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話しことばで気持ちよく伝わるとは(JAIST地域人材育成セミナー:気持ちのいいプレゼンテーションが学びたい)

タイトル写真の、右側の図形を誰かに描いてもらってください。
どんな図形か、口頭でことばだけで伝えて描いてもらってください。

さあ。
なにをどう伝えたら、相手にできるだけ正確に図形を描いてもらえるかな?

では、今度は

大きめのまるを描いてください。
まるの中の真ん中に、上向きのさんかくをひとつ描いてください。
そのちょっと上のあたりに点をふたつ描いてください。
真ん中のさんかくの下に横線を1本引いてください。

さあ。
おねがいするときに思い描いていたとおりの図形が描けたかな?

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聞く側が「言っていることを聞こう」という気に自然になる伝えかた
聞いた途端に先を聞く気がなくなってしまう伝えかた
聞いている内容が、すっと自分の中に入ってくる伝えかた
がんばって聞いていても、どうにも流れてしまう伝えかた…

相手にその場ですぐに伝えたいことがある。
どう伝えたら、効果的に伝わるだろうか?

そのために気をつけることを、アナウンサーに日本語の話しかた、伝えかたを教えるアナウンサーによるレクチャーで知り、実際にやってみるという貴重なひとときを体験!


JAIST社会人セミナー2019
地域人材育成セミナー【水曜学ぶでしょう】

気持ちのいいプレゼンテーションが学びたい
 ~あなたの活動に共感を得るコミュニケーション~

2019年5月22日(水)開催のセミナーでは、NHK金沢放送局 エグゼクティブ・アナウンサーの水谷彰宏さんが講師として登壇されました。


講師:NHK 水谷アナウンサーの略歴

水谷さんは1987年にNHKに入局、全都道府県でラジオ番組を制作、報道リポーター、相撲や高校野球の実況、歌謡番組の司会など、非常に多くの「伝える」放送現場経験と実績をお持ちのベテランアナウンサーです。

2017年より金沢放送局で勤務されており、地元の報道番組などでその姿を目にすることがよくあります。金沢へ赴任する前には、NHK放送研修センターで職員研修や社会人・大学生向けのはなしことば講座を担当するなどの業務にあたっておられたそうです。


「書きことば」と「話しことば」

なにかを伝えるための言葉には「書きことば」と「話しことば」があります。当たり前のことかも知れませんが、まずはここをはっきりと意識しておきましょう。

「書きことば」というのは、例えばいまわたしがこれを書いている、いまあなたがこれを読んでいる、この文章にあることばのことですね。ほかのどなたかのブログ記事であったり、友人知人のSNS投稿の文章であったり、手紙、新聞記事、好きなマンガのキャラクターの吹き出し、気になる本、読まなきゃいけない教科書…すべてなにかに書かれた「読む」ことばです。

「話しことば」はどうでしょうか。近くの人との他愛ない雑談、壇上にいる先生の授業、目の前にいる上司の指示、このセミナー中に講師の水谷さんが発していたことばもそうです。はたまた、館内放送、演説、テレビやラジオやYoutubeから聞こえてくる、誰かが言っていること…ニュース、実況、漫才、落語、I川Jニさんの怪談…すべて音で発された「聞く」ことばです。

書きことばの特徴:
 「長い」「難しい」「残る」
 
(文の書き方を学校で)「習った」

話しことばの特徴:
 「短い」「簡単」「消える」
 
(話し方は学校で)「習ってない」

日本では昔から「書きことば」で伝えることが中心だったそうです。多くを語らないことや、必ずしもすべてを説明して言ってしまえばいいものではないという考えかたなどは、現代の日本でも文化や慣習として大切にされているようにも感じますし、おそらく現在もそうなのでしょう。

ところが、対面してのあいさつやプレゼンなどは「話しことば」です。
このような場や状況では、本来は「書きことば」ではなく「話しことば」で伝えるのが適切なはずです。

なにかに書かれていて、読むことによって内容を知る「書きことば」は、とかく長く難しくなりがちなものです。じっくりと時間を掛けてまとめ上げることができるからこそ、詳しく正確に説明をしようとしますし、表現に工夫を凝らしたくなります。

これは書いて伝えるメリットですが、声を発してすぐにわかりやすく伝えたいときにはデメリットになるでしょう。話して伝えるべき時と場合で「書きことば」と同じような調子で話したら、聞く方は「結局何が一番言いたいことやねん?」となってしまいますし、そもそも話している方にも違和感が生じてくるでしょう。

