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『かみきこうち』発売! 高知に、かもん! 高知は、かまん!

『かみきこうち』が、いよいよ発売された。
流通状況によっては発売日を前にして書店に並んでいるところも多かったようで、すでに手に取ってくださったどころか、早速読み進めてくださった方もいらっしゃって、SNSに投稿された感想を眺めては、ありがたい気持ちでいっぱいになっている。

書籍帯にデザインされた神木くん本人のメッセージにもあるように、高知は本当に奇跡の県だと僕も思う。高知の風土が育む高知の人たち独特のおおらかさは、人のダメなところをあげつらうばかりなSNSの世界と、嫌々ながらも付き合い生きる僕らにとって、救われる思いになる。

これまで何度も高知に訪れている僕は、高知の人たちの「かまんかまん(かまわないよ)」という言葉にどれだけ助けられたかわからない。「かまん」という三文字に内包された愛に触れるべく、僕は高知に訪れている。

話が飛ぶようだけれど、かつて僕が住んでいた頃(2000年代初頭)の大阪もそういうおおらかさがある町だった。何よりそれが魅力で大阪に住んでいた僕は、橋本さんが知事になった頃からか、大阪のおおらかさが少しずつ消えてしまって、ずいぶん生きづらくなってきてしまい、大阪を出た。

その頃、最後のあがきのように、吉本興業さんとつくったのが、「おおらかべ新聞」という、大阪の街中に掲示する壁新聞型のメディアだった。

せせこましく、サイズで言うなら「S」になってしまった大阪人の心を「L」に変えたら、

O「S」AKA= OSAKA

O「L」AKA = OLAKA(おーらか)

おおらかになる! という思いつきから吉本興業の会長の大﨑さんにプレゼンをしてつくらせてもらった壁新聞だった。読後に思わず「おおらかやなあ〜」と呟いてしまうようなネタを、タナカカツキさん、和田ラジヲさんなど、錚々たる漫画家の方たちに漫画にしてもらった、あのメディアは僕のなかの陰の代表作だと自負している(というか個人的に大好きなだけかも)。僕はとにかく、大阪の街だけでなく、いまの日本に、ひょっとしたら世界に足りないものの一番が「おおらかさ」だと思っている。

そんなおおらかさを常に小脇に抱えていた頃の大阪人の、最も愛ある言葉は「かまへんかまへん」だった。いつしか「かまへん」が聞こえなくなって、僕は「かまん」を聞きに高知に通ったのかもしれない。

話を戻す。

それゆえ、取材を終えた神木くんの口から、書籍帯にあるような言葉が出てきた時に、僕は心底共感したのと同時に、そんなふうに言葉にしてくれた彼の感性を信じてよかった! と、編集者として心底嬉しい気持ちになった。

そこで今回は、編集者の立場から「かみきこうち」における、それぞれの取材に込めた思いや意図を伝えさせてもらい、見た目とは裏腹に文字数もしっかりな本書を読み進めていただくためのアテンドができればなあと考えた。

かみきこうちの表紙は、神木くん本人の写真をベースに四国在住のイワサトミキちゃんによる(10年越しの願い叶って初お仕事!)イラストがコラージュされた、とてもかわいいものになっているけれど、実のところその内容は意外にもかなり骨太だ。「かみきこうち」を読む前でも後でも、どちらでもよいので、本書をより深く理解いただくヒントにしてもらえればと思う。


1、「にいちゅう二人」

高知在住のデザイナーである梅原さんは、一次産業と言われる、自然の恩恵をベースに作物をつくったり採取したりする職業のみなさん、具体的には農家さんや漁師さんなどをデザインの力で応援しつづけておられる。そんな梅原さんだからこそわかる、高知の風土に紐づいた、高知の人たちの魅力を、まずは神木くんに伝えて欲しい。そんな意図で、梅原さんのもとに向かった。するとまあ、初対面とは思えないほど、2人の会話がはずむはずむ。冒頭の取材にして、もう今回の本がいいものになること間違いない!と確信できたそんな豊かな時間だった。まさに「かまんかまん」の精神で、高知とは?高知人とは?をおおらかに、明快に、答えてくれた梅原さんに誰よりも先に会いに行ったことは、本書の取材を進めていくにあたって、やっぱり正解だったように思う。

2、かみきのかみづくり

牧野植物園で見た、実に素朴ながら、なんとも素敵な土佐和紙の照明。神木くんが一目見た瞬間に「かっこいい!」と言ったその照明をつくっているロギールさんのもとへ向かったのは、神木くんに紙漉き体験をしてもらいたかったことはもちろんのこと、実はそれ以上に、ロギールさんという人が40年以上前にオランダから高知にやってきた、よそ者だったからだ。
神木くんは半端ない集中力で紙漉きに取り組みながらも、最後に、ロギールさんの口から、高知の人独特のオープンな気質についての言葉を引き出してくれて、インタビュアーとしての優秀さに驚いた。ちなみに、牧野さんのように、周辺にある植物を眺め、採集し、それを漉き込んでできた神木くん作の和紙が表紙デザインのベースに敷かれていることには、気づいてくれただろうか。

3、海の牧野植物園?!

