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夫婦は仕事でもパートナー。九州から北海道まで価値を伝える営業をする有機農家

”ジンジャー母ちゃん”としてInstagramやECを活用、積極的にスーパーなど小売店への新規営業活動も行い販路拡大を行っている溝邉夫妻へ、生姜作りへのこだわりや販路拡大で取組んだことなどについて話しを伺いました。(2023年12月)


溝邉夫妻プロフィール

1986年生まれ。同級生であり部品メーカーの元同僚。リーマンショックを契機に妻(いつかさん)は実家である尾里農園(球磨郡錦町)へ就農。夫(雄さん)は建築会社勤務を経て就農。有機農法で、生姜、人参、レタスを栽培。

リーマンショックを契機に就農

私たちは高校生の時に出会い、その後結婚しました。夫婦で部品メーカーに勤務していましたが、リーマンショックを契機に退職しました。私(いつかさん)は妊娠中でもあったため柔軟な働き方ができるように実家に就農し今に至ります。私(雄さん)は転職して建築関係の仕事に就業しましたが、自営業をやりたいと義父に相談したところ家業である農業の提案を受け就農に至りました。

現在、有機農法で、生姜を3反、人参を3反、レタスを2反の面積(計8反)で栽培しています。主に、外での農作業は雄さんが、出荷作業はいつかさんが、収穫期や作付けは二人で行っており、全体的には別々に役割分担して仕事をしていることが多いです。

手間暇かかる有機栽培へのこだわり

有機栽培と慣行栽培(※)の大きな違いの一つとして、病害虫が入ると止まりにくい点が挙げられます。例えば、生姜では、葉っぱに斑点ができて穴が開く白星病です。慣行栽培では農薬を撒けば止まるのですが、有機栽培の場合は有機栽培で規定されている天然由来の農薬を使うことになり、撒いても止まりませんでした。それでも、1年目は通例よりも大幅に高い収量が取れたため面白く農家としてのやりがいを感じました。2年目は白星病により収量が落ちてしまいましたが、工夫や改善を重ねて、収量が安定化できつつあります。
(※)定められた範囲内で農薬や肥料を使用する一般的な農法

慣行栽培をしていた土地を有機栽培に変えるには3年かかります。3年間肥料を使わない土壌づくりを行わないと認定がもらえないのです。面積を増やしていくには時間がかかるため、耕作放棄地を活用することにより転換期間を短縮する等の工夫もしています。

そのような制約はありますが、国も掲げているように今後も有機農業は注目されていく分野になると思うので、先駆的に注目されるような農家になりたいと考えています。

”ジンジャー母ちゃん”誕生

元々は父が慣行栽培で生姜の栽培を試していました。それを有機でやることを提案し、面積を広げ、球磨川水害をきっかけに販路も拡大しました。
人吉球磨の農産物を使った加工品を扱っている会社さんが、球磨川水害で在庫を全て失ってしまったのですが、その後事業を再建されている中でうちの生姜の活用を提案し、ジンジャーシロップ等の商品を扱ってもらいました。現在でもその会社でトップクラスの売上となるような商品になっています。

また、販路拡大の一環でマルシェに出店することを決めたときにSNSのアカウントがあった方が良いと感じて、”ジンジャー母ちゃん”としてInstagramのアカウントを開設しました。普段の農作業風景やマルシェ出店の様子、出来た作物等を投稿したりしています。繁忙期に手伝いを呼びかけると10人程が手伝いにきてくれたり、マルシェでSNSを見ていますと声を掛けてもらったりして、SNSの面白さを感じています。

初めてのマルシェ出店ではジンジャーパウダーだけを販売していたのですが、大失敗でした。マルシェに来る方はそこで食べられる物を求めていると痛感し、生姜を使った食べ物を考え、2回目からは生姜焼き丼を出すことにしました。これが大変好評頂いて、今では並んで待ってくださる方も多く嬉しい限りです。

会いに行く農家、攻めの農家

販路は現在、福岡、鹿児島や四国、北海道など県外のスーパーや小売店が多くなっています。その多くはゼロから自分たちで新規に営業・開拓しました。

新規営業を自分たちでやろうと考えたきっかけは、ECサイトでした。ECサイトで個人向けに販売しているとしばしば北海道から注文が入り、なぜ北海道なのだろうかと思い、やり取りする中で、北海道では品質の良い生姜が育たず、高品質の生姜へのニーズがあることが分かったからです。また、同じ頃SNSで接点を持った北海道の会社が取引を初めてくれたことをきっかけに、その会社への挨拶を兼ねて訪問すると同時に他の会社への営業もしようと考え新規営業を開始しました。

新規の営業も最初は苦労の連続で、殆どが門前払いで話しを聞いてもらえませんでした。しかし、電話やメールだけではなく直接顔が分かるように出向いて生産者としてのこだわり、考え方などを説明することで、10件くらい回っていると一件くらいは試しに送ってみてと言ってくれるところがあり、小さく取引を初め広げていき、件数を地道に積み上げていきました。そのように苦労して活動し、収益が上がってくると面白さや遣り甲斐を感じます。

出張は費用がかかりますが費用対効果が高いです。例えば、北海道は旅費交通費が相応かかりますが、足を運ぶうちにニーズや市場価格が分かりマーケティングに役だったことと、また、訪問すると訪問先が知り合いの会社を紹介してくれたりもするので、費用以上の成果が得られます。夫婦二人で行くことにもこだわっています。出張へ行く際は予定を一杯に商談アポを入れるので、観光する暇はありませんが、夫婦二人で行くことで別々の視点で情報収集や物事を捉えることが出来、より出張を有効活用できています。

生姜料理に感銘を受け、その場で料理人へ生姜を提案

飲みに行った居酒屋で出されている生姜を使ったメニューがとても美味しくて感動したため、その場で店主へ営業をしたこともありました。品質にこだわっているお店であれば店主も味を分かってくれます。常連客に生姜をかえた?と声を掛けられることもあると言ってくださって、とても嬉しいですね。一般的に資材高騰等があっても農産物の価格は一定で農家の収支が悪化する傾向にありますが、私たちはこだわりを持ち、価値を感じてくれる人に対して、適切な価格で販売をしていきたいと考えています。

生姜作りや有機栽培へのこだわりや熱量、販路拡大による収益向上など農家の魅力を再発見できた取材でした。人吉球磨・農業未来プロジェクトでは引き続き地域の若手農家さんの取材を続けていきます。次回の取材記事もお楽しみに!


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