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「自分らしく生きられる」という想いから農家の道へ

両親の影響で農業に出会い、日々美味しい作物づくりや新たな農法に試行錯誤している熊本県球磨郡錦町の果物農家の坂本美鈴さんに、農家になった経緯や農業の魅力ついてお話を伺いました。(2023年11月)


坂本美鈴さんプロフィール

  • 幼少期から農園で時間を過ごし、農業大学校に進学。卒業後に就農。現在は子供2人(5歳と8ヶ月)を育てながら農園の3代目として奮闘中。夫は会社員。

  • 主な栽培作物はモモ約80a(アール)、ナシ約80a、米約80a

  • SNS: instagram:https://www.instagram.com/misuzukajuen/

坂本美鈴さん

1年間の過ごし方

主に米、モモ(12品種)、ナシ(8品種)の3つを栽培しているので、結構年中忙しいですね。今の時期の10月は、割と落ち着いているのですが、11月からモモの剪定(*1)の作業が始まって、12月から2月までナシやカキの剪定、そして2月からハウス掛け、摘蕾(*2)、粗摘果(*3)と様々な工程があります。そして6月頃から約2ヶ月、モモの収穫があります。ナシの収穫が8月から10月半ばぐらいまでで、米はそれらと並行して田植えなどをして、収穫が10月ごろという感じです。収穫が終わると一息つけるので10月ごろは、家族で旅行に行って、余暇を過ごしています。

 *1剪定(せんてい):生育をよくするために、不要な枝を除去して形を整えるのこと
 *2 摘蕾(てきらい):生育をよくするために、余分なつぼみを間引いて摘み取ること
 *3 粗摘果(あらてきか): 1つ1つの作物に十分な栄養が行き渡るように、育ちにくそうな実を間引くこと

農業を始めたきっかけ

両親が農業をやっていたこともあり、小さい頃から農業の手伝いをしていて、中学生の頃から農家になりたいと思うようになりました。その後農業大学校で2年学び、卒業後すぐに就農しました。親と一緒に農園に出ているときに、自然の中にいるのが好きですし、自分自身がちょっとのんびりしているので、仕事は大変な時もあるんですけど、自分の性格に合った生活ができると思ったのがきっかけですね。

その時のご両親の反応

農業大学校に進むと告げた時には、おそらく継いでくれるのかなと感じていたと思います。それ以降は応援してくれて、農大で学んだことを取り入れたいと言った時も、すんなり取り入れてくれました。また講習会にも参加していたのですが、「この技術を取り入れたい!」と言ったら積極的に取り入れてくれたりと、新しいことに一緒にチャレンジしてくれました。

農業はやりがいに満ち溢れている

やっぱりお客さんの嗜好に合った品種は何だろうと考える時間が一番楽しいですね。今だと柔らかいモモよりも硬いモモの方が好きという人もいるので、その品種を増やしたり、皆さん甘いナシとか大きいカキが好きなので、そういったニーズに合わせて育てる品種を変えて、それをお客様に喜んでもらうのがとても嬉しいです。「この品種は珍しいけど、食べてみたら美味しかった!」などと感想を言われるのが楽しくて、お客さんの反応が面白くて、それがやりがいになっています。

新しい農法へのチャレンジ

農業大学校ではモモのハウス栽培をしていたのですが、当時まだ自分の農園にはなかったので、ハウス栽培を取り入れてみました。そしたら周りの農家でも取り入れてみようという人が多くなってきましたね。ハウス栽培だと雨を防いでくれたり、虫による病気も少なくなったりして、収量と品質ともに良くなりました。またナシに関しては、ジョイント栽培という仕立てのやり方を取り入れています。これは隣接する木々を1本に繋げるやり方で、こうすることで、収穫などの作業が一直線で終わって、作業効率が上がりとても便利です。

ジョイント栽培

農家同士の助け合いの文化

今は「4Hクラブ」という若い農家たちのグループに所属していて、ここで毎年農業の課題に対する解決策などを意見交換しています。他の地域のナシ農家の剪定方法や暑さ対策などをお聞きし、自分の農園でも活用できる話も多く、とても勉強になっていますね。

グループに属してると、有名な農園に研修に行く機会がありますし、仲間がいると様々な学びがあるのでありがたいですね。他の農園には1人では行く機会はあまりないですし、私はネットで調べるタイプではないので、助かっています。ナシやモモの農家さんだけではなく、自分が全然知らないお茶農園に行った時には、「こんな機械を使っているんだ!」と驚いたのを覚えています。

また近くの農家さん同士で、お互いの繁忙期は助け合って作業することも多く、こういった横のつながりがあるのも農業の魅力だと思います。

農業の課題と今後

今の農法であと20、30年できるかなと考えた時に、一番危機感を感じるのはやっぱり温暖化の問題ですね。今年もずっと暑く、夜も気温が下がらなかったので、果樹園にとってはダメージが大きかったかなと思います。ですので今後、作る時期をずらしたりとか、技術を利用したりして、工夫していきたいと考えています。

私自身、できるだけ長く農業を続けていきたいと思っていますし、もし子供が継ぎたいと言ったときに、子供が安心して農業をできるような状態にしておきたいですね。私の周りの農家さんは、みんな本当に農業が好きで、将来の子たちも農業ができるような環境にしていきたいねっていう話をよくしてます。

最後に

農業ってやればやった分だけ自分に返ってくるんですよね。やればその分作物がよく育つというのが農業の面白さだと思います。だけど、やることがたくさんありすぎて、あれもこれもやってみたいけど、なかなかやれないので、毎年反省の繰り返しです(笑)。でもそれぐらいやりたいことに溢れていますし、作物はその人の個性で育っていくので、そういう意味で農業は誰にでも合っている仕事だと思います。

もちろん収穫や箱詰めなど、大変な時期は1分1秒も無駄にできないぐらい忙しくて、ギリギリまでお客さんへの発送に追われ、前の日までに伝票を書いておけばよかったと思うことがよくあります(笑)。だけど私が作ったものを食べて、皆さんが笑顔で喜んでくれる姿を見るだけでも、その苦労が報われているなと感じます。その笑顔や言葉が私のやりがいとなって、いつも頑張っています!

農業のやりがいや農家同士の助け合いの文化など様々な魅力を再発見できた取材でした。人吉球磨・農業未来プロジェクトでは引き続き地域の若手農家さんの取材を続けていきます。次回の取材記事もお楽しみに!


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