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別にゴールとか要らない、むしろ歩き続けたい 〜スペイン巡礼旅まとめ〜

カミーノ(スペイン巡礼路を歩く旅)が終わった。
すごくよかった。本当にすごくよかった。まだ歩き足りない。

最終日は朝3時半に起きて、4時半に歩き始めた。この巡礼路のゴールであるサンディアゴ大聖堂で正午に開かれるミサに参加するためだ。
この時期のスペインの夜明けは8時。いつも、22時〜7時まで寝ているみんなを尻目に、短眠気質の私は朝3時とか4時に起きてブログを書いていたから、早起き自体はなんの苦でもなかった。しかし、暗闇を歩くのはハードワークだ。暗闇というのも本当の暗闇、15km先まで村の無い、鬱蒼とした林道を、iPhoneの懐中電灯だけを頼りに進むのだ。
私は異国の地で、ネットも使えず、ただ黄色い矢印だけを頼りに、一人で歩いている。最高に怖いし最高に興奮した。途中、豆粒みたいに小さな光がふたつ、ゆらゆら揺れているから、一体何かと思ったら、犬の目だった。突如私に駆け寄り、吠え出す。スペインの田舎では、シェパードやゴールデンレトリバー並にデカい犬が、鎖につながれておらず、自由に歩き回っている。

昼間は可愛いけど……。
とにかく、犬の目は暗闇ではああいう風に光る、ということを、体感で知った。

途中、一度道を間違えた。懐中電灯の限られた視界の中で2本の分岐を見つけ、しかしどちらにも黄色い矢印が無かったのでとりあえず太い方の道を選んで進んだが、次なる分岐にも矢印が無かったので不安になり、戻ることにした。上手く戻れなかったらどうしよう、途中で変な道に入っちゃったらどうしよう、そうしたら明るくなるまで2時間しゃがみこんで待つしかない。そう思っていると、元の分岐地点でいくつもの光が揺れているのを見つけた。人だ!!! うれしくなって駆け寄ると、何度も道で会っている韓国人のグループだった。彼らはクリスチャンだ。
「レイはクリスチャン?」「ううん」「なのにミサに行くの? わざわざ早起きして?」「うん」
本当は、最後のカミーノは一人で歩きたい、とか、ちょっとウザくなり始めた韓国の腐女子をマキたいとかいう理由もあったけど、まあとにかく、観れるもんは観ておきたいと思ったのだ。早起きは苦じゃないし。
「でさ、わたし道に迷っちゃったんだけど、道わかる?」と、韓国の男の子に聞くと、「え? そこに書いてあるじゃん」と言われた。
彼が照らした先には、私の気づかなかった第3の道があり、そこにしっかりカミーノの石碑が建っていた。なんてこった。

韓国人のおばあちゃんがめちゃめちゃプチトマトをくれた。たしか、日本語学校のバイトをしかけた時も中国人の生徒がプチトマトをめちゃめちゃくれた。朝食とかおやつ感覚で食べるもののようだ。
さっき、人だ!!! と思った時はあんなにうれしかったのに、今度は、誰かが照らしてくれる道をついていくのはアドベンチャー度が下がってつまらない、とか思い始めて、「野ションするから先行って」と言うなどしてナチュラルに間隔を空ける。2,3分空ければもう、視界から自分以外の明かりはなくなる。

あ、野ションといえば私、ついに野グソをしたんですよ。

……「こいつ、下ネタとうんこの話ばっかしてるな」って思うかもしれないけどコレものすごく大事なことなんすよ。
大自然の中を2週間歩くことによって、自分は大自然の中の一部でしかない、自分もただの動物に過ぎない、自分のうんこも動物のうんこも等しく土に受け入れられて循環するのが当然だ、と思えればこその行為ですよ。

想像に難くないと思うけど、野ションより野グソの方が数段ハードルが高い。
カミーノ2日目、前後数キロ間村の無い過疎地に掘っ立て小屋みたいなのを作って住み、巡礼者に無料の休憩所と食べ物を提供している、なんかオーガニックな感じの人たちにお世話になった際、「トイレありますか?」と聞いたら「big nature!」と言って大きく手を広げて大地を示された、あの時から、私のカミーノの隠された目標は「野グソ」になった。

big nature.

