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【元彼復縁】金を返さない元彼をネタにしたら笑いながら友達に戻れた話


伝説の元彼がいる。
4年前に3ヶ月だけ付き合い、その間に6万円を貸した。
別れてからも返してくれなかった。

彼はバンドマンだった。
別れた翌月のライヴで、
「女から!借りた金は!返さなくていー!」と歌っていた。

その時私は客としてライヴを観ていた。

借金返済はずっと求めていたが、彼はひょうひょうとして全く取り合わなかった。
その後私が第三者を介して取り立てたら彼がブチ切れ、ブロック寸前までこじれたのだった。

しかし結局、別れて4年経った今も仲が良い。金も、半分ぐらい返ってきた。

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そうなれたのは、ちょっと二度と再現できない、アクロバティックな方法で復縁したからだ。

■ステージ上で200人の前でネタにして復縁した

その当時、私は歌手の大森靖子さんのファンクラブの会員で、毎月行われるファンイベントに通っていた。場所は新宿ロフトプラスワンというイベントスペース。いつも、客席にいる200人ぐらいのファンにアンケート用紙が配られ、ファンがそこに近況を書くと、靖子ちゃんがそのエピソードを拾いつつトークし、最後は弾き語りライヴするという流れだった。

その時のアンケートのお題は「最強恋愛エピソード」だった。

私は、「貸した金を返さない上、『女から!借りた金は!返さなくて!いー!』という歌を作曲して歌うバンドマンの元彼」の話を書いた。
物書きとして、かなり渾身の気合を込めて、アンケート用紙を真っ黒にした。

正直、誰よりも面白いエピソードを書いたから必ず読まれる自信はあった。

果たして、私のアンケート用紙は、予想以上に靖子ちゃんのツボにハマってしまった。
大爆笑して「女から!借りた金は!返さなくていー!」と連呼してくれた。あろうことかその後の弾き語りライヴでも、自曲の合間にちょいちょいとそのフレーズを入れて歌ってくれたのだ。

愛する歌手が、私の痛い思い出をネタに昇華してくれた。こんなにありがたいことは無い。

そのイベントは月イチで開催されていたので、私はその元彼の経過報告をアンケート用紙に書き続けた。

「結局金は返って来ない」とか「取り立てたら喧嘩になった」とか。
そうしたら毎月読まれた上に、ついに靖子ちゃんに「来月のイベントにその彼を呼んでよ」と言われたのだ。

バンドマンである元彼は当然靖子ちゃんのことを知っているし、尊敬もしている。
取り立て以後気まずかった彼に、この案件を連絡したら、やっぱり彼も怒るどころか大爆笑して出演を快諾した。

翌月のイベントにのこのこやって来た彼は、例の曲を弾き語った。

「女から!借りた金は!返さなくて!いー!」の「いー!」のところでコールアンドレスポンスを求めるも、「いー!」と思っている客は一人もいないため、アウェイ200人の客の前でそれはなかなか寒々しく響いた。

あと、もともと攻めた服ばかり着る男ではあったが、その日はあろうことかメチャクチャな服をきていた。
後身頃がスケスケの網タイツみたいになっているTシャツだった。
「背中がスースーするんすよ、あと椅子に背中が張り付く」と言ってほぼ素肌の背中を見せた時、200人が揃って「ヒー!」と言ったのをよく覚えている。

2人で仲良くチェキ列に並び、靖子ちゃんと3人でチェキをとってもらい、帰った。

その月のうちにお金はだいたい返ってきた。

■彼氏としては歴代最低 ~金ない、連絡ない、甲斐性ない

彼は、男としてはかなり最悪の部類だった。

初めて会った時は自殺未遂の翌週だった。

シェアハウスメイトを殴って揉めているとか言っていた気がする。シェアハウスといっても洒落たものではなく、不動産屋が貧乏人(それこそ、上京したての若いバンドマンとか)にあっせんしている、マンガ喫茶みたいに狭い2.5帖の小部屋が並ぶ、ほぼ刑務所みたいな施設だ。そこの家賃4万すらカツカツで、とにかく金が無かった。

金を借りる時には「来月13万入るから」と言っていたが、よく考えたら家賃の滞納分を払ったらすぐ消える。そんな奴に金を貸す私もバカだが金を貸さないと電車賃も無いから会えない。金を使わないようにになるべく私の家で会うようにしていたがそれでもタバコ代やビール代を求められる。そんな付き合いだった。

