星月リア(Rea)

文章を書くのが好きです。noteでは短編小説や短歌、エッセイを書きます。編集・ライター…

星月リア(Rea)

文章を書くのが好きです。noteでは短編小説や短歌、エッセイを書きます。編集・ライターをしていて、情報紙やWebを作っています。コーヒーとチョコレートが生きる糧。

マガジン

  • 恋つばのこと

    YouTube恋つばチャンネルについてのエッセイです。

最近の記事

おばあさんかもしれない(ショートストーリー)

お母さんから渡されたお使いものを持って、おばあさんに会いにゆく。 おばあさんの家は隣町にある。私の家から歩いて15分ほどの距離。ここらは駅から少し離れているせいか、私の住む町よりどこかのんびりした空気が漂う。道路の端をトテトテと三毛猫が歩を進め、ふとこちらを見上げて「みゃあ」と鳴いた。どこかの家の庭先で、ひょろりと伸びた茎の先に花をつけたヒマワリが、かすかに揺れる。 お盆を過ぎたとはいえ、まだまだ午後の日差しはまぶしく、アスファルトを強く照り返している。どこからか、セミがジー

    • おとこともだち(ショートストーリー)

      大学2年生の春、講義を受講するためのオリエンテーリングに出席したら、たまたま隣の席に座っていた男子に話しかけられた。名前は加藤君。彼は1年生の時、仮面浪人をしていたせいで、ほとんどの単位を落としてしまったという。 「入試には失敗しちゃったんだ。だからこの学校に通って卒業するって決めた。けど友達がいなくて。もし良かったらどんな授業をとればいいか教えてほしい」 と言われた。 加藤君の第一印象は「爽やかな人」だった。身長が185センチくらいあってイケメンの部類に入る、キリッとした

      • 蒼い空に抱かれて(短編小説)

        僕たちはあの頃、互いの体温がないと生きていけなかった。 焼けつくような気持ちを触れあわせていた。 あの頃の僕たちのことは、まるで映画のワンシーンのように、ひとつ残らず心の奥に刻まれている。 1.青空に飛ぶ2019年8月  僕が再び“姫”のことを考えるようになったのは、1通のメールがきっかけだった。 【横浜市立●●中学校同窓会のご案内】 仕事の合間にプライベートのスマホをチェックしたら、この件名のメール が届いていることに気づいた。 中学の同窓会のお知らせを受け取るの

        • 櫻の花は今が盛り(ショートストーリー)

          風がひとひらの花びらを運んできた。私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。 「…ん…」 私の指の気配に気付いた彼が、少し顔を歪ませた後、薄く目を開けた。 「あ、起こしちゃったね」 私はそう言い、自分の太ももの上にのった彼の頭をゆっくりと撫でる。 「桜の花びらがついてたからとったのよ」 「そっか…俺、ずっと寝てたんだね」 彼は呟いて、大きなあくびをした。うららかな春の日差しが、彼を優しく包んでいる。 ◆◆◆ 今日は珍しく午前中から会えた。 彼が暮らす社員寮の近くに

        おばあさんかもしれない(ショートストーリー)

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        • 恋つばのこと
          4本

        記事

          “静かな共鳴”で世界が広がる~14歳の時に書いた作文を読み返して思ったこと~(エッセイ)

          先日、実家に帰った時のこと。置きっぱなしだった書籍を持ち帰ろうと自室だった部屋の本棚などを漁っていたら、B5判の薄い冊子を見つけた。 タイトルは「ジュニア作文 作品集」。発行はNHK学園。 私が中学2年生、14歳の時に受講していた通信教育講座「ジュニア作文」で、年に2回出していた作品集だ。 ここには、受講生が提出した作文の中から選りすぐったものが掲載された。手元にある2冊の作品集には、私が書いた作文も載っている。 私が、この「ジュニア作文」を受講したのは1年間だった。月に

          “静かな共鳴”で世界が広がる~14歳の時に書いた作文を読み返して思ったこと~(エッセイ)