1回してしまったら調子づいたのか3回もしてしまった。暗闇かつ周りに誰もいないからこそ出来た。写真を撮りたいくらい達成感があった。
韓国人のグループが、数十分ごとになんとなく立ち止まって私を待ち「大丈夫?」と声をかけてくれるのはありがたくもありウザくもありつつ、無事夜明けを迎えた。
私はこのカミーノにおいて、「計画を立てて、その通りに行くことによって達成感を得る」のではなくて、ただ「一歩一歩を楽しむ」ことをモットーにしていたので、もし、道に落ちてるタバコの空き箱のショッキングな絵柄を写真に収めることに夢中になってミサを逃したとしてもそれはそれでいいし、そもそも1日分の歩くノルマも決めてないのに無事最終日にサンディアゴまで歩いて辿り着けそうな時点でラッキーだし、もしそれが無理だったらバスでサンディアゴに向かっても、あるいはサンディアゴに行かなくてもいいや、くらいに思っていた、だから、ミサに参加するために無理に早起きして歩くクリスチャンの韓国人のグループとはテンションが全然違うしとにかく心配無用だったのだが、幾分、恐ろしいほどの暗闇だったし、自国民同士の結束の強い韓国人らが私をなんとなく仲間扱いして心配してくれているのはすごくうれしかった。

「ひとり」も楽しいけど、「みんな」も楽しい。

「ひとり」はさみしいけど、「みんな」はウザい。まさに人生と一緒だ。

私は、おそらく平均よりかなり「ひとり」寄りの人間だけど、ほぼ誰とも話さなかった1,2日目は恐ろしく退屈で、高速沿いを歩きながら「このままヒッチハイクしてレオンまで戻って飛行機で日本まで帰ったろか」と思うほどだった。この日まで楽しく歩けたのは、例のガンガン親切にしてくる韓国少年パズーや典型的イタリア人のジョーク紳士ラディ、マリワナと哲学が好きなドイツ人青年、終始ノリノリなスペインギャル、韓国の腐女子、などなどのラッキーすぎる多彩なメンツでパーティを組めたからだ。

まさに 仲間を増やして次の街へ。

11時少し前、これまでにないほどの大都市が見えてきたので、惜しみつつも最後の野ションをキメる。(さすがに都市で野ションはNGなため)

10軒くらい民家が続いてハイおしまい、という小さな村をたくさん通過してきたので、普通に、久々に目に入る大都市のスケール感に驚く。なんと街の端にたどり着いてから大聖堂まで1時間かかる。そうここは村じゃなくて街だ。道行く人がほぼ100%笑顔を向けて「ブエンカミーノ!」と言ってくれる田舎村じゃないのだ。スーツ姿のスペイン人を初めて見た。そういえばスペインはスリが多いはずだ、などの豆知識をハタと思い出し、やたら緊張感を高めていく。

ミサ10分前に大聖堂にたどり着いたけど、なんか、ふーん、って感じだった。ミサも、ふーんって感じだった。小野美由紀さんの本を読んでさぞかし豪勢なものだろうと想像していたんだけど(小野さんが参加した、天井から吊るされた巨大な香炉が参列者の頭上を舞うスペシャルミサは、金曜日だけらしい、私がサンディアゴについたのはあいにく水曜だった)、あんなに美しいアーチを備えた、声の響きそうな構造をしたホールなのに神父さんはマイクを使うし、オルガンの音もしょぼかった(最後だけパイプオルガンを使ったみたいだけど)。大聖堂は工事中で、ミサ中も祭壇の上の足場で工事のおっちゃんが普通にうろうろしてるし、中央に据えられた巨大なキリスト像の後ろに階段があって、観光客がキリストの肩越しにちらちら顔を出してこっちを覗いてたりして、わりと緊張感なかった。(あとでその階段をのぼってみて、クリスチャンたちがキリスト像の背後からハグして真剣に祈りを捧げる姿をみて、それが信仰による行為だと気づくのだが、その時は「ふざけてるんか?」と思ってた)

まあとにかく、こういうのは参加するのがものすごい大事なのだ。クリスチャンにとってミサは特別なものではなく(たとえ観光客が押し寄せる有名な大聖堂でも)、デイリーなものなんだと体感で分かった。それから協会のベンチの足元にある横長の長い邪魔な板、これは足置きじゃなくて跪いて祈りを捧げる時に膝を置く用の板なのだ、と初めて知った。
ミサの最後、前後左右の人と握手をした。照れくさい。

