見出し画像

ノースシ・ノーライフ(1)

サイバネティックス都市、ネオサイタマの夜を厚い雲から降り注ぐ錆色の雨が濡らしていく。

その一角にひっそりと存在するヤクザのデータセンター事務所が今回の「レインボーフード」のターゲットであった。

じゃあくなるソウカイヤのニンジャ、レインボーフードはメンター、指導役であるソニックブームの言葉を思い返す。

「ケチなシノギさ、テメエにピッタリのな」

ミッションの内容はヤクザ事務所に存在するUnixからカネになるデータを抜き取ること。マトモなニンジャであればこの程度のミッションは苦もなくやりとげるであろう。

だが、レインボーフードはサンシタ中のサンシタであった。彼がスシ職人でなければ早々にソウカイヤから放逐されたであろう。あるいはその方がシアワセだったのかもしれぬ。

レインボーフードはフトコロからおのれの家族の写真を取り出す。彼らにはもう会うことは出来ぬ。
モータル、シチヤ・トシコは営業妨害テロ爆発により死亡した扱いだ。今の彼はニンジャ、レインボーフードでしかない。

トレードマークの目立ちすぎる七色フードをかぶり直すと錆び雨の降りしきる屋外に踏み出す。
逃げる事は出来ない、満足にスシを握れる場所はもはやソウカイヤにしかないのだ。

雨中を駆ける。レインボーフードはサンシタとはいえニンジャである、瞬く間に目的の建物の前にたどり着く。

(クソ……警備がいやがる……)

舌打ち、乱雑に置かれたドラム缶の影に身を潜める。ヤクザ事務所の玄関には黒服のヤクザが一人。
闇社会に来てから知ったことだがあれは使い捨てのクローンだということだ。

(だからって気がねなく殺せる訳じゃねぇ…っ!)

同期のニンジャはあたかもイアイの試し切りめいてクローンヤクザの首をはねていたモノだが、モータルの性根が抜けないレインボーフードはひたすらトレーニング木人相手にむなしくカラテを打ち込んでいたのだ。

だが今は殺らねば生きて戻れぬ。レインボーフードは覚悟を決め、支給されたスリケンを取り出す。
高次のニンジャは永久機関めいてスリケンを生成、乱射するがサンシタのレインボーフードにはそんな芸当は出来はしない。

(ブッダ……!力を貸してくれ!)

「イヤーッ!」
「アバーッ!」

レインボーフードが渾身の力を込めたスリケンは真っ直ぐ飛翔!クローンヤクザの頭骨を粉砕し脳漿を撒き散らす!

「……ウェ」

自分のやったこととは言え無惨な死体となったヤクザに吐き気を覚えるレインボーフード。しかし時間がない。交代要員が来ないとも限らないからだ。
片手で略式ネンブツを唱え、ヤクザデータセンターの玄関へと向き合う。
当然の様に電子ロックされているサイバーセキュリティドアだ。

(力業か、技術か、ハッキングか……)

レインボーフードはスシ職人ニンジャである。そのいずれも自信は一切なかった。仕方なしに左腕のハンドヘルドUNIXからLANをドアへと接続しハッキングを試みる。

(……っ!?ガバガバじゃないかよ!)

キャバーン!ほとんどノーガードセキュリティであったセキュリティドアはあっさりとレインボーフードを中へと招き入れた。中は薄暗く、底冷えのするUNIX稼働に適した温度へと引き下げられているようだ。

「スッゾコラーッ!」

突然の怒声に身をすくめるレインボーフード!闇のUNIX物陰からドスダガーを腰だめに構えた恐るべきクローンヤクザがレインボーフードへと強襲する!

