アパート前のバス停で毎朝一緒に並ぶ若い男。廊下で会っても会釈も挨拶も無し。服装はきちんとスーツなのに、目を合わさず通り過ぎるだけ。まあオバサンと絡みたくないのかもしれんけど。毎朝、バスを待つ時間はほんの少し憂鬱。

　ある日。降りる時に男はICカードを落とした。急いでいるのか彼は気づかず、ドンドン歩いてく。私は咄嗟に拾い上げて走った。駅の改札前で追いつき

「さっき落としましたよっ！」
と、カードを突き出した。男はビックリしてこっちを見、カードを受け取った。男の顔がみるみる真っ赤になり、今度は私がビックリする。

「ありがとうございます。……あの、オレ赤面症で。すみません」
　首筋から耳まで真っ赤。ああそうか。これまでの彼の態度の理由が分かった気がした。　
「大丈夫ですよ。いってらっしゃい」
　私は笑って手を振り、男はペコリと頭を下げて改札を抜けた。

　次の日。バス停に男の姿を見て私は少しホッとした。彼が私を避けるんじゃないかと心配してたから。彼はペコリと頭を下げて「昨日はありがとうございました」と言った。私は微笑んだ。

　そしてこれまで通り、並んでバスを待ったけど、もう憂鬱じゃあない。

(完)

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二作目です😊
あるよねこーゆーの。的な感覚を感じて貰えたらとても嬉しいです。