話すときには、書くときよりも、短くて平易な言葉を使っているはずです。

おっと。いま書いたこの文章↑↑↑も、書くから「平易」なんていうちょっと難しい言葉を使ってみたのであって、実際に誰かに話すときには「短くて簡単な言葉を使っているはずです」という方がより自然ではないかと思います。


ことばを音だけで伝える

音は、発されるや否や瞬時に消え去ってしまいます。
また、人は、自分が言い馴れた言葉はつい不明瞭に発音してしまいがちでもあるということです。

さらに、日本語には、他の言語よりも、同音異義語が多いのだそうです。

 私立 - 市立
 好天 - 荒天
 仮定の問題 - 家庭の問題
 真価を見せる -進化を見せる

これらのことばを見比べるとわかるように、同じ音で意味が異なったり、まるっきり反対の意味にまでなるということばの組み合わせが多いということです。

「話しことば」で伝える。
いまこのとき発されている音だけが頼りなわけですから…

一度聞いてわかることばを使う
言い馴れたことばほど、ゆっくりとていねいに発音する

これが、相手がすぐに内容を把握できるように伝えるための基本的な心掛け。

大抵の人が、普段話すときには多少なりとも自然にできていることでしょう。難しいテクニックを知って訓練する前に、自然にできていることを敢えて意識して、取り入れてやってみるのが大切なようです。


専門用語を伝えるときは

それでも、時と場合によっては、一般的には馴染みの薄い専門用語や、日常会話ではそれほど使わないような難しいことばや表現をどうしても使わざるを得ないこともあるでしょう。もしかしたら、敢えて難しいことばや表現を使うことで、聞き手にインパクトを与えるなどの効果を期待することもあるかも知れません。

そんなときには、難しいことばや表現を

 ・はじめに説明
 ・その都度説明
 ・言い換える

というやりかたがあるということです。

難しいことばをはじめに説明すると、話す時間は短くて済むというメリットがある一方で、それ以降にまたことばが出てきたときには、相手のほうがことばの意味や説明を思い出す必要がある(思い出させる労力を強いる)というデメリットがあります。

その都度説明すれば、相手には徐々に伝わるでしょう。一方で、話が本題から逸れてしまいやすいという恐れもあります。

言い換えれば、相手にはすぐに伝わるでしょうが、今度は話している自分のほうに、言い換えて説明する労力がかかってきますし、何度も言い換えて説明していたら、相手も「もうわかったわい!」ってうんざりしかねません。

万事に通用する正解というものはありませんね。
伝える相手との関係性や、場面、状況などによって、どのような伝えかたが最適なのかは変わってくるものです。


話は具体的に!順序立てて!

いちばん伝えたいこと、伝えるべきことが、相手に確実に伝わる。
それは、相手がすぐに内容を把握できるような伝えかたを、いま自分がしているかに懸かっていると言っていいでしょう。

「話は具体的に」というのは、昔から仕事やビジネスの現場ではよく言われることです。過程や、修飾的な表現や、自分の思いを先に言うのではなく、事実や結論を先に言うということです。

これは、旧来の日本の礼儀や慣習とは逆です。
ついつい、事実や結論を後回しにしてしまうのは、昔からそれをよしとされてきたし、自分たちの人生の先輩の方々がそうしていたのを自然に受け容れてきたからということがあるのでしょう。身体に沁み付いてしまっているものを改めるのは、なかなか簡単なことではありません。

しかしここは、

いちばん伝えたいこと、伝えるべきことが、相手に確実に伝わる

という目的を思い出しましょう。

「相手に確実に伝わる」というのは、つまり

自分が何かしらの内容を伝えることで、相手にどうしてほしいのか
いま、相手は、何をいちばん知りたいのか
いま、相手に、何をいちばん知らせるべきなのか

ということを踏まえて、伝える内容の順序を組み立てるということでしょう。伝える順序を考慮することは、相手に対して敬意を払うことであり、礼儀でもあるというものかと思います。


聞かなければ!と、自然に感じてもらう

インパクトを冒頭に持ってきて、「どういう内容だ?」「これは聞かなければ!」と相手に感じさせることも大切であるということです。

相手が「話の先を聞こう」という気になる伝えかたがあるわけです。
このセミナーでは、3つの手法が紹介されました。

項目数提示型:
 大切な内容がいくつあるのかをはじめに示す。
 「~のポイントは3つです!」
疑問投げかけ型:
 伝えたい内容を相手に考えさせたり想像させることからはじめる。
 「~なのはなぜでしょうか」「なぜ~なのでしょうか?」
結論先行型:
 結論や事実と、その詳細や根拠に対する興味を掻き立てる。
 「(結論や事実は)~です。そのわけは~」

