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警戒心を感じる

生き物の警戒心を感じる、警戒心の強さを感じる、その警戒心を解いていく、ということが、生き物と「対峙する」ことの醍醐味の一つだと思っている。スキューバダイビングや野鳥観察を楽しいと感じる理由の一つは、間違いなく警戒心を感じられる点にある。

これまで出会った生き物を振り返りながら、その醍醐味について考えてみたい。

ただし、生き物を必要以上に警戒させると ストレスを感じさせてしまうだろうし、食事など生きるための他の活動に割く時間を奪うことになるということを忘れないようにしたい。

クマノミとは本当によく目が合う。じっと見合う。イソギンチャクの中なら平気、と余裕に構えているのか、もしものことがあれば受けて立つ、という覚悟の現れなのか。それともすぐに立ち去ってくれと願っているのか。何か訴えているような目をする。いつも数秒は見合う。

ヒレを広げて悠々と泳いでいた(歩いていた)ホウボウは、視界に僕が入りこむと明らかに態度を変え、ヒレを閉まって逃げてしまった。緊急避難というよりは、一応避けておくか、というゆっくりとした逃走だった。こちらもゆっくりだったからだろう。無駄なエネルギーは使わない。

イシダイの幼魚は、警戒心なんて微塵もなくて、よく遊んでくれた。とても人懐っこく、ダイバーを口先で突っついてきたりする。人が多い場所だったこともあり、余計慣れている風だった。成長するにつれて、徐々に警戒心が備わっていくのだろうか。

干潟のカニ

生き物が違えば、警戒心の強さや範囲、人に示す行動も当然異なる。ところで、同じ種類の生き物でも棲む場所によって警戒心の強さが違うと感じたことがある。

干潟に巣穴を掘る、シオマネキというカニ。たまたま日本とインドネシアで観る機会があった。僕の印象として、日本のシオマネキは警戒心が強くて、急に距離をつめすぎるとすぐに巣穴に隠れる。でも、襲われないと分かれば、ゆっくりと巣穴から現れ、土中の有機物を食べ始める。安心して出てきてもらうまでには少々時間がかかる。一方で、インドネシアで出会ったシオマネキは、近づいてもなかなか巣穴に逃げ込まない。それがとても印象的。本当に近くまでいって、やっと巣穴に逃げ込む。明らかに警戒心が薄いと感じられた。その分、他のことに注意を払えるんだろう。

日本で出会ったのは観光スポットにもなるような場所。インドネシアでは田舎の方。人と出会う頻度の違いが警戒心の強さに違いを生んでいるのかもしれない。もちろん天敵の数が違うのかもしれない。生き物の感覚や行動は、生まれ持ったものだけでなく、環境によっても変わってくる。それは生き物にも「慣れ」があるということであって、おもしろいと思う。また、脅かすようなことをしなければ、哺乳類でなくたって、カニだって心を開いてくれたようにいつも通りの生活を見せてくれる。

カワセミは、人の多い公園では比較的警戒心が薄いように思うが、自然度が高い場所では警戒心が強いという印象。僕は気付かないうちに近づきすぎてしまうことが多い。とある日の光景。何を見ているのかと思ったら、上空のかなり高いところを飛ぶトビを目で追っているよう。僕はトビの存在には全く気が付かなかった。生き物によって天敵は違うし、持っている感覚も様々なのだと思う。

生き物との距離感を楽しませてくれるという点では、サギがとても好きだ。ダイサギやコサギといったシラサギは、自然の中でもとても映える。とてもきれい。泥の中を抜き足差し足、ゆっくりと歩いている姿に見入ってしまう。サギを見つけると、狩りをする様子なんかが観たいと思い、つい近づきたくなる。でも、距離感を間違えると逃げられる。うまくいくと、横目でチラ見される程度で済む。まあ顔の横に目がついているので、彼らにとってみれば、正面からガッツリ見ているような感覚かもしれないけど。僕の存在に気付いていても、まあいいか、とそのまま居てくれることがある。もう少しサイズの小さいスズメサイズの鳥だと、こちらを意識してくれているのか、まだ僕には分からない。サギくらい大型であれば、こちらを認識してくれていることが明らかに分かる。

野生の生き物がこちらを意識してくれて、そのうえで放置してくれるというのは、自然とかけ離れた生活をしている僕にとって、自然と関われる限られた瞬間だ。ほっといてくれるようなら、こちらも座ってゆっくりお茶でもする。気付かれないようにこっそり見るわけでもなく、互いを認識して、でもお互いリラックスする。あとは、時間の許す限り普段の生活を見させてもらえる。それが、サギのことが好きな理由だ。

こうして色んな生き物を例に挙げると、生き物の種類によって、棲む環境によって、タ
イミングによって、生き物の警戒心の強さは違っている。生き物の警戒心を解くことで、中には心を開いてくれたかのようなそんな気持ちにさせてくれたりもする、僕はサギが好きだが、時間を共有してくれる、気の合う相手は、人によって様々なのかもしれない。

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