熊本が好きな理由

 俳優の佐藤健くんが企画し、旅のコーディネートや原稿執筆などお手伝いさせてもらった「るろうにほん熊本へ」の写真展が、4月30日まで熊本市の長崎書店と長崎次郎書店の二店舗で同時開催されている。

 その搬入のために四月頭、桜満開の熊本へ向かった。こうやって旅の多い仕事をしていると、まるで花を求めるミツバチのように桜の開花をなぞりながら北上することがある。いまはもう4月半ばだから、熊本はもちろん、住まいのある兵庫県の西宮の桜もすでに緑が目立ちはじめたけれど、それでも月末あたりに東北入りすれば、まだまだ桜が楽しめるだろう。あらためて幸福だなあと思う一方で、桜は儚いからこそ良いのになとも思う。

 見たいものを能動的に見に行くことでは得られない、偶然の幸福というのがあって、旅先の桜はそれだ。しみじみと思い耽る幸福とは違う、独特のテンションを伴うそれが大好きで、だから僕は旅に出るのかもしれない。

 熊本に入る直前、いつもお世話になっている熊本市職員のSさんからLINEが届いた。「ふじもっちゃん、いつ熊本入りだっけ?」僕が入り日を返事すると、しばらくして「連れて行きたかった居酒屋さん押さえたよ」と返ってきた。嬉しい。さらに「地元のクリエイターも誘ってます。楽しみにしててね」最高だ。Sさんはとにかく仕事が早くて、なにより、お願いごとに対してNOの返事を聞いたことがない。こちらがなぜそれを必要としているかを察知して、なんとかしようとしてくれるのだ。こういう行政職員さんらしからぬ存在が、僕らのクリエイティブをどれだけ支えてくれていることか。「るろうにほん 熊本へ」がとても充実した内容になったのも、ほんとSさんのおかげだ。

 無事に搬入を終えて、Sさんが予約してくれた水前寺公園近くの居酒屋『五郎八(いろは)』へ。中心街から少し距離があるにも関わらず店内は大盛況。しかし見回してもSさんの姿がない。まだ来られてないかな? と思ったら、さらに店の奥に広いスペースがあり、ボトルキープされた一升瓶が並ぶその前に、Sさんと同僚のみなさん、そして声掛けしてくださったクリエイターのみなさん、全員で10人もの方がいらっしゃった。一目見ただけで伝わってくる濃い顔ぶれに、間違いなく充実な夜の予感がする。

 「俺たちはいつも食べてるけん、ふじもっちゃん食べて食べて」と言われるままに食べた、馬刺しに馬レバ刺しに馬ホルモンと、熊本定番の馬づくしがとんでもなくウマい。こりゃあ人気なわけだ!

 いろんな地方に伺うけれど、仕事でもプライベートでも、その後何度も訪れることになる地域の特徴は、まさにこの夜のように、役所の方と地元のクリエイターが一緒にワイワイやってる町だなとあらためて思う。互いのリスペクトのうえで、冗談を言い合いながらプロジェクトをつくったり、すすめたり、こんな風に何かが生まれていく場所や時間がある町は信頼できる。そんなことを思いながら、飲めるとてもよい時間だった。

 ↑このもやし炒め、なんかやばいやつ入ってるんじゃないか? ってくらい、箸エンドレス。

 ↓そしてこのもやし髭な彼が、いま熊本で人気ナンバーワンな絵描きの松永健志くん。写真から伝わると思うけど、めちゃくちゃいいやつ。だからみんな大好き。

 彼の作品はぜひ以下の記事から。奥さんの裕子ちゃん、ほんと愛に溢れてる。

 そんな熊本だけど、こうやって親しい友人たちと出会うまでは、とても保守的な町という印象だった。それはもう、くまモンの広まり方を見ても一目瞭然だ。くまモンのむこう側に、いろんな思いをもった沢山のクリエイティブがあることくらい想像できる。ここまで多くの人が右に倣えになれるのは、すこし異様なことだと感じていた。
 だけど、だからこそ、そんな町には突出したアバンギャルドが存在するのだとも思う。

 それは帰りがけに寄った『橙書房』で、石牟礼道子渡辺京二坂口恭平という熊本ゆかりの作家たちの名前をみていたときにも思った。弱者に寄り添う強い優しさが熊本にはある。僕がはじめて、そんな熊本人気質を感じたのは、以下のエントリーにも書いた、この出来事だった。

 2009年、あてもなく長崎から熊本へ入った僕が、ツイッターで「誰かとめてくれませんか?」と呟いたら、「うちに泊まりますか?」と招いてくれたのが、熊本市で「haco」という写真屋を営む平田さんご夫婦だった。もちろん初対面なこの平田さんとの出会いから、熊本のいろんな友人たちとのご縁が生まれた。ちなみに店主の平田克広さんのインスタグラムがすごく素敵で、フォロワーは1万8千人を超えている。

 そうか、そもそもこの平田さん自身が随分アバンギャルドな人だ。フィルムからデジタルに代わり写真プリント業界が斜陽産業の代表のように言われてた10年前に、家業だったとはいえ、店をリフォームして「haco」をはじめたその決断自体が相当ぶっとんでるといまあらためて思う。でもそこにあったものは、きっと社会的に弱く陰りをみせはじめたフィルムや写真プリントへの愛だったんだろう。そうか、それこそが、僕が熊本が大好きな理由だ。

 熊本地震からちょうど3年が経つ。当時、なにか編集のチカラでできることはないかと闇雲に熊本入りを決めた僕が、奇跡のようなタイミングでアミューズさんから「るろうにほん 熊本へ」の編集依頼をいただいたのも必然だったように思う。僕はそもそも熊本の人たちに助けられ、熊本に勇気付けられていたんだ。健くんがアクションを起こしたのも、きっと似た気持ちだったんじゃないだろうか。

 あらためて、みんな愛に溢れたいい顔してる。
 熊本LOVEだ!

 これを読んでくださったみなさん
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藤本智士(Re:S)

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Re:S note(りすノート)

2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。
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