このように伝えられると、自然と注目してしまいませんか?
また、どれだけ聞けばよいのか、どこが自分にとっての聞きどころなのかが先にわかりますから、聞く力もそこに集中させることができます。

こういうことも、相手に効果的に伝わる要素のひとつと言えるでしょう。


全体像を先に伝える

ここまでの話、すべて共通することがひとつあるように思われます。

全体像を先に伝えている

これではないでしょうか。

やりかたは違えども、どれも、自分が伝えたいものごとの範囲を相手に意識させているという側面があるように思います。これは、相手がどのくらいの内容や量を聞けば充分かを先に把握することであり、話し手が伝える内容の中から必要なポイント(聞くべき部分)のみにフォーカスを絞ることでもあるでしょう。

例えば館内放送のように、ある一連の伝えられた内容でも、それを聞く人によっては、必ずしもすべての内容を聞く必要はない、ということがあります。「館内放送、迷子のお知らせです」と聞こえれば、子どもとはぐれてしまった可能性のある人以外は、その先を最後まで聞く必要はないわけです。


伝えられている内容をひとしきり聞いて、最後に「自分には関係なかったやないか!」というような思いはしたくないものです。

はじめに「そのひとこと」「その範囲」を言わなかったがために、聞いた人がそれぞれ、伝えられた内容に対するイメージが変わってきてしまい、認識が合わなくなってしまう…

まるを描いてください。
点をふたつ描いてください。
さんかくがひとつあります。
横線が1本あるので引いてください。

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自分ではちゃんと伝えたつもりでも、それを聞いた相手は、必ずしもこんなふうに「人の顔」が描けるわけではないわけです…

伝えようによっては、福笑いの原型を留めないくらいのなにかを描いてしまうことだって、ありえるわけです…


グループワークで何度も伝える実験を

セミナーの後半はグループワーク。
講義の内容を踏まえて、伝えること、伝わることを、3つの例題で体感します。


「建物の中の蛍光灯を取り替える作業が近日中に実施される、という告知を知った担当者が、自分の周囲の関係者へその内容を伝える」例題、そして「迷子のお知らせをアナウンスする」例題では、

 用件(伝える目的)
 結論・状況(一言で言うとどういうことか?)
 詳細(結論の背景や・状況の詳細を説明)
 まとめ(終わりを明確にする)

伝えたい内容のうち、用件・結論・詳細にあたる部分をどれにするかという「内容の取捨選択」を的確に行うこと、さらにそれを「順序立てて述べる」ことの大切さを感じられました。

これはビジネスライティングにも通じる内容でしょう。口頭でも、メモやメールやチャットなどを用いての文面での連絡でも、伝言するという意味では共通していますので、書くことを学ぶことで「的確な内容の取捨選択」や「順序立て」のスキルを向上させることができそうです。


さらに「この記事のタイトル写真・右側の図形を、口頭での説明だけで描いてもらう」例題が引き続き実施されました。

その図形、ここでもう一度お見せしましょう。

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これ、実際にどなたかとやってみてください。

描く人はこの図形を先に見てはいけませんよ!
伝える人は「ことばだけで」伝えるのですよ!
ジェスチャー禁止!

案外難しいというか、おもしろいことになるよ…
いっひっひ

ここでは、なにかが「ある」ことだけを伝えればよいわけではなく、「ない」ことも伝えなければいけない場合もあるということに気づかされました。

「ない」ということも、伝え得る情報のひとつというわけです。


伝える相手の向こうに伝えるつもりで

最後に、アナウンサーならではのアドバイスを聞くことができました。

ひとつは、口頭で伝えるときの声の出しかたのコツ。

・伝える相手との距離の、さらに倍ほど奥へ伝わるように
・自分の普通の感覚よりも高めのつもりで

例えば、相手が自分の2メートルほど離れたところに居るとしたら、4メートルほど先に向かって伝える感覚で、やや高めのトーンで声を出して伝える、ということですね。

アナウンサーがニュースを読み上げるときなどは、目の前に設置されているテレビカメラの、さらに向こうにある壁などに伝わるように声を出すのだそうです。普段テレビをみているだけだと、そんなに声を張っているのか…!と思ってしまいそうですが、現場ではそこまで声を出して、やっと、視聴者には普通に聞こえるということのようです。

そのくらいのつもりで声を届けると、確実に相手に声が伝わるということで…わかりやすいお手本があります。そう…

ジャ○ネット○かた

これもまあ、時と場合によるのであって…頭脳労働デスクワーク系の職場の事務所でみんながこんなふうにしていたら…これ以上は申し上げないでおきましょう。


音のリズムも伝わりに影響あり

声の、音としての大きさだけではありません。
伝える一文を声に出すときの抑揚やリズムも、伝わりに影響を及ぼします。

「緊急の措置を取る必要があると言っています」

という一文を伝える場合に、どのことばを相手にいちばん伝えたいか?

