒もできなかった。 だから訂正してやり直し。 りゅうちゃんは作文も嫌いだった。 それなのに4年生の時、 加藤先生が担任になってしまったのだ。 この先生は読書感想文に日記に遠足や運動会の記録まで、学年関係なしに、なにかにつけて作文を書かせる方針の先生で、まるで“作文の鬼”だった。 だから、全校児童のあいだ

9歳:カツラーメンの頃

りゅうちゃんは食い意地が張っていた。 それを証明するようにしっかりと肥満児で、小学6年頃には90kgもあって、早くも人生での最高値をつけているほどだ。 りゅうちゃんはいま37歳になったらしいが、76kgくらいなので、子供の頃の方が確実にデブっていた。 クラスには必ずデブ枠というものがあるが、小学校の6年間、りゅうちゃんはその枠をしっかり死守していたのだった。 その頃、りゅうちゃんの大好物に「カツラーメン」という、とんでもないシロモノがあった。 電車もない小さな田舎では、

6歳:ムックとの思い出

りゅうちゃんの家に飼い犬がきた。 ペットを飼ったのは、後にも先にもこの一度だけだ。 小学生にあがってばかりの頃のある日、学校から帰ってくると綿毛の塊のようなものが居間にいた。 それはぬいぐるみのように可愛いらしい、真っ白な子犬だった。 その脇でりゅうちゃんのお兄さんと本家のおばちゃんが結託して、お母さんを相手に「コイツをウチで飼おう」というプレゼンをしていた。 動物ぎらいなお母さんは首を縦に振らずに何度も拒否していたが、りゅうちゃんもそのプレゼンに加勢したものだから、根負

9歳:O(オー)さんの森 その2

絶対に立ち入ってはならない禁断の森。 そこを取り仕切るのがOさんだ。 「O(オー)さんはとにかくコワイ」 りゅうちゃんだけでなく、田舎の子どもたちは皆そう認識していた。 ところがそのOさんが何者なのかは、誰一人として知らなかった。 なにせ名を口にしただけで殴られるくらいなのだから、姿を見た者がいようはずもなかった。 そもそもOさんと呼んでいるが、それがアルファベットのOなのか、漢字の王なのか、はたまた別の漢字なのかあるは記号なのか、それさえも謎だった。 そして不良学生

9歳:O(オー)さんの森 その1

いまじゃ考えられないけれど、子どもの頃は虫を触ることができた。 りゅうちゃんはその頃、クワガタ集めなんかに熱を燃やして、日々、採集に勤しんでいた。 しかし田舎の子供社会というのは意外にもタテ関係が厳しく、その学年によってクワガタ採集をできる縄張りが定められていた。 高学年に上がるほど、たくさんクワガタの採れるスポットに立ち入れる権利を得ることができるが、小学3年生おりゅうちゃんが分け入れる森ではクワガタを採取するのは至難の業だった。 そうなるとモグリで縄張り以外のスポッ