「チクショウ!死んでたまるかよ!」

レインボーフードは襲い来るクローンヤクザの構えたドスダガーを左手で逸らし頭部へとカウンター正拳突き!ぐしゃりというおぞけの走る感触にレインボーフードは思わず心中でブッダに祈る。

いかにサンシタといえどニンジャはニンジャ、レインボーフードの一撃でドスを持ったクローンヤクザは顔面陥没頭部粉砕により即死したのだ。
がくりと膝をつき、床に倒れるクローンヤクザのフトコロから札束がまろびでる。それを見て衝撃を受けるレインボーフード。

(カネを持ってるってことはクローンってったってちゃんと自我があるんじゃねぇかよ……)

さよう、完全なる操り人形であればカネなど持ついわれもなし。自身が紛れもなく殺人者になったことを自覚しつつもレインボーフードは札束を拾い上げ、己のフトコロに納める。気は咎めるが、自分が生きていくためにもカネは必要だ。

「悪いな……成仏してくれよ」

またも略式ネンブツを唱える敬虔なレインボーフード。だが時間は限られている。無機質なUNIXルームに並んだUNIXからターゲットを見つけ出し、決断的にLANをつなぐ。

(データさえ、データさえ抜ければそれでいいんだよな?)

チチチ……チチチ……ハンドヘルドUNIXを必死にタイピングするレインボーフード。その額に汗が浮かんでは落ちる。まずはパスワード認証を回避……出来なかった!UNIX本体はドアとは異なり万全のセキュリティ状態だったのだ!これではスシ職人に過ぎぬレインボーフードにはどうすることもできない!

ブワーッ!ブワーッ!けたたましく鳴り響く警報!このままではネオサイタマ市警が駆け付けレインボーフードは棒で叩かれて死ぬ!

「チクショウ!やっぱりブッダはちゃんと俺の事見てやがったんだ!」

悪態をつくレインボーフードはUNIXを無理やりラックからニンジャ筋力でむしり取って背負う!ニンジャ聴力に届くサイレンの音!もはや一刻の猶予もない!UNIXの重さをこらえながらレインボーフードは必死に走る!走れ!レインボーフード!走れ!

ーーーーー

「……で、仕方なくUNIXを奪ってきたってか?」
「モウシワケゴザイマセン!」

ソウカイヤのアジト、そのニンジャ道場にてレインボーフードは迷いなくドゲザした。ドゲザで済むのなら何度でもするが相手はソウカイヤでも指折りの悪辣なるニンジャ、ソニックブームである。果たしてドゲザですむかどうか。

「ふーむ……コケシマート社の未公開株件はちゃんと入ってやがる」

UNIXを検分するソニックブームを前にレインボーフードはハイクを考えていた。死を前にしたニンジャのせめてもの意地である。

「とっときな」

ナムサン!ソニックブームがフトコロから放ったのは札束ではないのか!?
何故彼はミッションに失敗したレインボーフードに札束を渡すのか!?

「ソニックブーム=サン、ドウシテ?」
「どうしてもなにも、テメェはちゃんとターゲットを持ってきた。そいつはテメェの正当な取り分だ、取っとけ」

ぶっきらぼうに言い放つソニックブームに今度は感謝の意味でドゲザするレインボーフード。感涙にむせび泣く。

「いいか、レインボーフード=サン。テメェはターゲットをもって生きて帰ってきた、上出来だろうが。次も頑張んな」
「アリガトゴザマス!アリガトゴザマス!」

平伏したままのレインボーフードがソニックブームがどのような顔をしていたかは、知る由もなかった。

【ノースシ・ノーライフ(1):終わり:2-2に続く

作者注記
本作品はニンジャスレイヤーTRPGのリプレイを書き起こした作品だ。
対象はニンジャスレイヤー公式アカウントから配信されたソロ・アドベンチャーシナリオとなる。
このストーリーはレインボーフードのニンジャ生を元にしたものなので、ニンジャスレイヤーTRPGのプレイ中にレインボーフードが爆発四散した場合、そこで終了だ。それがどんなあっさりした死に方でも、だ。
彼は果たしてどこまで生き残れるだろうか?それはおれにもわからないのであった。

レインボーフード誕生エピソードについてはこちら。

元になった配信シナリオについては以下をご参照のほどを。

#ニンジャスレイヤー #TRPG #アナログゲーム #ニンジャスレイヤーRPG #小説 #TRPGリプレイ #二次創作

ドネートは基本おれのせいかつに使われる。 生計以上のドネートはほかのパルプ・スリンガーにドネートされたり恵まれぬ人々に寄付したりする、つもりだ。 amazonのドネートまどぐちはこちらから。 https://bit.ly/2ULpdyL