金のみならず時間もルーズで、連絡もすぐ途切れる。

先の予定を組むのが無理で、今日と明日の約束しかできない。しかも超夜型の彼は「今日」の概念が「日付を超えた朝5時」のこともあり、私は寝ずに連絡を待ってヤキモキすることが日常だった。

「新宿についた」というから、「私の最寄り駅まであと3駅だ、30分ぐらいかな」と思って待っていたら3時間かかり、「歩いてきた」と言われた。連絡してよ、と言うと「携帯代を払っていないからワイファイのあるところでしか連絡とれない」と返される。

そんな、たまにうちに来てエサをもらいに来る野良犬の方がまだマシだ、という男となぜ付き合っていたかというと、「めちゃめちゃ面白かったから」。これに尽きる。

■面白さ>倫理

東京で珍しく雪が降った夜明け前、まだ誰も踏んでいない白い雪に、立ちションで「I LOVE YOU」と書いた画像を送ってくれた。

持前のヒキの強さで「2年後に建て壊しなので壁紙落書きし放題」という物件を見つけて、壁をペンキでサイケ柄に塗った。

互いのwikiを作って、あたかも既に有名であるかのように虚実を交えためちゃめちゃを書いた。

遅刻かドタキャンの理由は、「外国人と路上でデビッドボウイの話で盛り上がり酒を飲まされた」「池袋で人が死ぬところに立ち会った」など、いつも大喜利の回答のようだった。

大体、拾ったか貰ったかした服を着ていたが、一番似合っていた服は、出会い系のサクラのバイトをしていた時に「フィリピンババア」から貰ったものだった。(フィリピンババアというのは、サクラに引っ掛かった男性の前に現れて売春をけしかけるフィリピン人女性のことだ)キレて「帰るわ」と言った男性から、なぜか女性が上着を剥ぎ取り、それが流れて彼のものになったらしい。


……まあ、そんな奴だっだから、「女から!借りた金は!返さなくて!いー!」という歌を歌われても、むかつくより先に「おもしれえ」と思ってしまった。

なんというパワーワードだ、一度聞いたら忘れられないキャッチーさじゃないか。

私は彼のそういうところが好きだったから、怒るに怒れない。

私たちが優先していたのは常に、倫理より面白さだった。

彼は200人の前で顔と名前を晒して「元カノに6万借りた上に返さず『女から!借りた金は!返さなくて!いー!』という歌を歌っているバンドマン」と知られるに至った。
どういう度胸かと思うが、とにかく彼はあの時ステージに上がった。
まあ、尊敬する人と対バン(?)したいというバンドマン根性もあるだろう。しかし、彼は単に「面白いから」そうしたのだ。

そして、そんな倫理的にアウトな元彼のことも笑い、尊敬する人と対バンするチャンスを作った私も、「面白いから」そうしたのだ。

そうして、いつもファンのあらゆる感情を拾い上げ、生きる方向のエネルギーへ変え、歌い上げてくれる靖子ちゃん。

■エピローグ ~人生で一番大事なのはユーモア

最近私は、ホーチミンで一番の親友だと思っていた人にブロックされ、一度関係が終わってしまった。

しかし最近、その親友とSMクラブで再会する夢をみた。

私が体験入店すべく、ホーチミンのスラム街の路地の中をくぐり、重い扉の前にいる門番にパスポートを見せて地下に下りたら、面接官として現れたのはボンテージにぺニバンを付けたそいつだった。

「あんた、なんでこんなところいるのさ!彼氏に言いつけるよ!」
「そっちこそ!例のベトナム人と別れてないでしょ!」
とか言いながら、爆笑してしまった。

目覚めてからも、もう一度爆笑した。

人間関係は常に変わる。こういう、めちゃめちゃウケる出会い直し方をしたら、もう全部どうでもよくなって和解するに違いない。
ひょんなことで大喧嘩してしまったけど、ひょんなことで和解するのも全然アリだ。
その「ひょん」は、神様の采配なので、私達がコントロールすることはできない。でも、その確率を高めることはできる。

なるべく面白い方向に自分を置くこと。辛いことがあってもネタになるべく振る舞うこと。

人生で一番大事なのはユーモア。

それが、元彼と、元彼といた時の私と、大森靖子ちゃんが教えてくれたことだったじゃん。


渋澤怜(@RayShibusawa

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