土産屋をうろついたりして待っていると、昼下がりごろ、いつも通り9時に出発したスペインギャル、韓国腐女子、辛ラーメン大好きコリアンボーイズなども無事大聖堂に到着する。
ミサにたどり着いた時はなんの感慨も湧かなかった私だけど、多くの巡礼者がそうするように、大聖堂の前にある、ハチ公広場の100倍くらいある正真正銘の広場のド真ん中に、大の字になって寝ころんだら、やっと満足感が身体中に浸み渡って来た。

ミサに滑り込んだ時は慌てててよく見てなかったけど、大聖堂を目にした感想は「ウワッ人工物」だった。
2週間、ド自然に浸り、「看板以外の人工物が視界に無い」という光景が何時間も続くことも当たり前だった巡礼路を抜けていきなり、人間の手間と技術と集中の粋の極みたる建造物を見せつけられたので、マジギャップがすごい。昔の人にとっちゃ尚のことそうだったろう。そりゃ神信じるわ。寝そべりながら仰角に大聖堂を仰ぎ見て、そんなことを考える。

そんなチルな時間も束の間、皆が「シャッターの瞬間にそろってジャンプして写真撮ろう」とか「記念証をもらいにいこう」とか言い出してさっそく面倒臭くなってくる。こういうノリって世界共通なんだな。カミーノの看板にも「believe yourself」「I wish you can join me togeter」「camino is life」的なピースボート的ウザい落書きがたっくさんあった。

広場に、明らかに日本人であろう、旗の元に集まってガイドの説明を聞きながらバシバシ写真を撮っている集団が現れる。日本人じゃないフリをして集団に紛れ込み、日本人ガイドの説明を聞く。その日本人ガイドは、現地ガイドの英語を日本語に通訳するだけの簡単なお仕事をしていた。群れの人々は、美術館ガイドみたいなイヤホンをつけてそれを聴いている。何もかもバカらしい。目に入って「でけえ」「すげえ」と思う前に外側からの説明を欲しがっちゃうのってダサくね? まあ、ガイドの蘊蓄は大変参考になった。5分くらいついてたら現地ガイド男性に「アーユージャパニーズ?」と聞かれた。以前、ベルサイユ宮殿で同じことをして日本人女性ガイドに「やめてください」と日本語で叱られた経験がある私は、日本語が分からないフリをして適当にほほ笑んだ。そしたら「アーハーン、コノコイングリッシュワカンナイミタイデース」みたいになって見逃してもらえた。

みんなが宿を探す間、暇なので、いくつかのツアーを追いかけまわして遊んだ。

そう、皆はゴール地点であるこの街に何泊かするようだが、私は18日の大森靖子ちゃんのツアーファイナルに合わせて日本に戻る飛行機便を予約している私は、今夜この街をバスで発つ。(が、バスの予約をしてなかったのでスペインギャルに全面的に頼りまくりつつなんとかチケットをゲットする)

3ユーロ(300円ちょい)出すと貰える筒。もちろん私は買わない。

記念とかご褒美とかせっかくとか最後にが本当に嫌いな私は、この街をすぐに発つことにしておいて本当によかった。みんなとだらだらとこの街にいたらみんなごと嫌いになっちゃう可能性が高かった。
(ちなみに、韓国の腐女子は、弟の大学入試がこの数日間に行われるためこの街に連泊し毎日弟のために祈るらしい。韓国は日本以上に競争社会で、大学入試が人生を決める比率が日本よりさらに高いようだ)

でも別に入試とか本当はどうでもいいんだけどね。東大に入るか入らないかより、自分の好きなことが出来るか出来ないかの方が二億倍大事だ。

私は、別にゴールとか要らない。むしろ歩き続けたい。
もっと歩きたいよー。大聖堂についてからそれしか思えない。
歩いてる日々はマジ幸せだった。なんてことのない、ただ毎日25km歩くだけ。あとは食って寝て、(私だけ早起きして書いて)、また歩く。選択肢が閉ざされてる。他のことは何もできない。軽量化を極めるべく余計なものが一切入っていないバックパックではお喋りと書き物以外の娯楽はない。wifiスポットを除いてネットもできない。だから目の前の景色を見ている時に日本の誰かからLINEが来て旅の味わいがかき消されることも、文章を書いている途中に調べものついでにネットサーフィンにうつつをぬかすこともない。ドライヤーも化粧道具も服も無いから髪はぼさぼさ、すっぴん、毎日同じジャージを着倒してるけどノープロブレム。歩けば歩く程健康になるし最高。私、村とか意外と適してるのかもしれない。でもすぐ飽きちゃうんだろうな、スペインの料理みたいに。