緊急性をいちばん伝えたいのであれば、「緊急の」ということばをいちばん高く大きく発して、「措置が~」以降は徐々にトーンを下げていけばいい、という要領になります。

措置の必要性をいちばん伝えたいのであれば、「措置をとる必要が」ということばを強めるのが適切でしょう。


ひとつの文をどこで区切るか。
これによっても、伝える意味が変わってきます。

「青森でもらったりんごを食べました」

これを言うときに、どこで一区切りを入れるか。

「青森で / もらったりんごを食べました」
「青森でもらった / りんごを食べました」

前者のように区切ったら「どこかで誰かからもらったりんごを、青森で食べた」という意味になるでしょう。相手にいちばん伝わるのは、りんごを食べた場所のことになるでしょう。

後者のように区切ったら「青森に行ったときに現地でりんごをもらい、それを食べた」という意味になるでしょう。相手にいちばん伝わるのは、りんごを青森でもらったできごとのことになるでしょう。

文字だけでは、どちらの意味にも(さらに別の意味にも)取りようがある一文でも、最も伝えたい部分を声の抑揚やリズムで言い分けることができる、というわけです。

このように、相手に伝わる内容は、ことばだけではなく、ことばを発する音それ自体によっても変わり得るというわけです。

確かに、すごく大切なことを区切りなくのっぺりと伝えられたら、「えーと、なにが言いたかったのだろう…」と感じてしまいそうです。話されたことの掴みどころがとてもわかりにくいし、そもそも聞き取り続ける根気が続きません。

自分の発声をコントロールすることもまた、伝えたいことが確実に相手に伝わるためには大切なことだということをあらためて認識できました。


時代とともにことばは変わる

もうひとつ、話しことばの揺らぎに対する見解を知ることもできました。

平成の話しことばとしてよく言われるものに

 「~になります」
 「~のほう」(「ほう」の連発)
 「~させていただきます」(「させていただく」の濫用)
 「~ちょうだいします」

などということばがあります。

このような「そこまでへりくだる必要があるのか!?」と感じてしまいそうな言い回しは、平成以前にはあまり聞いたことがありません。少なくとも現在ほど高い頻度で使われることはなかったはずです。

ほかにも、

・「御用達」の読みは「ごようたし」または「ごようたつ」どちら?
・「全然~ある」という言い方はことばの使いかたとして間違い。
 「全然」に続くのは否定形であるべきではないか?
・「ごくろうさま」は目上の人に使うべきではないあいさつではないか?

という、ことばの読みや用途の適切さの問題もあります。

以上の例はすべて、どちらが正しいか誤りか、というものではないのだそうです。昨今、ことばの使いかたとして間違っていると思われがちなことも、明確な根拠があるわけではない、と。

ここにあるのは「正しいか誤りか」ではなく「快・不快の感覚」
世代によって感覚が異なるという類のことだそうです。

時代とともにことばは変わるというのは、なにも平成に始まったことではありません。平成ことばに不快感を覚える方(わたしを含め)も、かつては、自分たちよりも上の世代が不快感を覚えるようなことばや表現を無意識のうちに使っていたはずです。

そこを「正しい」「誤り」というふうに捉えるのではなく、世代間の方言とみなして寛容に捉えるのが落としどころではないか、ということです。なるほど。


さいごに

以上のように「話しことばで効果的に伝える」ことがテーマのセミナーとなりました。タイトルに含まれた、プレゼンテーションの場面にも当然必要となることですが、あらゆる場面で、相手に、グループに、大勢に効果的に伝えることの原則を、ベテランアナウンサーから惜しげもなくレクチャーしていただけた機会であったと思います。

それにしても、こうしてひととおり振り返ってまとめてみると、こんなに盛りだくさんの内容が詰め込まれていたことに驚いてしまいました。セミナーの場に居るときは、これほどまでに盛りだくさんという感覚はまったくありませんでしたが…

それはおそらく、水谷アナウンサーの、セミナー講師役としての伝えかたが的確であったということなのかもしれません。

なにかを書いて伝えることが多いわたしも、話して伝えることが決して苦ではなくなってきて、話して伝えること、伝わることに嬉しさを感じ、かつ、奥深さを楽しめるようにもなってきたように感じられます。

そんなきっかけのひとつになったセミナーのひとときでした。

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