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辛い麺メント:アザーサイド『辛紅』 #AKBDC

紅い、唐辛子の紅さだ。辛紅<からくれない>の第一印象はそういうものだった。

「ここかぁー、アイツが言ってた店はyo……」

底冷えのする無機質な新宿駅地下街、疫病禍の影響が後引くまばらな人影の奥にその店はあった。紅いライトアップはいかにも店が辛いものしか出さない誇りを内装で語っており、いかにもな辛ぱわあを放っている。 

そんな辛い麺屋の前に立っているのは、つばのない中国風の丸帽に、中国清代期の服装である馬掛けをまとった屈強なる男『頼れるホイズゥ』であった。

「ファッキンクローナ野郎のおかげでしばらく日本に来れなかったからな……今回はとことんジャパンの辛い麺をハシゴしてやるぜ!」

そう、みなみの国在住であるところのホイズゥは、ご多分に漏れず疫病禍の影響を受けて日本に来れず、ひるがえっては日本でのみ行われるイベントにも参加できず、ただただ悶々として日々を過ごしていたのだ。

「と、いうわけで第一のターゲットは……ここ!『辛紅』に決定!」

意気揚々、そんなホイズゥを黒くて背の高い箱が阻む。券売機だ。
資本主義が産んだ合理的顧客選別マシーンを前に、ホイズゥはためらわず虎の子のユキチをいけにえに捧げた。

「ほうほうほーぅ、辛さは無辛も合わせて九段階とな……?まあ初めてくるとこだからよー。無難に行くか無難に」

ホイズゥの目が目まぐるしく辛い麺の辛さ調整説明を解読する。
だが、世間の飲食店に辛さの絶対指標などなく、個々の店舗がふんわりとしたフィーリングで辛さの段階をキメているのが現実。つまり、いきなり限界を攻めると手に負えない怪物が出てくる可能性も十分にある。

歴戦の辛い麺戦士であるホイズゥは、無謀の愚を十分過ぎるほどわきまえていた。限界を攻めろとささやく辛い麺概念が人型をなしたイマジナリーフレンドのささやきを決断的に無視し、自分が選ぶべき辛さを決定した。

「よし……オレは六丁目『炎立つ天狗👺の鼻突き岩』にするぜ!天狗がコレにしろって言ってるからな!」

言ってねぇよ、の天狗クレームは鮮やかにスルーされ、ホイズゥは食券を手に店内へ滑り込んだ。はつらつとした笑顔の店員が彼を出迎える

「ラッシャーセーッ!!!」
「アッハイ、これお願い」
六丁目『炎立つ天狗👺の鼻突き岩』ハリマシッター!!

食券のやたら大仰な辛さ段階を笑顔で復唱すると、店員はオープンキッチンにて手際よく調理を開始する。

「ジャッポーンの店員って愛想いいよなー」

もちろん愛想が良いのは会社企業が経営している店舗の話であり、個人経営のおみせはみなみの国と日本でそこまで差があるわけでもないのはここだけのお話である。

そうこうしている内に、それは、来た。

「あ、紅い……!」

ラーメンの丼を専有するのは、辣油の赤。きざみ白髪ネギ、チャーシュー、タマゴ、メンマといった定番の面々を辣油が真っ赤に染めたスープが専有し、どんぶりのへりには真っ赤な唐辛子のピューレがぴたりと添えつけられていた。そして具材には真紅の一味唐辛子が振りかけられ、一瞬のスキもない真っ赤な悪魔がホイズゥの前に姿をあらわしたのだ。

「おれはやるぜ、オレはやるぜーっ!」

普通のラーメンであれば普通に麺をすするのが常道だが、辛い麺はそうではない。丼の辛い要素が満遍なく麺に行き渡るようよーっくかき混ぜてから、攻める!ホイズゥはこの定石を外したことはなかった。

唐辛子ピューレをスープに溶かし、しっかりと混ぜ込んで麺にからませてからの……いざ、勝負!

「……ッカッラー!」

ホイズゥの感覚を、まず刺激あふれる辛味が蹂躙!わずかに遅れてゆずの爽やかな酸味が駆け抜け、最後にスープの基礎となるしっかりとした鳥の旨味が口内を満たした。だが何よりもホイズゥを驚かせたのは……ッ!

「こ、コイツ……麺自体が、辛い!」

すすった麺を噛み潰した時、練り込まれた山椒がホイズゥの味覚に牙を剥く……!スープの旨味、麺の辛味がダブル・スパイラル・ブレイカーとなってホイズゥを襲った!

「ンググググ、麺自体が辛い事に寄ってスープの辛さと衝突事故を起こしてあじわいがより複雑に、豊かになってる、やるな『辛紅』……!ズズズーッ!」

プルップルの食感の味しみチャーシューを喰らい、スープを飲み干し、あっという間にドンブリは空になった。明日の朝、また辛マが因果応報となって腸とかに襲いかかってきそうなのを忘れる勢いで、飲んだ。

「ご馳走さん、美味かったぜ」
「アリガトヤッシター!」

店員の威勢のいい見送りに、救われたような気分になってホイズゥは店を出た。辛い麺とは救済であり、救いなのだ。今日も良い辛い麺行為をすることができた。

「よっし次は……カンダ?おいおい遠いな、まー着くまで腹ごなしの散歩って事にすっか」

残された時は短い。来訪者は限られた時間の中、確実に辛い麺アタックを遂行すべく青空の元にいでては次なるターゲットへ向かうのだった。

【辛い麺メント:アザーサイド『辛紅』:終わり】

登場したお店は以下のお店デス

本作品は以下の企画の参加作品です。

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