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荒神斬り:残悔編 一話

朧月夜が照らす寺町通り。その地にばっと鮮血が舞い散る。
犠牲者は抜き身の刀を持った三人組の侍の一人で、その胴を横薙ぎに斬り飛ばされ、無残に大地に転がった。

「こんの弱虫共がっ!この程度の腕で何するものか!」

速すぎる斬撃は斬った刀に血糊すら着いていない。
斬り捨てた側の男は闇夜にその眼を爛々と光らせ残党を威嚇、明確な死をもたらす脅威に暗殺者達は怖じ気づき、背を向けて脱兎、闇に逃げていく。
残心を解き、刀を収める男。そして守られた侍が男に声をかける。

「岡田君、君に助けられたな」
「どうも、勝先生」

背を向けたまま鼻を鳴らし、雑に答える岡田と呼ばれた男。
こちらを見ようとしない岡田に続けて話す勝。

「だが……君は人を殺すことをたしなんではいけない。こうも迷いなく人を斬るのは慎んだ方が良い」

その言葉を聞いた途端振り向いて勝に詰め寄る岡田。

「それでもね先生、今私が居なかったら先生の首の方が飛んでいましたよ」

岡田の反論に言葉を詰まらせる勝。実際勝一人ではこの場をしのぐことは難しかったことは勝自身が理解していた。
勝を言い負かすと元の様に勝に背を向ける岡田。
ぽつりと、誰にも聞こえないようにつぶやく。

「それに……そんなことはわかっちゅうだ……」

岡田の言葉は誰にも届くことなく、闇に溶けた。

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「おい、われが『かみきり丸』か?」

 そば屋の中、声をかけられた男、かみきり丸は自身に声をかけた武士風の男をチラ見し、改めてそばに視線を落とした。
共連れである化け狐の楓は旅の消耗品を買いそろえると言って買い物の際中である。

「無視するんやない!」

 かみきり丸の態度に声をかけた側の男はからの鉄瓶めいて激昂する、恐るべき沸点の低さだ。男はつかつかとかみきり丸に歩み寄って顔を覗き込む。

「その何を斬るかも怪しい大太刀、そがなもんを下げて人違い言い張るのか?」
「確かに、お前の言う通り俺はかみきり丸と呼ばれてはいる」

 食事に水をさされて憮然と答えるかみきり丸に我が意を得たりと笑う男。

 刹那である!

「今の一太刀を防ぎおったか、不相応な大太刀下げちゅー詐欺師か思うたが……腕は立つようじゃな」

 男は腰の刀を抜刀ざまにかみきり丸に居合を仕掛けたのであった!違わず頸を狙う斬撃に腰の大太刀でもって辛くも防ぐ!刃の金切り音に腰を抜かして奥に逃げるおかみ!

「何が目的だ」

防ぎ際に鞘から抜いた太刀を抜ききり青眼に構えるかみきり丸!そば屋の中では振るうにあまりある大太刀だがその佇まいに隙はない!

「われが本物かどうかに興味がある」
「何をもって本物と判断するのだ」
「もちろん剣の腕よ!」

狭いそば屋の食堂ではかみきり丸の大太刀は振るうに余りある。
では屋外に出るのは?駄目だ!土佐弁の男は食堂のど真ん中に居座り刀を霞の構え、その中段に備える!

(こいつ……人を斬った事があるようだな)

さよう、かみきり丸に斬りかかってきたこの男の一挙手一投足は全て自分に有利になるよう選び抜かれたものだ!ただ道場で鍛錬を積んだだけの代物ではない!

「ちぇすとおおおおおお!!!」
「ぬうー!」

男の裂ぱくの気合からの刺突!かみきり丸は剣先で切っ先をそらして避け、続く返しの太刀を刀身で受ける!隙なく引き戻される刀!猛禽の空襲めいて油断なき剣撃である!

「どいたかみきり丸とやら!受けちゅーだけか!?」
「俺の剣は人間を斬るものではない!」
「ええよるのう!」

一合!三合!五合!十合!刀が交わり火花が散る!狭い間合いでの刺突と防御の攻防!

「しのぐだけか!われの逃げ場はもうないぞ!」
「……!」

斬撃を防ぐうちにかみきり丸のすぐ後ろは壁へと追い詰められる!

「ねばりよったがここまでじゃのう」

とどめを刺さんと油断なく刀を構える男!しかしてそこに闖入者あり!

【荒神斬り:残悔編 一話終わり 二話に続く

過去作はこちらだ



作者注記
1エントリ4500字は長すぎると判断されたので1500字程度に分けていく。
すまんな、本当にすまん。
後本作の以蔵さんは実際に生きている時期の本人という設定のため魔術で召喚できる方の以蔵さんとは元ネタが同じだが、別のキャラだ。
わかるな?わかれ。

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