          夜の闇に逃げる(ショートストーリー)

          私の婚約者は3ヶ月ほど前に、私を裏切った。 車の中にあった、私のものではないピアス。洗面所の片隅にそっと置かれたヘアピン。作為的な痕跡を次々とみつけてしまった。次第に見て見ぬふりができなくなり、婚約者を問いつめた。 「ごめん」 婚約者はあっさりと浮気を認めた。 「どうして?」 「出来心なんだ」 と婚約者は言った。 仕事で大きなプロジェクトを任されてストレスを感じていた。その忙しさで君との結婚の準備がままならなくなって、喧嘩が増えたとき、つい魔がさしたんだ…。 ちょっとした

          夜の闇に逃げる(ショートストーリー)

          僕と君の愛情は~AとBの物語~(短編小説)

          ゲイのA君とノンケのB君のお話です。 キスから始まり徐々に心がつながれていき、でも、お互いがお互いのセクシャリティの違いから、なかなか深く踏み込めずに悩む様子を書きました。 彼らの心の内をまとめたような、そんなお話です。 第1話 告白1(ゲイのA君の気持ち) 生きているだけでえらいんだよって君は言うけれど 俺は、できることなら君に殺されたい まっすぐで誠実に世の中を見つめる君に 真面目で正直で正義感の強い君に それは 俺を忘れないでほしいから 不誠実でだらしなく、斜めの視

          僕と君の愛情は~AとBの物語~(短編小説)

          月が見ていた(ショートストーリー)

          行きつけのバーは今日も賑わっていた。 俺はカウンターの隅で1人静かに飲む。 半年ほど生活を共にしていた人と別れたばかりで時間をもてあまし、毎晩のようにこの店に通っていた。 「次はどうなさいますか?」 バーテンが声をかけてきた。 「あぁ。酔えればなんでもいいよ」 そう言うと、バーテンはグラスを拭く手を止め、じっと俺を見た後、口を開いた。 「あの…この間からあなたを見てきて、どうも何かを忘れたいのに忘れられない、そんな悩みを抱えているのではないかと思っていました」 「

          月が見ていた(ショートストーリー)

          それでも僕は光を集めた(連作短歌)

          果てしない光の洪水追いかけて つかむ手のさき君がこぼれる まばゆさと一途なひかり焼きつけて 心は絶えずうつろいさまよう 枕元隣で笑う君に飛び乗るベッドのなかで星がまたたく 銀髪の陰で瞼の惑う揺れ 毛布に潜る君のやさしさ きらめいた夜空の星の真ん中でほどけた心をつなぎ直して 柔らかな光の君を抱き寄せて目が覚めたなら独りだと知る   コツコツと積み上げた日々が壊されて それでも僕は光を集めた

          それでも僕は光を集めた(連作短歌)

          僕の薔薇が咲く日まで(ショートストーリー)

          君の胸の中に薔薇が棲みついたのは、夏が始まる前のことだった。最初はなんだか変な咳をしているな、と思っていた。医者に診てもらうと、「レントゲンに薔薇が映っている」という。そんな馬鹿な。 「これは一種の奇病ですな」 施す術はないという。鎮痛剤をもらい、僕たちは家に帰った。 咳はどんどん長く、頻発していき、その度に君は苦しげに呻き声をあげた。 ある晩、一緒にベッドで寝ていると、君はひどく咳き込んだ後、真っ赤な花びらを口から吐き出した。何枚も、何枚も。 僕は、白いシーツの上

          僕の薔薇が咲く日まで(ショートストーリー)

          祖母と母と私の已己巳己(いこみき)

          ある年の夏、秋田県の男鹿半島を旅した。 私と父母と弟、そして母の母-私の祖母とで。 父の運転する車で半島の海岸線を走る。 助手席に座る母の顔色が青い。原因は聞かなくても分かる。車酔いだ。 私と祖母は顔を見合わせて笑った。 私たち3人は乗り物に滅法弱い。たいてい誰かが酔っている。だが不思議なことに、3人同時に気分が悪くなることはなかった。2人が酔うと、残る1人は気持ちがシャンとするのかもしれない。 時刻はお昼。ここらには地の海鮮を食べさせる店が多い。私たちは「ウニ丼」の看

