「ミュータントになって再会しよう」~周回遅れのステイホーム~
二週間、ルームシェアメイトと猫以外に会っていない。
最後にそれ以外の人に会ったのは、友人の家でのご飯会だ。
その時、ネットフリックスで「ザ・ジレンマ」という海外ドキュメンタリー番組が流れていた。
「肉食系テラスハウス的な番組(なんだそりゃ)をやると告知し、肉食系美男美女をリゾート地に集めたが、実はドッキリで、2週間の禁欲生活をさせる。キスや性行為や自慰をしたら罰金」という内容だ。
海辺のリゾートということで半裸(水着)で登場した肉食系美男美女たちは半日のうちにカップルを作り「ほとんどもうこれセックスだろ」というレベルにいちゃいちゃしだすのだが、その日の夜に番組の真意が明かされる。
「最悪のホラー映画だよ」「母親を亡くしたみたいに悲しい」と、この世の終わりのようなリアクションを見せるのだ。
(引用部と写真はこちらより https://telling.asahi.com/article/13342855)
まさかその2日後に、ホーチミン全体が「ザ・ジレンマ」な禁欲生活に陥るとは……。
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友人と電話。会ってないし、チャットだけしていたから、声をきくのは二週間ぶり。
「今、人に会ってしまう人は感染する。おとなしく家にいられる人は生き残る」
「コロナウイルスによる新しいタイプの人類選別が始まっているかもしれない」
という話を聞く。
■
今までの人類は、社会性を武器にして生きてきた。
人類は、鋭い牙も爪も、寒さに耐える毛皮も持たない。
だが、言語による仲間との複雑なコミュニケーション、100人規模の人数を覚えられる記憶力、信頼や返報性などの行動原理……などを発達させて生き残ってきた。
しかし、その代償もある。
「生き残るためにはコミニケーションが必須」と脳に書き込まれてしまっているため、常にコミュニケーションしていないと不安だし、つい人に接触しようとしてしまうのだ。
(この辺の解説は、「スマホ脳」という本がすばらしい。スマホ中毒というのは、携帯やアプリの開発者が脳のこの仕組をハックして作り出した症状なのだとよく分かる)
しかし、コロナで状況が変わった。
何世代もの生物淘汰ののち、今まで変わり者扱いされてきたマイノリティ――ひきこもりや修験者気質の人――が、人類の多くの割合を占めるようになるかも知れない。
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他人に対して、時間や手間やお金をかけることで、感謝されたり信頼される。
そして、モノや情報をもらえる。
だから、生き残る確率が高まる。
今までそうだったし、コロナウイルスに関係なくそれ以後もそうだ。
しかし、今後、その「時間や手間やお金のかけ方」がちょっと変わるだろうな。
今までは、顔の見える人に文字通りキープインタッチすることが大事だった。
しかし今後は「ちょっと飲み会に顔を出す」とか「挨拶だけして手土産置いとく」みたいなコミュニケーションは、超ウザがられるだろう。
「バイク便で手土産だけ送れよ、ウザッ」て、言われそう。
逆に言うと、今までの人間は、「直接顔を見たことがある」とか「知り合いの知り合いだ」ということで、他人を無根拠に信じすぎていたのではないか。
そのことの無根拠さが、これを機に露呈する気がする。
「会う」って、感染リスクがあるし、コスパが悪い。人生で会える人数は限られている。そのリソースをむざむざ食いに来るのって、失礼だ。
じゃあ今後どうするのか。
今後は、会わないでモノや情報やお金を渡す――例えば、インターネットを通じて不特定多数に文字情報を提供するとか――方が、よっぽどありがたがられるだろう。
……となると、私の出番じゃないか!
インターネットが台頭し始めた思春期の頃、
「これからはクラスで目立ってる「喋りがうまいやつ」より、「文字が書けるやつ」の方がえらくなるかもしれない!すげえ!!」
と思いながら、mixi日記を書き殴っていた。
割とそれ以来の嬉しい衝撃。
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さて、インターネットで出来ずにリアルでせねばならないことといえば、食事、排泄、睡眠、セックスあたりだ。
こんな生命の危機が迫っている時こそ、出掛けてセックスして子孫を残すのが、個体として正しい行動かもしれない。
(「生命の危機が迫っている」と言うと大げさに聞こえるかもしれないが医療資源が乏しいベトナムでは医療崩壊の危機は日本よりずっと手前にある)
しかし、もうちょっと科学と倫理が変化したら「直接会ったことない人の精子/卵子をもらって子作りする」というのもアリになるだろうな。
となるとやはり、「ここぞとばかりに出掛けてセックスする」のでなく「家にステイして身を守りつつ、ネットを介して親切行為をしてみんなに愛される」方がいいだろう。
でも分からない。
倫理と科学より速く、デルタ株が驚異的進化を遂げて、みんなバタバタ死んじゃうかもしれない。
だとしたら「さっさと出掛けてセックス」派が正解だったね! ってことになるだろうし。
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さて、「ネットを介しての親切行為」の利点は、
・直接会わなくて済む
・与えられる人数が割と無限
・アーカイヴが残る
このへんだ。
極端に言うと、自分の死後もアーカイヴが残せる。
となると、「精子や卵子を冷凍保存しておき、自分の死後にアーカイヴによって愛や信頼を勝ち取れば、子孫を残せる」という時代が訪れるかも知れない。
それならますます、生前にどれだけセックスをするかって無意味になってくるなあ……
というか、アーカイヴが残るなら、文化的遺伝子(ミーム)が残る。
つまり、直接の子孫でなくても、「あなたの考えに影響されました! 見習って生きます!」という人が現れるということだ。
それでいいのかもしれない。
実際私は、死んだ人の本を多く読み、大いに影響されてきた。
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元々親しい友人何人かに会えば満たされる私は、社会隔離中に時間が出来たことで、好きなだけ読んだり書いたりして楽しんでいる。
修行者体質の友人も、10年近くやめていた瞑想を、再開している。
友人も、私も、「あれ? 毎週会ってたけど、意外と会わなくても平気?」という域に進化しつつある。
「ミュータントになった頃に再会しよう」と言って電話を切った。
渋澤怜(@RayShibusawa)
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