スペインギャルに「スーパースパニッシュ」(超スペインっぽい)と言われた夕食。前菜:レンズ豆スープ、主菜:タコ、デザート:チーズとメンブリロ(ジャム)。スペインの料理は旨いし量も多いのだが品目が少ない。いつも「I want to eat various food, like bento!」と言ってた私。

最終日、のんびりメシ食ってたらバスの時間ギリギリになってしまい、スペインギャルと共にタクシーを求めてサンディアゴの街を駆け抜けながらこんな会話をした。

「韓国の腐女子から聞いたけど、アンニョンハセヨの「アンニョン」は「you are alive」って意味なんだって。昔の韓国の人は、毎夜死人が出るほど厳しい気候の中で生きてたみたいなんだよね。日本の「おはよう」は、「あなたはこんなに早く起きて勤勉で偉いですね」って意味なんだけど、アンニョンの方がずっといいな。わあ、あなた生きてる、素晴らしい。そー生きてりゃオッケーだよね。生きてりゃ!」

「そうね! でももしあなたがバスにちゃんと乗ってマドリード空港に辿り着いて、予定通りの飛行機で東京に到着できたら、more betterよね!」

多分この飛行機が落ちなきゃ、私は無事日本につくだろう。ライフイズカミーノなので別に無事飛行機がついても当然旅は続く。
いちおうノリでもらっておいた巡礼証明書は、スーパーで買った大量のインスタント食品とパテとクリームチーズに押しつぶされて、既にしわしわである。

どこの国の土産屋もどーでもいーキーホルダーとかばっかで、土産土産した土産なんてもらってもちっともうれしくないし、空港で売ってる高級チョコなんかも無意味、高級で有名なものなんてネットか伊勢丹でいくらでも手に入るんだから、私のお土産は現地のスーパーマーケットの食品です。


この写真の三倍くらい、超いっぱい買ってきたので、ライヴに来てくれた人に早い者勝ちで配ります。旨いかまずいかはわからん(私も食べてない)けど、「読めない文字からどんな味か推理する」「うまかったりまずかったりして、現地の舌感覚の違いを堪能する」ことが旅行ですから、その感覚もおすそ分けできたらなと思います。

そんなお土産がもらえる、直近のライヴはこちら

☆2016年11月24日(木)☆
【場所】BASEMENT BAR
【タイトル】
『Beat Happening!AcousticBOYS&GIRLS!』
【出演】
衿衣
渋澤怜
工藤ちゃん
ド真ん中ズン(柴犬という曲がマジで鬼良いのでyoutubeでとりあえずきいて)
and more!
OPEN:19:00 START:19:20 前売:¥2,000/当日:¥2,500(+1D)

詳細はこちら
https://note.mu/rayshibusawa/n/na4b6ca66dbce
上記にも書いたけど、ぜひ予約してください。@RayshibusawaまでリプライorDM、またはinfo@rayshibusawa.her.jpまでメールで、お名前を枚数を書いてご連絡ください。

伝説の同人誌「バンドマンとは付き合うな」の再販分も刷り上がりましたよ。

時事ネタ!!!!
Bob!!!!!!!!!!

『インディーズのロックバンドがたむろす小さなライヴハウス。そこに現れた、フリルいっぱいのお洋服に身を包み、お目目を輝かせてバンドマンを見つめる、三十超えの勘違い女。ハンバーガーに似た顔のそいつを私たちは"バーガークイーン"と名付け、ウォッチし始めた……。ステージとフロアと愛と奈落を書き上げた本格「ライヴハウス小説」。』

23日の文学フリマおよび24日のライヴ物販から売り出します。400円です。
もはや5年前に書いた本とか「限りなく黒に近いグレー歴史」ですが、ついにライヴハウスに出始めた私が、これを売るのは、非常に意味があることだと思う。
装丁より中身の方が面白いです。ぜひ買って読んでね。

オフライン限定販売小説「インターネットであそぼ」も好評発売中。ライヴか、通販でしか読めないよ。


それじゃね。ブエンカミーノ。

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