          祖母と母と私の已己巳己(いこみき)

          雲の向こうで翼を広げて(連作短歌)

          「忘れられずに」 羽休め むき出しの愛にしがみつく どこでもないどこかに行こうよ 僕と君 つないだ手と手 離したら 色彩のない世界がにじむ 君の温もり唇の柔らかさ  消えない肌の記憶たどりぬ 「焚き火」 揺らめいた焚き火の炎その先に ためらい動く君のくちびる 君にまた会いたくて焚き火飛び越えて 凍った笑顔を吐息で溶かす 肩寄せてまどろむ姿 笛吹きに 連れ去られぬようしるしをつける 「煙草」 紫煙の匂いが好きなの ざらついた愛を吸いこみぼんやりと啼く 少しだ

          雲の向こうで翼を広げて(連作短歌)

          僕は僕の喜びを(連作短歌)

          「別れ」 たべてねておこってゆるして共白髪 さいごは微笑う覚悟がほしい つややかな微笑み残して星の夜  対岸に消える君をみおくる 「僕ひとり」 贈られた薔薇を吊るしている壁で 逆立ちぐらぐら我慢くらべ 日だまりの床で抜け毛を探す僕 甘える猫はもういないのに 君のない世界で僕はひとりきり  秋刀魚の腹を割っておしゃべり 「幸せ」 湯気ゆらり露天にザブリ飛び込んで 愛にくるまれたあの日のように 秋晴れのうろこつかんですべり台 肩で風きり君に届ける たとえ明

          僕は僕の喜びを(連作短歌)

          孤独と愛と(連作短歌)

          「愛」 君に会う数億光年飛び越えて絡んでほどけるペペロンチーノ ぴょんぴょんと黄金のヒヨコいとしくてそのままでいて寝癖の朝に 安いよねおいしいよねとフライパンはみ出るハラス夢のおはなし 君の手も笑顔も声も幾千度 切ってつなげて永遠ループ すみっこでうとうとする君触れもせで まつ毛の陰をただ見つめてた さみしいの? 君が尋ねてかき氷 ひとつふとんに星がこぼれて 「桜」 地ビールを掲げて花折り青い空はらはらはらと孤独降りつむ 肩に散る花のかけらのはかなさを くい

          孤独と愛と(連作短歌)

          “世界”が彼らに揺れていた~恋つばの守破離について考える~

          2020年7月4日、私が最も推しているYouTuber「恋つばチャンネル」(「バイとノンケの物語-恋つば-」)が、無期限の活動休止を発表した。 休止に至った経緯はこちらの動画で詳しく語られている。 もう、待っても待っても、彼らの動画は更新されない。悲しい。彼らに会いたい。過去の動画を見直す。すると、彼らは相変わらず、画面の向こうでお互いに見つめあい、ニコニコ笑いながら話している。夢と希望がいっぱいの、幸せそうな顔で。私は活動休止のことなんて忘れて、つい一緒になって笑ってしま

          “世界”が彼らに揺れていた~恋つばの守破離について考える~

          表舞台から消えてしまった人気者と、そのファンの話(ショートストーリー)

          Twitterのタイムラインに流れてくる「診断メーカー」(面白いお題を自由に作成できるソーシャルサービス)。誰かが作成してくれた“診断”について、自分のアカウント名などの名前を入力すれば、診断結果が出てくる手軽さが人気。 気に入った結果をツイートすれば、仲間内で盛り上がりますね。 最近私のタイムラインに流れてきた“診断”が「こんなお話いかがですか」。 名前を入力すると、「お話」の始まりと結末がランダムで出てくるというもの。 これを使って出てきた、始まりと結末の文章を使ってシ

          表舞台から消えてしまった人気者と、そのファンの話(ショートストーリー)