高知と言えば、海の風景を思い出す人も多いと思う。さまざまな地方に赴くことが多い僕は、いま、日本各地の海に大きな変化が起こっているのを感じている。たくさん獲れていた魚が獲れなくなったり、またこれまでは獲れるはずのなかった魚が獲れるようになったり、海の中で起こるその変化は、実は地上で暮らす僕たちの生活と紐づいている。そのことに思いを馳せてもらうためには、まず、そんな海の中の現状を知ってもらうことが最初だと、神木くんを連れて柏島に向かった。結果、神木くんのインタビューのおかげで、まさに海の話が遠い土地の話ではなく、自分たちに直結していることだと気づいてもらえるよい対話になったのではないかと思う。

4、次世代にわたすバトン

その土地の「風土」を知りたければ、その土地の「food」を知ることが一番だと常々思っている僕は、神木くんに郷土料理を味わってもらうだけではなく、それをつくるという体感を通して、土地の歴史や背景、気候や環境などについても感じてもらえればいいなと思い、松﨑先生のもとに伺った。しかし実際は編集者としての僕の想像をはるかに超える展開になり、本書のなかで個人的にもっとも大好きな章になったかもしれない。96歳を超えた松﨑さんだけど、神木くんに会えた喜びの発露がとても溌剌としていて、そのエネルギーに神木くんがまた感化され、2人の関係が急速に近づき、それにつれて深まっていく会話に僕は釘付けになった。神木くんの温度ある受け答えに、僕も本来意図していなかった、料理以外のお話。具体的には女性の社会参画に対する、松﨑さんのこれまでの実践やその思いについてお話を伺うことができて、本当に驚いた。いまでこそ、ジェンダー問題を当たり前に認識、改善したいと思う僕たちだけど、それを何十年も前から取り組み、そのお陰でいまの世界があることに気づかせてくれた、とても意義深い取材だった。僕の意図を超えたギフトをくれた、この章の神木くんの振る舞いは僕にとって忘れられない経験となっている。

5、サステイナブルな高知の暮らし

今回、実のところ僕がとても意識していたのは、まさに章タイトルにあるような、僕たちが向かうべき未来の暮らしのヒントが高知にはあるんじゃないか? ということだった。海の話でもあったように、日々便利になっていく僕たちの暮らしは、その一方で地球環境に大きな負荷をかけてしまっている。ならば、できるだけ環境負荷をかけないものづくりや、暮らしをしていくことが大切だと思うものの、実際に何からどうはじめればよいかわからなかったり、特に都会に住んでいると、頭ではわかっていながらも、どうしてもそこに蓋をしたまま生活をしてしまうゆえ、そこにまっすぐ向き合う人のお話を聞いてみたいという気持ちから、服部さんご夫妻への取材を試みた。
そんな難しいテーマを持ってのぞんだ取材にもかかわらず、服部さんたちのおおらかさと、神木くんの多方面に対する配慮とやさしさのおかげで、頭ごなしに便利な暮らしを否定するのではなく、楽しく、美味しく、それでいて環境にもいい暮らしのヒントが垣間見えたように思う。明確な答えがあるわけではないけれど、読者のみなさんにそっと「問い」を投げかけるような、最後にふさわしい取材になった。


ということで、ザックリというにはずいぶん長文になってしまったけれど、このnoteが、『かみきこうち』を起点にそれぞれの日々について考えてもらう手助けになってくれれば良いなと思う。とはいえ、各章の合間にはシンプルに美味しいものや、美しい風景や、素敵なお店などの情報もたっぷり掲載している。とにもかくにも、神木くん本人も含め、僕たち書籍制作チームの一番の思いは、この一冊を持って高知に訪れてほしいということ。

さあ、高知にカモン! 高知はいつでもかまん!


ここから先は、定期購読いただいているみなさんにむけた、高知のおすすめスポットなどの写真です。神木くんの写真や、それに触れる記述など一切ありません。

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